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ビッグモーターは会社のフリした反社勢力。Google日本元社長が一刀両断する史上最低のブラック企業

もはや報じられない日はないと言っても過言ではない、ビッグモーターを巡る数々の不祥事。国内最大手の中古車販売会社は、なぜかようなモンスター企業となってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作でも知られる辻野晃一郎さんが、この問題を「日本社会の堕落を象徴する事件として捉える視点が必要」とした上で、全てにおいて不適切な同社の姿勢や対応を批判。さらにビッグモーターのような未上場企業に対して、法改正により導入を考えるべき制度を提言しています。

日本経済凋落を物語る事件。ビッグモーターという呆れた会社

先月から、メインコラムで『日本経済凋落の真因を探る』と題したシリーズを続けていますが、一連のビッグモーターの事件に関しては、誰しもが驚きや怒りを禁じ得なかったニュースとしてだけでなく、まさに日本経済凋落を物語る事件としても、やはりここで取り上げないわけにはいかないでしょう。

ひと頃から、「ブラック企業」という言葉がさかんに使われるようになり、コンプライアンス意識の欠片(かけら)もないような会社の話題には事欠かない状況ではありますが、それにしてもここまでの酷い会社は珍しいと思います。会社のフリをした反社会的勢力と言っても過言ではないでしょう。そしてこの事件は、単なる一企業の不祥事として片付けるだけでは不十分です。

まさに、日本経済の凋落どころか、日本社会の堕落を象徴する事件として捉える視点が必要なのではないでしょうか。また、それだけでなく、今人類は行き過ぎた資本主義を反省する局面に入っていると思いますが、行き過ぎた利益至上主義のなれの果てを浮き彫りにした事件とも言えるのではないでしょうか。

本来、車両の損傷状態に応じて行われる修理に対し、同社は事故車両1台あたりの修理から得られる粗利に厳しいノルマを設定していたそうです。また、自動車保険契約の本数についても、一人当たりのノルマが課せられていたとされます。これらの非現実的ともいえるノルマを社員に課して、達成できないと直属の上司や仲間内だけでなく、経営層からも「殺すぞ」「死刑」などとありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかけ、罰金、降格、解雇などの処罰を下していたということです。この、社員の人権を無視した苛烈なパワハラによって精神を病み、そのために亡くなる社員も出ていたそうです。

そして何より、ノルマ達成のために、顧客から預かった大切な車を故意に傷つけて保険金を水増し請求したり、保険の架空契約をしたりすることが常態化していたなど、手口はもはや犯罪行為そのものであり、開いた口が塞がりません。修理や車検での不正は、過去にも繰り返し指摘されていたようですが、今回の特別調査委員会の報告が出るまで、メディアが大きく取り上げることはありませんでした。

また、「環境整備点検」なる社内制度のもと、街路樹や植え込みに除草剤を撒いて樹木を枯らしていたということも多くの店舗で発覚しています。これは、店頭の看板や並べている中古車が道路からよく見えるようにするのが目的だったと言われていますが、実際は、上記の点検で経営幹部が店舗訪問した際に、枯れ葉が1枚落ちていたり雑草が1センチ以上伸びていたりするだけで、店長が降格になるなどの罰則が科されたため、その対策でやっていた、という話もあるようです。

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会見で新社長が流した涙に見る身内都合優先の姿勢

創業者の会見も見ましたが、これもまた史上最低の謝罪会見とも言える救いようのないものでした。自分たちは「天地神明に誓って」何も知らなかったと宣い、すべて現場が勝手にやったかのごとく、まるで他人事のような口ぶりには激しい嫌悪感すら覚えました。

ゴルフボールを使って車にダメージを与えていた件を聞かれた創業者が、「ゴルフを愛する人に対する冒涜」などととぼけたコメントをして失笑を買っていましたが、とてもまともな経営感覚の持ち主とは思えませんでした。山口県の小さな修理工場からスタートして、一代で大企業に育て上げたという意味では、大変な手腕の持ち主であることは間違いなく、立志伝中の人物にもなり得た人なのでしょうが、どこかで道を踏み外してしまったのでしょう。

ちなみに、この創業者は、東京都目黒区青葉台にあるソニー創業者の一人、盛田昭夫氏の邸宅跡地を買い取ってそこに住んでいるそうです。ソニーOBとしての感慨に過ぎないかもしれませんが、そのことも、いかにも日本という国の凋落を象徴するかのように感じてしまいます。

未上場の同族会社なので、社外取締役や社外監査役など、独立性のある立場で外部から経営を監督する仕組みがまったく存在していないのだと思いますが、会見の様子を見るだけでも、会社の内部統制やコンプライアンスの仕組み、リスク管理の体制などが何も整備されていないことが伝わってきました。創業社長と息子の副社長がやりたい放題のワンマン会社になっていて、取締役会さえ開いていなかったといい、社員はまるで奴隷のような扱いだったのでしょう。

特に、息子の副社長が暴走していたようにも言われていますが、人事もその息子の機嫌や気分一つで差配していたといい、いまだにそのような会社の存在が許容されてきたこと自体が驚きです。社長と息子は辞任するそうですが、息子は所在不明で一切表に出てきていませんし、今回の件で新社長になるという人も、単に創業家の言いなりの人のような印象です。

この新社長は、会見で涙を見せたり社員の家族を庇ったりする発言をしていましたが、そういう姿にも、この会社が身内の都合ばかりで、顧客への配慮が二の次になっているという姿勢が伝わってきました。泣きたいのは、被害を受けた顧客の方でしょう。

不祥事を起こした会社は、通常自社サイトのトップページに目立つ形で謝罪文を載せるものですが、この原稿を書いている8月3日時点では、そのような対応もいまだ見られず、下の方の「インフォメーション」のところに、「お知らせ」として「板金部門の不正へのお詫び」があるだけです。しかもこれは日付が7月18日となっていますが、少なくとも私が7月末に確認した時点では掲載されておらず、そのときは「インフォメーション」ではなくて「ニュースリリース」となっていたので、7月末以降にホームページの改変を行ったものと思われ、その時にお詫び文掲載の日付もごまかしたのでしょう。このような細かいところまでがこざかしく、どこまでも信用できない会社です。

さらに、「生殺与奪権」の文言で話題になった、全社員に渡していたとされる経営計画書を急遽回収したり、会社支給携帯のLINEアカウントをすべて削除するように指示が出ていたりと、この期に及んでもなお露骨な証拠隠滅を図る体質にも呆れます。当局の証拠保全のアクションはどうなっているのでしょうか。

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日本的な組織の歪な力関係を物語る典型的な事例

現在、国土交通省を始めとした当局の調査が入っているようですが、警察の捜査も含めて、この会社の不正については徹底的に究明して欲しいと思います。少なくとも、詐欺罪(保険金の不正請求)、器物損壊罪(車や街路樹を故意に損傷)、道路運送車両法違反(車検の不正)などで関係者の刑事責任を追及することは十分に可能でしょう。

最終的には、創業経営者一族の責任を厳しく追及するのは当然として、金融庁などには、この会社と取引をしていた損保ジャパンを始めとする複数の保険会社についても、関与の実態を徹底的に究明して欲しいと思います。自然に考えて、持ちつ持たれつの両者が一体となって続けていた不正であったことは、間違いないのではないかと想像しています。また、同業他社でも似たような不正が行われていないか、この際、業界全体を調査した方が良いと思います。

年商7,000億円、従業員数6,000人、全国に300以上の店舗があるそうですが、こんな会社がこのまま営業を続けることなどありえません。まずは一刻も早い業務停止命令などの行政処分が必要ですし、経営者や幹部の責任追及が待たれます。また、先々は、民間車検場(指定自動車整備事業)の指定取消しや、古物商免許の取り消しなどの重い行政処分も検討されるべきでしょう。

創業家の同族会社で、株式も創業家が100%保有しているようですが、会社再建の為には、創業家やその息が掛かった幹部を総入れ替えする必要があるのは言うまでもないでしょう。その為には、一旦会社を解散するか、あるいはファンドやライバル企業への完全売却などを行う以外に手段はないのではないかと思います。6,000人の雇用を守ることは大事ですが、今後もこの創業家が影響力を保ち続ける形での再建はあり得ません。

最後に、本メルマガでは、たびたび昭和型の経営スタイルがなかなか変わらない日本の組織の問題を指摘してきましたが、これだけ大っぴらな犯罪行為が社内で横行していながら、結果的に多くの社員が、それに加担したり、黙認したりという状況が長く続いてきたことも、日本的な組織における雇用する側とされる側の歪な力関係を物語っている事例だと思います。

それでも、まだ上場企業であれば、コーポレートガバナンス面での仕組みが整備されているので、一定のチェック機能や自浄作用が働くようにはなっていますが、未上場企業については、今回のように完全にブラックボックス化してしまう恐れもあり、盲点になっていると思います。今後は、未上場企業に対しても、売上規模などに応じて、内部統制の仕組みを導入する法改正が必要かもしれません。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年8月4日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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image by: yu_photo / Shutterstock.com

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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