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全メディアが沈黙。ジャニー喜多川「性加害」問題を報じぬニッポンの異常

過去複数回に渡り被害者が声を上げたものの、大手メディアが黙殺してきたジャニー喜多川氏の性犯罪。今年3月にはイギリスのBBCが制作した、このスキャンダルを扱う番組が日本でも放送されましたが、我が国のマスコミは沈黙を破ろうとはしません。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、日本社会がジャニー氏の悪行を見て見ぬふりをする理由を考察。その上で、未だ不十分な性犯罪被害者に対する支援体制の改善を訴えています。

ジャニー喜多川の性加害を見て見ぬふり。不気味な日本社会の沈黙

いま、ネット界隈ではジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(故人)のジャニーズJr.に対する性加害の話題で持ちきりである。

イギリスの公共放送BBCのドキュメンタリー番組が問題に火をつけ、元ジャニーズJrの一人、カウアン・オカモト氏が、日本外国特派員協会で、ジャニー氏から受けた性被害について語ったからだ。

オカモト氏らの告白から浮かび上がるイメージは、実におぞましい。芸能界やテレビ局に支配的な権力を持つ老人が、デビューを夢見る中学生くらいの少年たちを自宅マンションに泊まらせ、夜な夜な、少年たちのベッドに潜り込んでは体をもてあそぶのだ。デビューへの通過儀礼のごとく我慢を強いられた少年の心の傷は推して知るべしであろう。

ところが、オカモト氏の会見について、日本のテレビ局は、取材はしながらも完全といっていいほどの沈黙を続ける。新聞も数社が地味に記事を掲載しただけだ。

BBCのドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」で、レポーターをつとめたジャーナリスト、モビーン・アザー氏はこう言った。

「ジャニー喜多川氏の性的虐待は日本社会では公然の秘密であり、それを取り巻く沈黙もまた恐ろしいものです」

確かに、最近になって世の中にころがり出てきた話ではない。ジャニー喜多川氏の性的虐待をはじめて白日の下に晒したのは元フォーリーブスの北公次氏が1989年に出した『さらば!!光GENJIへ』という本であり、34年も前のことだ。

そして、週刊文春が1999年10月から14週にわたり、ジュニアたちの告発をもとにジャニー氏による性的虐待の実態を暴いたのが第2弾目だった。

ジャニー氏と事務所は文藝春秋を名誉毀損で提訴。ジャニー氏による性加害の真実性を認めた2003年7月の高裁判決が確定するまでの間、裁判が続いた。それでもなお、他の大メディアがこの問題を取り上げることはなかった。

ジャニーズのタレントたちをテレビで見ない日はない。彼らが視聴率を高め、広告料を稼いでくれる。逆にジャニーズ事務所の機嫌を損なうと、番組がつくれない。テレビ、新聞がこの問題に沈黙する理由はそこにある。

アザー氏は「日本社会が見て見ぬふりをしている」と問題の根深さを指摘した。

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未成年者に強姦や性的虐待を繰り返していた人気司会者

この10年で、性暴力に対する世界の目は格段に厳しくなった。英国で大きく意識が転換するのは、テレビの子供向け番組の人気司会者、ジミー・サヴィル氏が未成年者に強姦や性的虐待を繰り返していたことが発覚してからだ。

2011年10月29日にサヴィル氏が亡くなった後、レイプされたという証言が続出し、被害者は10歳未満の児童を含む男女200人以上におよんだ。

サヴィル氏は慈善活動家としてチャールズ皇太子やサッチャー首相と親交を深め、その社会的信用と権威性を武器に少年少女を意のままに操っていた。

「サヴィルとバッキンガム宮殿、BBCは邪悪な三角関係にあった」と批判するアザー氏が、全く同じような構図で少年たちを凌辱したジャニー喜多川氏に関する取材を日本で敢行し、ドキュメンタリー番組に仕立てて、この問題に無関心な日本社会に疑問を突きつけたのだ。

アザー氏はこのなかで、元ジャニーズJrの男性たちが喜多川氏のことを悪く言わないことにショックを受け、「これはグルーミングだ」と指摘した。

権力や特権のある人間が、わいせつ目的を隠して子供や少年少女に近づき、やさしくして手なずける。そのような概念の言葉らしい。被害者は自分に好意を持ってくれている、特別な絆があるなどと思い込み、加害者に嫌われないために従順になる。

「ジャニー氏に非があったとは言いたくないようですが、なぜなのでしょう?」とアザー氏が問いかけると、元ジャニーズJr.のリュウ氏はこう語った。

「これはなんでなんだろうなあ。やっていることの良し悪しは絶対に悪いことなんですけど。簡単に言えば、ジャニーさんのことが嫌いじゃない、むしろ好きなんで僕は。今でも大好きですよ」

ジャニー氏の性癖を承知の上で息子を入所させる親もいるようだ。同じく元ジャニーズJrの淳也氏が語る。

「親はジャニー氏の少年愛を知っているけど、ジャニーズ事務所に入れたい。それを受け入れたのが日本。トップ企業にのし上げたのが日本なんですよ」

悪いことをされているとわかったうえで、少年のほうも功利的な計算を働かせていた面も否定できない。

外国特派員協会で記者会見したカウアン・オカモト氏は、ジャニー氏の行為を我慢していた理由や、我慢しないとタレントとして不利になるのかを問われ、こう答えた。

「直接ジャニーさんが、それをしないと売れないよとは言わないんですけど、そもそもジャニーズっていうのは、ジャニーさんが気に入っている子たちだったり、推している子たちが基本的にデビューをする。…ジャニーさんがピックアップしてドラマに決まったとか、ジュニアでグループ組んだりとか、CMが決まったりとか。…ジュニアの中でもやっぱり『マンションに行かないと売れないよね』ということだったり…その認識でみなさんいますので」

だが、BBCの番組に登場したもう一人の元ジャニーズJr、ハヤシ氏は感情をこらえきれない。

「ジャニー氏がお風呂に入れてくれました。すごい親切だなと思っていたら、上着を脱がしてくれた。そこまではまだ親切だなと思っていたところ、ズボンに手を入れてきて、自分で脱げますと言った時に無言だった。それがすごい恐怖心で…そのまま何もできず…ズボンも脱がされてパンツも脱がされ、靴下脱がされ、全身を洗われて、お人形さんみたいに…」

涙を流し、身体を震わせる。やはり、心に受けた傷は深いのだ。

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伊藤詩織氏が訴えていた性被害者の生きづらさ

アザー氏はジャニーズ事務所の話を聞こうと本社に乗り込んだが、取材を拒否された。街を歩いている人にジャニー氏の性加害の話をしても「亡くなった人のことに触れたくない」などと冷めた反応が多かった。アザー氏の考えと日本社会の常識は甚だしく乖離しているように見える。

英国では、サヴィル事件の後、被害者支援制度が充実し、警察や司法の取り組みも強化された。日本にも相談窓口があるが、まだまだ支援体制は不十分だ。性的な問題について相談をしにくい社会的な雰囲気があり、被害を受けたと声を上げることが難しい。

ジャーナリスト、伊藤詩織氏が自らの体験をもとに性被害者の生きづらさを訴えていたのを思い出す。彼女が被害にあった準強制性交事件で、警視庁高輪署が安倍首相と親しいTBSの元ワシントン支局長を逮捕する直前、警視庁刑事部長のツルの一声で取りやめになったことがあった。

日本の政治と警察が、性暴力の撲滅に対していかに消極的であるかを痛感させられた一件だが、社会全体の関心はいまひとつだった。安倍政権に忖度してマスメディアのほとんどが沈黙を続けたのが、その原因の一つだろう。

アザー氏は番組の最後をこう締めくくった。

「加害者の名を冠する会社は現在も搾取の歴史を認めることなくそびえたっています。これは日本社会が見て見ぬふりをしている結果です。今回、警察をはじめとして、芸能リポーターや音楽関係者、各種メディアにも取材を依頼し、すべて拒否されました。…子どもを守る必要性は十分に認知されていません。それが何よりも残念なことです」

統一教会の反LGBT運動を多くの自民党議員らが歓迎したことにも見られるように、日本社会においては男女の役割を明確に分ける伝統的価値観が根強く、それに反するものは排斥される傾向がある。奇妙なことだが、LGBTに対して嫌悪感を抱く人がいるのと同様に、性被害者に対する差別感情のようなものもこの社会には存在するらしい。

だが、グローバルな現代においては、日本だけは別だというわけにはいかない。この問題に対する後進性を変えるため政治にできることは法整備、教育、啓蒙活動などいくらでもある。

メディアが沈黙している限り、権力を持った政治家は動こうとしないだろう。世襲をよしとしている彼らこそが“時代遅れ”を象徴しているからである。

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image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

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