中絶そのものが長らくタブー視されてきた日本
経口中絶薬を処方するには2つの条件がある。ひとつは「母体保護法指定医」であること。そして、現時点では「入院可能な医療機関・診療所」であること(*2)。
母体保護法とは、母性の生命と健康を保護することを目的として不妊の手術や人工妊娠中絶を認めた法律。
この法律に基づき、都道府県医師会が設置した審査委員会によって指定されたのが、母体保護法指定医現在、全国に7,500ほどいる。(厚生労働省調べ)
また、出血などの症状に対応するため、中絶が確認されるまでは院内で待機することが必要とされている。そのため、入院が可能な医療機関・診療所だけで処方が可能となっている。
2023年6月20日現在、経口中絶薬を処方しているのは全国で15施設。申請中の医療機関が約300施設で、今後、次第に増えていくと予想される。
人工妊娠中絶は、原則として健康保険が適用されない自由診療のため、薬による中絶にかかる費用は各医療機関・地域によって異なる。薬の価格はおよそ5万円、それに加えて診察料と入院費などがかかる。
一方、オランダやフランス、スウェーデンなどでは中絶が全額公費負担で行われている(*3)。また、女性に対するカウンセリングが重視されている。
そもそも日本においては、「飲む中絶薬」どころか、中絶そのものが長らくタブー視されてきた。
日本においても、さまざまな事情で、やむをえず中絶を選択する場合も、その後の妊娠や出産についてよく考えてもらい、具体的な情報を提供するとともに、精神面を含めてサポートしていく体制づくりが必要だろう。
G7で最も遅かった日本の「飲む中絶薬」承認
日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)によると、中絶薬の「ミフェプリストン」は、1988年にフランスで承認されて以降、現在では65以上の国と地域で承認されている。
G7(先進7か国)でみると、承認されていないのは日本だけとなっていた。
人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合は、先進国を中心に増えている。とくに北欧のフィンランドやスウェーデンでは非常に高い割合となっている。
人工妊娠中絶における「中絶薬」の使用割合
フィンランド(98%)2021年
スウェーデン(96%)2021年
イギリス(87%)2021年
フランス(70%)2019年
アメリカ(51%)2020年
ドイツ(32%)2021年(*4)
一方で注意すべき点もあるという(*5)。イギリスの医療機関で中絶薬を処方する医師によると、まず一番気になるのが、出血や痛みがひどかった場合など不測の事態への対処方法だ。
医師は、対処の仕方など丁寧な説明と、何かあった場合にいつでも連絡が取れる態勢の必要性を強調する。
さらに、医師は、イギリスでは医療機関の外で中絶薬を飲んで中絶することが認められていることから、中絶が誰かから強要されていないか、または逆に、誰かに服用を止められたりしないか、確認に細心の注意を払っているという。
最後に、医師が指摘したのは、人工妊娠中絶を選択した女性本人が選べる選択肢があることの大切さであった。
「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という概念がある。これは、性や身体のことを自分で決め、守ることができる権利のことだ。
「リプロダクティブ・ヘルス」は、産む・産まない、いつ・何人子どもを持つかなど、生殖に関することを自分で決める権利で、そのために必要な情報やサービスを得られることも指す。
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