たったの48時間。なぜ米シリコンバレー銀行は短時間で破綻したのか

 

シリコンバレー・バンクの顧客が持つ一つの強い傾向

FDIC(Federal Deposit Insurance Corporation、連邦預金保険公社)は、世界恐慌で取り付け騒ぎにより大量の銀行が破綻したことを受けて、連邦議会が作った仕組みです。FDICに加盟した銀行が破綻した場合には、1口座あたり25万ドルをFDICが補償する、という仕組みです。この仕組みは、「預金者を保護するために作られた」と表現する人がいますが、「預金者に『自分の預金は保護されている』という安心感を与えることにより、取り付け騒ぎ(および、その結果の銀行の破綻)を避ける」ために作られた、という方がより正確な表現です。

シリコンバレー・バンクは、ベンチャー企業やベンチャー・キャピタル(ベンチャー企業への投資家)が数多くあるシリコンバレーに本社を置く銀行で、ベンチャー企業に特化した銀行業務を行うのが特徴です。ベンチャー企業の創業者の多くは、会社経営の経験などがない技術者・研究者だったりするため、ベンチャー・キャピタルに言われるままに、会社を作りますが、そんな時にメインバンクとして勧められるのがシリコンバレー・バンクなのです。シリンコンバレー・バンク側も、通常の銀行は決してしてくれないような「無担保融資」など、ベンチャー企業が必要なサービスをきめ細かく提供することにより、ベンチャー企業の約半分がメインバンクに採用するほどの実績を持つ銀行に成長しました。

そんな事情もあるため、シリコンバレー・バンクの顧客には一つの強い傾向があります。顧客の多くが、ベンチャー・キャピタルから集めた数百万ドルから数億ドルのお金を普通預金に預け、そのお金を使って急成長している赤字経営のベンチャー企業なのです。そのため、景気が良くて、ベンチャー企業にとって資金調達が容易な時期には預金総額が急激に増え、逆に、景気が冷え込むと、資金集めが難しくなり、預金総額が継続的に減り続ける、という特徴があります。

今回の取り付け騒ぎは、このシリコンバレー・バンクに特徴的な預金総額の増減の結果起こりました。シリコンバレー・バンクの預金総額は、2019年から2021年にかけて、$62billionから$189billionに急上昇しました。新型コロナの影響による特需で、GAFAMの株価が上昇し、それに応じて、ベンチャー投資も盛んに行われた結果です。

2021年当時は、普通預金の金利がほぼゼロだったため、シリコンバレー・バンクは、金利1.6%の10年満期のMBS(Mortgage Backed Security、不動産担保証券)を$88billion購入することにより、その金利差で利益を上げるという手法を採用しました。

しかし、その後に起こったインフレを受け、連邦銀行が連続的な利上げを行なったため、シリコンバレー・バンクは窮地に追い込まれました。金利の上昇局面では、長期債権の市場価格は下がります。国債を買えば5%の金利が得られる時に、金利1.6%の10年満期の債権を額面で買ってくれる人などいないからです。

市場価格が下がったとは言え、満期まで持っていることができれば元本は補償されます。満期前に売却する必要がなければ、損失を被ることはないのです。

この記事の著者・中島聡さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • たったの48時間。なぜ米シリコンバレー銀行は短時間で破綻したのか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け