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激安スーパー「ロピア」も「業務スーパー」も。焼肉店への参入で見せる戦略と本気

激安スーパーとして知られる「業務スーパー」と「ロピア」。今絶好調の業績を誇るこの2社が外食業界に本格参入し、本業さながらの人気を呼びつつあります。そんな両社が展開する注目の飲食店を取り上げているのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、彼らのこれまでの歩みを紹介するとともに、それぞれの戦略を詳細に解説しています。

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プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

急成長の激安スーパー企業「ロピア」「神戸物産」が外食事業に進出。差別化はかる焼き肉食べ放題、料理の鉄人ブランド展開…

スーパーマーケットの世界で急速に業績を伸ばしている企業に神戸物産(本社/兵庫県加古川市、代表/沼田博和)の「業務スーパー」と、ロピア(本社/神奈川県川崎市、代表/高木勇輔)の「ロピア」が挙げられる。「業務スーパー」は1981年創業で2000年にFC体制をスタートさせて全国に展開、2022年10月期には1,007店舗となった。ロピアは1971年創業、2022年2月期に2,469億円となった。店舗数は2022年12月末で73店舗となっている。

この2社に共通していることは商品が低価格であること。そして社長が2代目。沼田社長(42)は2012年社長に就任。高木社長(40)は2013年社長に就任と経歴は似ている。特に高木社長の場合は社長就任時の年商が501億円だったが約10年間で5倍に伸ばしている。「2013年2兆円」を標榜し事業の多角化を推進している。

さらに共通しているのは事業拡大のために外食事業を推進し、その主力業態として焼き肉を位置づけていることだ。日本の人口が先細りしていくなかで、外食分野で成長していくためにそれぞれどのような戦略で臨んでいるのだろうか。

コロナ禍にあって出店ペース上げる

神戸物産の外食事業は食べ放題の「神戸クック・ワールドビュッフェ」と焼き肉店「プレミアムカルビ」。事業としては前者が先行していて2022年10月期の店舗数は11店。後者の焼き肉店はコロナ禍にありながら当期に6店舗新規出店して16店の陣容となった。

「プレミアムカルビ」は焼き肉を単品で注文することもできるが、いわゆる郊外ロードサイド型の焼き肉食べ放題。この分野では物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」が297店舗(2023年2月上旬)と店数で一つ抜きん出ているが、それを追いかける形の食べ放題焼き肉店はこれとは差別化してそれぞれの特徴を打ち出している。

「プレミアムカルビ」の外観では「食べ放題価格」を訴求している

そこで「プレミアムカルビ」の差別化路線とはこのようになっている。

まず、食べ放題は時間制限100分、105品の「プレミアムコース」と66品の「スタンダードコース」がある。それぞれ年齢別に料金が異なっている。プレミアムコースは一般が4,048円(税込、以下同)だが、3歳以下無料、幼児638円、小学生2024円、60歳以上3498円。スタンダードコースの場合は一般が3278円で、順に無料、528円、1,639円、2,728円となっている。このような年齢別の価格設定は焼き肉食べ放題の業態で増えてきている。

高齢者の減額は2~3年前まで65歳以上が一般的だが、近年では「焼肉きんぐ」も60歳以上500円引きにして、来店動機の間口を広げるようになっている。焼き肉食べ放題では「焼肉きんぐ」に次ぐ店舗数(89店/2023年2月上旬)の「ワンカルビ」では60歳以上「シニア」の上に70歳代以上「シルバー」のカテゴリーを設けて一段の減額を示している。

食べ放題の中に差別化要素が

同店では通常のスライスした肉のほかに熟成肉を塊で提供している。「イベリコステーキ」「リブロース芯」「塊ロース」「カルビステーキ」がラインアップされ、いずれも1,078円。見た目で150g程度あり、塊肉をBBQで肉を焼くようにゆっくり、じっくりと仕上げていくのは同店ならではの楽しみ方である。ハサミでカットしながら焼き上がりの状態を確認して、食味は熟成肉ならではの旨味がある。

「プレミアムカルビ」では熟成肉の塊肉を単品でも注文することができる

そしてタレが「14種類」ラインアップされている。キャビア、トリュフオイル、おろしポン酢、チーズなどを使用したものがありオリジナリティが高い。

この食べ放題にはパティシエクオリティのジェラート&デザートビュッフェ(18種類)が付いている。みなおちょこ程度のサイズでさまざまな種類を楽しむことができる。

「プレミアムカルビ」はジェラート&デザートビュッフェが特徴

焼き肉は単品でも注文できるがジェラート&デザートビュッフェは単品では注文できない。だから、同店でこれを食べようと思ったら食べ放題を注文することになる。これによって女性客が増えて客単価も高く安定することになる。

ジェラート&デザートビュッフェは食べ放題のみで利用することができる

コロナ禍にありながら焼き肉業態は営業時間制限要請以外では好調に推移した。コロナ禍にとなったほかの業態に先駆けて「店内の空気が短時間で入れ替わる」をアピールし安心・安全を訴求。民間の調査で「コロナ禍が明けてから行きたい外食」のトップの常連となった。このような追い風を受けて「プレミアムカルビ」は出店ペースを上げて2023年末には40店舗体制にすることを標榜している。

高価格帯から中価格帯へ進出

さて、ロピアの焼き肉では高価格帯から中価格帯に進んでいることが特徴だ。

この最新の事例は、ロピアの外食事業子会社のeatopiaが2022年8月横浜・センター南駅と直結する港北TOKYU S.C.5階に「焼肉 ギュウトピア」(52坪70席)をオープンした。

横浜市内・センター南駅に直結したロピアが入居するビルの5階に中価格帯の焼き肉店を出店

土日祝日にはファミリー客中心のウエーティングが続くがオペレーションがスムーズでお客が回転する。昨年8月オープンで客単価5,000円、月商1,500万円を売り上げている。

「ギュウトピア」は客単価5,000円で、センター南駅店周辺のファミリーの利用が多い

ロピアのことは冒頭で述べたとおり今日奇跡の急成長を遂げている注目の企業。一番の特徴は商品が良質で廉価であること。店名の由来は「ロープライスユートピア」。

同社では2019年1月外食事業会社のeatopiaを立ち上げた。同社の代表取締役社長に就任したのは山科博昭氏(37)。山科氏は慶應義塾大学のテニスサークルでロピア社長の高木氏の後輩にあたる。日本IBM、そして外資系金融機関へと進むが、高木氏から「実業の世界で一緒に会社を成長させる夢を見てみないか」と誘いを受けた。

ロピアグループでの山科氏の最初の仕事は、ロピアがM&Aしたばかりの惣菜・食品メーカー利恵産業の代表。当初営業は苦戦したが、ロピアの理念どおりに商品化したチーズケーキが大ヒット。そして、山科氏は次のステージとして高木氏から外食事業分野の開拓を要請された。2018年の秋であった。

そのテーマは二つ。まず、ミシュランの星付きのブランドを育てて海外に輸出すること。もう一つは、このブランドの調味料や食品を開発してロピア限定で販売すること。その第一弾として2019年11月焼肉店の「銀座山科」(客単価1万9,000円)をオープン。2020年8月に一つ星の熟成肉料理店「小石川中勢以」をM&A。そして2022年4月銀座4丁目交差点のビル11階に焼き肉・鉄板料理の「本店山科」(客単価3万2,000円)をプレオープンし、8月よりグランドオープンしている。

ロピアの外食事業で最初に手掛けたことは客単価3万円アッパーの鉄板焼き店

「道場六三郎」ブランドで市場開拓

山科氏は高級店を展開する中で客単価5,000円という中価格帯焼き肉店の構想を抱いていた。しかしながら、当初のテーマは前述したとおりの「世界に知られる高級店ブランド」。山科氏の構想について、高木氏から「当初のテーマが軌道に乗ってから」と言われていた。すると、ロピアの神奈川エリアの旗艦店が入居する港北TOKYU S.C.5階に物件が出た。すかさず高木氏に「客単価5,000円の焼き肉店」のオープンを申し出た。

また、ロピアでは2021年12月“和の鉄人”道場六三郎氏の会社、道場六三郎事務所をM&A。ロピア店舗で道場ブランドの惣菜や調味料を販売。「ギュウトピア」の中にも「『和の鉄人』道場六三郎のトリュフの焼きすき」をラインアップして人気メニューとなっている。

また「道場六三郎」ブランドの展開では今年2月23日、ロピア松戸店の中に「懐石みちば」(20席)をオープン。同店のコンセプトは「和の鉄人『道場六三郎』がつくり出す至高の味を“もっと身近で、もっと気軽に”楽しめる」ということ。価格は同ブランドの旗艦店「銀座ろくさん亭」の50~70%となるランチ3,000円(税別、以下同)、ディナー9,900円を設定している。

今年2月にオープンした「懐石みちば」のランチ3,000円(税抜)の一例

ちなみに道場六三郎事務所の代表は伊藤永氏。伊藤氏はかつてアールランドサービスで「かつや」をはじめとした和食のファストフードを700店舗に引き上げた人物である。これからロピア外食グループの中で、低価格帯の業態展開の想定されることから、外食事業のポートフォリオをいち早く豊かにしていくことが想定される。

急成長スーパーマーケットが外食市場に本格参戦してきて、外食プロパーの企業がどのような要素を持って戦っていくいくのかが大いに注目される。

image by: 千葉哲幸
協力:神戸物産 , ロピア

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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