9月13日に行なった内閣改造で、過去最多に並ぶ5人の女性閣僚を入閣させた岸田首相。一方副大臣と政務官に目をやると女性はただの1人も選ばれず、対象的な結果となっています。その「原因」を考察しているのは、米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんはメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、岸田氏の女性観に問題があるわけではないとした上で、女性の副大臣・政務官ゼロという問題の背景に考えられる「本当に怖い話」を解説しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年9月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
ドリル優子と「副大臣・政務官に女性ゼロ問題」を考える
どうも日本の政局には閉塞感が濃くなっています。別に岸田氏を降ろせとは言いませんが、国の成長力と生産性を確保するための必要な変更に取り組むように、何とか少しでもマトモな方向を向いて欲しいと思うばかりです。その準備として、3点ほど指摘しておきたいと思います。
1.西村康稔に加藤勝信。コロナ禍に責任回避を続けた政治
コロナ禍については、最新変異株の動向はあるにしても、社会的には出口から出てしまっています。そんな中で、尾身茂博士も委員会の解散により、政府のポジションからは解放されたようです。
尾身博士に関しては、コロナ対策に不満を持つ人々があれこれ悪口を言っています。アメリカでも同様で、功績のあったトニー・ファウチ博士は保守派を中心に散々な言われ方をしていました。
ですが、尾身博士もファウチ博士も感染症の専門家です。感染症の専門家のミッションというのは単純で、研究している感染症による死亡数を少しでも下げるのが、この方々のミッションです。
その一方で、対策等による社会的コストを考えて、最適解の政策を決定し、国民の協力を求めるのは政治家の仕事です。政治家が逃げ回っていて、また時には官僚組織の防衛に向かい、時には専門家と対立して経済優先に傾斜したり、あるいは経済への影響を専門家のせいにしたりしたのは、責任回避だと思います。
専門家はコスト100で死亡極小を主張するのが仕事です。一方で経済の専門家は、経済コストは極小で、死亡は許容範囲を主張するのでいいわけで、その中間にある最適解を決定して宣言し、国民に説明するのは政治の責任です。
コロナ禍の間、政治はずっとこの責任回避を続けてきました。例えばですが、西村康稔とか、加藤勝信というような方々は、「あれではダメだった」ということを、厳しく自戒すべきです。
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2.ドリル優子がドリルを使ってまで消したかった問題
小渕優子氏の選対委員長就任が話題になっています。小渕氏については、2014年に関連する政治団体の政治資金収支報告書に虚偽の記載が発覚しました。その際に、東京地検特捜部による捜索が入る前に事務所のPCのハードディスクにドリルで穴を開けて、廃棄したのは有名な話です。このエピソードを受けて、同氏は「ドリル優子」というニックネームをつけられて、現在に至っています。
この事件の顛末として、小渕氏は経済産業大臣をクビになり、元秘書は有罪判決を受けました。ですが、大切なのは
「ドリルで消したこと」
ではありません。そうではなくて、
「ドリルで消さなければいけないような問題」
があったのが問題なのです。
ドリルで消さねばならなかった問題とは何だったのか、それは、90年代に様々な紆余曲折を経て成立した「小選挙区比例代表制による政治改革」が踏みにじられたということです。もっと言えば、政治改革が想定した、政治とカネの問題におけるカネの流れが逆流しているのです。
まず、政治改革の第一の狙いは、それまでの中選挙区制における「自民党候補同士の熾烈な選挙戦」が、多額のカネを必要としていたわけですが、これを断ち切ろうとしたわけです。具体的には、定数1の小選挙区を設定すれば保守同士の戦いはなくなり、政策本位の選挙戦になるというのが制度設計でした。
中選挙区制の時代には、例えば80年代に岡山に住んでいた私が聞いた話では、倉敷とか総社といったあたりでは、橋本龍太郎と加藤六月が熾烈な選挙戦をしていて、陣営は「今日はこっちは天丼、こっちはカツカレー」などと有権者を接待して買収していました。それこそ、カネが無限にかかるような話だったのです。
小渕氏の場合も、お父様の恵三氏の場合は、中選挙区で中曽根康弘、福田赳夫と常に厳しい選挙戦を闘っていたわけです。そんな中で、有権者をまとめるための「観劇ツアー」などが常態化していたのでしょう。明治座に昼食、お土産、往復バス付きで招待する、会費は格安で差額は買収という方法です。
問題は、小選挙区制度になったら、この「観劇ツアー」は要らなくなったわけです。それこそ、恵三氏から承継した小渕優子氏の選挙区は、無風区と言われて常に得票率は70%前後となっていました。野党は対立候補を立てるのから逃亡してせいぜい共産党の泡沫候補が出るだけで、現在に至っています。ですから小渕優子氏は将来を嘱望された有力議員として全国で応援演説をする立場であり、地元では選挙運動をしないで良かったのです。
にもかかわらず有権者は「格安観劇ツアー」をせびり続けた、これは買収ではありません。むしろ反対です。タカリであり、悪質な賄賂の要求です。全く理不尽なカネであり、その源泉が実は選挙が公営化されたために税金から(一部かもしれませんが)出ていたわけで、観劇に行った人は全員が収監されて公民権停止になっていいレベルの犯罪だと思います。
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