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140以上の国と会談。中国が見せた外交力と、分析できぬ日本メディアの実力不足

10月17日、18日の両日、北京で開催された「『一帯一路』国際協力サミットフォーラム」には世界の140カ国余りが参加。8人の中国共産党トップが各国代表との会合をこなしていく様を「圧倒的」だったと評するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、カザフスタンのトカエフ大統領に始まりエチオピア、チリ、ハンガリー、パプアニューギニア、インドネシアと、習近平主席が会談した順をあげ、日本が見ている世界の景色との違いを指摘。日本メディアが「低調だった」「債務の罠」で片付けている間に見落としている現実を伝えています。

プーチン訪中だけでない 中国「一帯一路」10周年で見せた外交力と狙い

中国が力を注ぐ「一帯一路」の第3回国際協力サミットフォーラム(以下、フォーラム)が10月18日、2日間の日程を終えて閉幕した。フォーラムに参加したのは140カ国余りの各国代表だった。

10周年とあってメディアは一斉に特集を組んだが、「一帯一路」報道はやはりメディアの手に余ったようだ。先週、このメルマガで予告した通り、「債務の罠」、「参加国や首脳級の出席者が過去最少」とフォーラムの低調ぶりを熱心に伝えることに終始した。「一帯一路」の全貌が少しでもうかがい知ることのできるものはなかった。

152カ国と32の国際機関が共同建設協力文書に調印し、10年間かけて進められてきた経済圏構想だ。規模から考えてもいくつかの問題点が浮上しても不思議ではない。しかし、10年間という時間のなかで、中国のいう「共建国(共に「一帯一路」を建設する=参加国)」が雪崩を打って構想から抜け落ちてゆく現象も見当たらない。それも一面の真実ではないだろうか。

そもそも「債務の罠」という批判についても根拠は薄弱だ。その詳細は先週書いたが、第一、罠に落ちたとされた当事国から公式なクレームがついてはいない。実際、フォーラムに参加したスリランカのウィクラマシンハ大統領は、習近平国家主席との会談で「スリランカは未来において中国とさらに緊密に協力してゆきたい」とさえ述べているのだ。

中国の進める経済圏構想を「債務の罠」と切り捨てることは簡単だが、それは「一帯一路」を矮小化する問題を孕む。世界から140余の国の代表が一堂に会するスケールは規格外で国際政治の縮図といっても過言ではない。その代表たちとの会合を、中国共産党中央政治局の7人の常務委員と国家副主席の計8人でこなしてゆく迫力は圧倒的であった。

当然、中国が世界をどうとらえようとしているのか、外交政策の濃淡も透けて見えた。例えば、カザフスタンとの親密な関係だ。習近平国家主席がフォーラムの入り口で、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領との会談を北京の人民大会堂で始めたのは象徴的だ。

振り返れば2013年9月、「一帯一路」構想を最初に打ち上げたのもカザフスタンであった。そして中国がコロナ禍明けで、最初の対面外交を開始する場所として選んだのもカザフスタンである。トカエフ大統領は北京語言学院(大学)の出身で中国語も堪能だ。現在の中国にはカザフスタンからの留学生が目立って多いが、これは「一帯一路」後の両国関係を反映している。

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同じように留学生が増えているのはインドネシアだが、これも習近平が2013年10月、「海のシルクロード」を打ち出した国である。今回のフォーラムではインドネシアのジョコ・ウィドド大統領との会談は6番目に設定されている。

ちなみにフォーラムの始まった17日の午前中に行われた習主席の会談は、カザフスタンのトカエフ大統領を皮切りに、エチオピアのアビー・アハメド首相、チリのガブリエル・ボリッチ大統領、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相、パプアニューギニアのジェームズ・マラペ首相、インドネシアのジョコ大統領である。中央アジア、アフリカ、南米、欧州、南太平洋、そして東南アジアである。こうして並べてみると、中国が普段、日本とは全く異なる景色を見て外交をしていることを改めて感じさせられる。

日本のメディアは、フォーラムが「低調だった」と中国の思惑の空振りに焦点を当てて報じたが、本当にそうだろうか。例えば習近平と国連のアントニオ・グテーレス事務総長との会談では、グティエレスから「習主席が提唱した『一帯一路共同建設構想』は途上国の持続可能な発展を実現するための有効な手段を提示し、グローバルサウス協力の模範を示した」と評価された。

さらに「国連は多極主義を支持する中国の立場を評価し、習主席が提唱したグローバル発展イニシアティブを支持し、中国との協力をより深めていきたい」とも語っている。この時点で中国は少なからず大きな成果を得たはずだ。

国連を中心とした国際秩序を強く主張する中国は、国連を「核心」と呼び、アメリカを中心に西側先進国のつくる国際秩序と向き合おうとしている。

昨今の「グローバルサウス重視」という世界の潮流のなかで、国連という錦の御旗を得られれば広く発展途上国に網をかけられる。同時に上海協力機構(SCO)やBRICS(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国)がその役割を補足し、中間的な組織として東南アジア諸国連合(ASEAN)を位置付けている。

前者はカザフスタンの重視であり、後者はインドネシアへのアプローチだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年10月22日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Muhammad Aamir Sumsum/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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