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急増するメンタルヘルス不調による休職者。その時お金はどうするのか?

増加傾向にある、メンタルヘルス不調での休職者数。もしもそのような状況となった際、回復後のスムーズな復職のためどのような準備が必要となってくるのでしょうか。今回のメルマガ『バク@精神科医の医者バカ話』では、現役の精神科医で内科医としての実績を持つバク先生が、「復職を勝ち取るためにやっておくと良いこと」をレクチャー。併せて誰もが気になる「休職中のお金の話」も紹介しています。

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休職から復職への道!会社や産業医が何を見ているか?休職中の過ごし方のコツ

今回は「休職後、復職をしようとする時にどのような準備をしておくと産業医面談がスムーズか?」を解説しようと思います。今休職中の方、これから休職しないとダメかもしれない方、休職した部下がいる方など幅広くご活用頂けたら幸いです。

産業医ってそもそも何?

このメルマガのスタートから「え?産業医って何?」となった方も多いかもしれませんので、産業医とは何者なのか?を最初にざっくり書いてみます。

よく誤解されていることがあるのですが、産業医は会社(雇用する側、雇用者)の味方ではありません。かと言って会社に雇われている労働者(被雇用者)の味方でもありません。

産業医の職務は労働者が働く環境を視察などして健康被害が出ないかチェックし、長時間労働をさせられているため健康被害が出そうな場合は会社に労働時間などについて改善できないか提案したり、健康診断(これ受けているだけだと何でやってるんだろうってなりませんか?私はなりました)の結果をみて今後健康被害が出そうな労働者に受診を指示したり教育を行ったりしながら 「労働者が健康維持をできるように動く」ことを目標 としています。

これらの業務は診察ではないので以前のメルマガで書いた「臨床研修」を修了していない医師でも産業医業務を行うことができます。

【関連】現役医師がカラクリ暴露。なぜ医師国家試験の合格率は異常に高いのか?

うちには産業医がいません!というのはどこで決まる?

「あ~なんか産業医がいるって話は聞いたことあるけど見たことないなぁ」って人もいるでしょうし、「いや?うちには産業医いるって聞いたことない…」という人もいるでしょう。会社は実は労働者が50人以上~3,000人働いている場合は産業医を一人(労働者が3,001人以上~の場合は二人)選任しないとダメと決められています。うちにはいないな?という人は会社の労働者の人数が49人以下の場合かもしれません。

でも「49人なら選任しなくていいんだ!」というわけではなく、「1~49人の労働者がいる会社は産業医の選任が努力義務」と決まっているので結局は選んでおいたほうが良い雰囲気になっています。

その他特殊業務に従事している労働者の人数や専属産業とか嘱託産業医とか49人以下の事業所でも産業医を紹介してもらえるルートの話もありますが今回のテーマから外れているので割愛して次に進みましょう。

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心身の不調を抱えて仕事が前のようにできない……を予防するのも産業医の仕事

人間生きていれば色々あります。体は元気でもメンタルが折れてしまうような目に遭ったり、メンタルが元気でも急に体調を崩したりしてしまうと前と同じように働くことが困難になることも当然あります。

それを ある程度で防いでめちゃくちゃ悪化する前に受診につなげるのが産業医の仕事の一つです。健康診断をやってるのはポーズでもなんでもなく、産業医がその結果を見て「○○さんの血圧が高いからこのままだと突然脳卒中になるかもしれないから受診を指導しないと」とか「△△さんのストレスチェックの結果がとても悪いから早めに精神科へ受診をうながそう」とかそういうのを判断することで、「いきなり職場で倒れる労働者」の発生をなるべく減らすことが産業医の大事な仕事の一つです(就労時の姿勢を視察して腰痛予防で職場の環境整備を会社に提案したり、などもやってます)。

ここでちょっと疑問が出るかもしれません。「産業医がそのまま治療したらあかんのん?」と。

産業医は診察治療はしない(例外については下記に追記あり)

上記にも書きましたが産業医の資格取得には臨床研修を必要としません。そもそも「産業医業務は診察ではない」という大前提があります。大体の医師は2年間の臨床研修を修了してから臨床をしつつ産業医をやっていたりしますが、極論、臨床研修を修了していなくとも産業医業務は出来ます。

この辺りめちゃくちゃややこしいのですが、産業医として労働者に介入できることは「受診を指導する」ことであり、 産業医には「診察をして休業の是非を決定する」ことは業務的に求められていないし、してはいけません。診察の上で「これは休業しないとダメだな」と判断するのはあくまでも「主治医」の仕事なのです。

ですから時々「ストレスチェックで引っかかってしまった。産業医面談をしろと言われたけど面談で「仕事を休め」と言われたら怖いから面談を受けたくない!」と思って面談を拒否している人は「産業医に休業を決めることはできないのでその心配は無用です」とお伝えしたいなぁと思います。

* 例外について

本来ならば分けたほうが良いのですが、古い会社だと会社内に診療所的な設備を有しており、そこで産業医が診察医としても働いていることがあります。

その場合の診療所で知り得た情報は「労働者の情報」ではなく「患者の情報」になるので診察医はそこで知り得た情報を会社に報告すると守秘義務違反(医師法違反)になります。

同一人物なのに結構ややこしいんですがこれは破ったら訴えられます。

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主治医から休むように言われた……後に回復した!時の復職の進め方が難しいという話

産業医には診察診断する権限がないことがわかりました。さてそんな状態であなたが心身の調子を崩したことに気付いた産業医があなたに受診を指導し、実際何処かに受診をしたとしましょう。体は割とわかりやすいので皆特に思うことは無いかもしれません(心筋梗塞や脳梗塞で絶対安静です!と主治医に言われたのに「いや、働かないと」とは思わないでしょうし、会社も「心筋梗塞程度で休むな」とは……言うところはありそうですけれど周囲の受け入れとしては「いやいや、休んで!?」だと思う)。

ただメンタル面で精神科から「仕事を休みましょう」と言われたらどうでしょう。自分自身がまず「え?休む!?完全に!?」と混乱するかもしれないし、「ああ、よかった、もう限界だったんだ……休んでいいんだ……」と思うかもしれない。ここは結構個人差がありますが、会社としては結構悩ましいところが多いです。

骨が折れていたら歩けるようになったら復職できるだろうな。手術したら傷口がくっついて医者が働けるといえば激しい肉体労働以外ならできるかな。でもメンタルで休んでたらどうなの?仕事させていいの?どこまで何を言ったらこの人のメンタルがまた悪くなっちゃうの???と疑問が山のように出てくるのは自然なことです。

これは「精神科の患者さんへの偏見だ!」と言う反応をするのではなく、「ガチでどうしたらええんかわからん」と言う会社の気持ちも理解しないとアカンのでは?と私は思います(実際会社の方と面談をしていても「回復して戻ってきて欲しい[一から教育するより数年勤務実績のある労働者を継続雇用するほうが会社もメリットがあるのでこれは本当]けど、どう接したらいいのか……」と上司さんが困っておられるケースも多く、ここで精神科主治医がアクティブに会社とやりとりできると復職時に会社も労働者[患者]も安心だと思います。でも残念ながらそこまで付き合ってくれる主治医はとても少ないようです)。

私がやってるからと言って、全精神科医に「復職先の職場と個人的に主治医が面談とか相談を細かくしろ!」とは言えませんが、ここで精神科の主治医と産業医が密に連絡を取り合うことができれば雇用者側の悩みもかなり軽減します。

ただ何度も言いますが産業医は臨床目線で労働者を見ていません(患者さんとして見ていたらダメ)。主治医は臨床目線で患者を見ていますが、それと同じ目線を産業医に持てと言うのは完全に主治医がルール違反をしているのです。

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会社は労働者として見る、主治医は患者として見る

会社は労働者と雇用契約を結んでいます。それは大体「この労働(100)に対してこれだけの賃金(100)を支払う」と言う内容でしょう。

しかしここで病気や怪我をした場合、労働者は100の労働を行えなくなってしまいます。

なので本来ならば100の労働が行えるようになるまで主治医は患者さんを治療すべきですし、もしも50までしか労働ができない状態までしか回復しない場合は正直降給や転職も視野に患者さんに説明すべきだと私は思います。これは冷たいとかではなく「それが雇用契約だから」です。

しかし最近職場でのストレスで受診にきた患者さんとお話をしていると何故かこの視点が抜けてしまっている人がいます。

「私は職場のパワハラのせいで前のように働けなくなりました!(事実)今やっても仕事は50しかできません!(事実)だから会社は50しかできない私に100の賃金を支払うべきです!(なんで?)」

ここで主治医が「そうだそうだ!患者さんは今50しか仕事ができないくらいになってしまったんだ!会社に責任があるから患者さんには50の仕事量で復職させてあげろ!そして100支払え!」と言ってしまうと患者さんは「主治医もこう言ってるからこれが当然の権利なんだ!」と勘違いしますが、それは主治医が労働を理解していない場合起こり得る話です。

ここで会社が「うちは100の労働ができる人に100の賃金を払うことにしているから、100ができないのであれば退職してください」と言ってきても、会社に非は正直ありません(仮にパワハラが原因で職場がちゃんと指導していたら防げたのでは?と言う話があったとしてもそれはそれで別の話であり、一緒に考えてはダメな話です)。

主治医が復職可能と診断したのに産業医が断るケース

このように「100働けないけど普段は泣かなくなったし本人も働きたいと希望しています」と言うような診断書を主治医が出した場合、産業医は復職不可と判断するでしょう。

主治医と患者さん目線からすれば「本人はやる気を取り戻したのに!」と思うかもしれませんが、自分が雇う側だった場合どう思うでしょうか?

それはやっぱり「いや、100できるようになってからにして欲しいよ」なんじゃないでしょうか。職場に少しバッファーがあれば「60-80位できるようになっているなら60-80の給料で雇い直す」と言う提案もできるかもしれません。でもそこまで余裕のある職場ばかりでもありません。

同じ職場に復職を患者が望んでいる場合、主治医は職場の産業医に対して「この人は今就労していないけれども100の労働をこなせます!」をいかにわかってもらえるように伝えることが超重要なポイントになってきます。

ただここまで考えて動いていない主治医も残念ながら多いので、もし自分が患者(労働者)の立場になってしまったら(今なっているなら)「あ、確かに働けそうですね!」と職場にアピールする方法も視野に入れて休業しないといけません(当たり前ですが本気でガッツリ休まないといけない時には考えたらダメです!回復が遅れるだけなので、「働けそう!」と自分で自覚してから主治医と相談しながらやりましょう)。

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リハビリ通勤はほとんど存在しない&お金の話

よく外来で患者さんから「だいぶん回復してきたので今なら午前中だけなら働けそうです」と言う話が出たりしますが、実際職場に確認するとそういった制度を持っている職場はほぼありません。労働者のために頑張って用意してくれる会社もありますが、その際に絶対問題になるのが賃金です。

何度も書いていますが会社は「100の労働に対して100の賃金を支払う」ので、午前中だけの勤務(例えば40位)に対して100を支払う義務はありません。40働いていたら40くれるだけめっちゃいい職場だと思ってください。

さてここで休職中のお金の話をしましょう。

メンタル系だけでなく身体を壊して休職している間、健康保険(国保除く)に加入していた場合は正規雇用だけでなくパートさんなども「傷病手当金」を受給することが可能です(業務に関係ないところで発生したものに限ります。業務に関係していた場合は厳密に言えば労災になりますが、今回関係ないので割愛します)。

傷病手当金はざっくり言えば休んでいる間給与が支給されない場合、給与の2/3が支給される制度なので、復職してわずかでも賃金が発生した場合この給付は止まります。

休養していて給与の2/3が支給されていたのに、時短で復職したらもらえるお金が減るという事態になることは十分理解してから動かないと経済的に詰んでしまいます。

ここで焦って「じゃあ100働きます!」とそこまで回復していないのに言ってしまうと、どんな病気でも結局はすぐに行き詰まり再度休職となりかねません。

その展開は患者さんはもちろん、会社は一番嫌だと思っています。なので「復職だ!」となった場合はやはり最初から「100の労働が可能です!」と言えないと会社から「復職可能」の返答はもらえないと思っておいた方が良いです。

話は紆余曲折しましたが、休職からの復職の最低条件は「労働力を安定して提供できる状態まで回復している」ことで間違いはありません。

産業医面談や会社の面談で復職を勝ち取るためにやると良いこと

自分の心で「できる!」と言っていても仕方がありません。客観的に「これは復職できそうだ」とならないと再雇用をする側はやはり二の足を踏むものです。

じゃあどうしたら良いのか?というとある程度動けるようになったら徐々に仕事モードの生活を家の中で再現するようにしましょう。

毎日何時に起床した、今日はニュースを朝からチェックした、夕方まで軽い本をある程度読めた、食事は3食食べられた、外出して買い物を手伝った、夜は入浴して仕事に行っている時間と同じくらいに入眠した……。

という日々の記録をつけるとかなり有効です(記録はスマホでもなんでも良いですが、チェックしたニュースや本の内容を簡単に添えると「要約する能力」も復活してそうだな、と相手も納得度が上がります)。

実際私も休職をした身ですが、こういう準備なく復職が許可され(主治医が当時の勤務先から開業した先生だったので職場も信頼してたっぽい)、毎日ぐーぐー寝ていた時間にいきなり外来になり最初は本当に体力がついて行かず体力不足から抑うつ状態が再発しかけたという苦い経験があります。

メンタルの場合も身体の場合もいきなりフルタイム勤務を開始するのはかなりしんどいのでどちらにおいても「自分で慣らし活動」をしておくに越したことはありません。これは主治医が慣れていれば指導してくれると思いますが、主治医から何も言われない(私は言われなかった)場合を見越して、ある程度動けるようになったら主治医に「そろそろ早起きしてみて良いですか?」など確認をとりながら自分でやって記録を取っておきましょう(診察の時に持参しても診察の参考になると思います)。

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自分じゃそこまで自分を律することができません!

とはいえ自分でここまで生活をガチガチに管理することはかなりしんどいです(筋トレに似ているなぁと最近筋トレにハマっている私は思います)。

やり方がわかっていても「まぁ……怒られるわけじゃないし今日は寝ちゃおう」という悪魔の声は聞こえてきやすいですよね。私なら聞こえてきます!

そういう人は「リワーク」という制度が活かせるかもしれません。日本うつ病リワーク協会など「リワーク」と検索すると「リワークってのはこういうもんやで!」とまとめてくれています。

こう言ったところにお金を払って行くことでかなり職場を再現できると思います。

わざわざお金を払って朝起きて、身なりを整え知らない人の沢山いるリワークに行き(これは会社出勤の模擬戦です。会社は全員仲良しこよしじゃないですから)、やりたくもない謎なプログラムをこなし(これは割と重要で、やりたくないことをこなすストレス耐性があるかを評価できます。でもこれを知らないと通うのがかなり嫌になると思います)、自分がメンタルブレイクした心理状況をグループワークで学んだりし(専門の心理士さんが指導してくれたりします。これは合う人だと次のメンタルブレイク予防にめっちゃ役に立ちますが、合わない人は振り返りの段階で症状が悪化することもあるので、しんどい場合は正直にリワークのスタッフさんに言いましょう。しんどいと言えることもとても大事な自己ケアです)、ヘトヘトになって帰宅する……というのをリワークプログラムに沿って行うと、リワークからのフィードバックやアドバイスをもらえますし、復職の会社や産業医との面談で提出したら回復度が「精神科や身体の病気について何も詳しくない」相手にビシバシ伝わります。

そう、相手は病気については無知な存在なのです。産業医だからといってその分野に詳しいと思わないでください。産業医はあくまでも「労働者が健康を維持しながら、安全に就労を継続できるように管理する」のが仕事であり、「患者」は対応範囲外なのです。

まとめ

今回自分で書いていても2回分くらいになってしまったなぁと反省しております。

しかし休職からの復職はある程度治っていてもテクニカルに相手にアプローチしないと断られる可能性があるとても大変なことです。

普段からも休職中に上司からの連絡はある程度回復してくれば自分で受け答えを開始し出した方が会社も「上司とやり取りできるんだな」(逆を言えばこれが出来ないなら復職の許可は厳しいですよね……)と前向きな兆候として受け入れやすいです。上司が原因で休職したなどで上司との連絡が厳しければ、人事や総務の連絡が取れる人に代わってもらうなどは提案して良いと思います。この交渉ができないとやはり「仕事で何かあったら又倒れちゃうかも……」と思われても仕方ないです。

どうしてもこういった連絡ができない場合はやはり転職を視野に入れ、治療を進めていきましょう。

次回は今回中途半端になってしまった「傷病手当金」と、ボリュームがいけそうなら「労災判定への道のり(メンタルの場合)」をお話ししようと思います。

今回は最後まで読むのが大変だったと思います。お疲れ様でした。又次回お会いできると幸いです。

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文系から理転して医学部へ、医者になってからも内科医から精神科医へ転身を繰り返している落ち着きのないADHD当事者、依存症家族、AC当事者、毒親育ちのノンバイナリー(無性)。持ち前の衝動性で書籍を書いたりしながら常勤医として奮闘中のバクが、世間の目がまだまだ偏見に満ちている精神科領域について医療者目線と当事者目線で語ったり雑談したりします。その他産業医目線での復職についてや、DPAT(災害派遣精神医療チーム)の話、表ではいいにくいジェンダー問題や発達障害についての赤裸々なお話を不定期にお届け予定です。

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