謎多き「ビットコイン生みの親」サトシ・ナカモトは、なぜ匿名で発表し姿を消したのか?

 

サトシ・ナカモトとはどんな人物で、いかなる意図でビットコインを作ったのか

唯一、言えることは初期の頃に彼がマイニングして手に入れたビットコインが、まだ最初のウォレットに入ったままで、換金された形跡がないことですが、実際のところは、彼が幾つのウォレットを持っていたかは誰も知らず、手に入れたビットコインの一部を既に換金している可能性は十分にあります。

私が番組のプロデューサーであれば、その辺りは、既存の事実としてあっさりと流し、「サトシナカモトは誰なのか」「なぜ、姿を消してしまったのか」「なぜ、所有するビットコインを換金していないのか」などの「本当の謎」の部分に焦点を当てて深掘りしただろうと思います。

そう考えると、後半部分は、サトシ・ナカモトがどんな人で、どんな考えでビットコインを作ったのかをドラマ仕立てで描くべきだったと思います。大まかな流れとしては、

  1. サトシ・ナカモトは暗号技術の専門家。大学では数学を勉強し、博士号を取得済み。プログラミングにも精通しているが、大学に残り、暗号技術の研究を続けていた。
  2. 学生時代からの彼の夢は、分散型台帳が持つ「二重支払問題」を解決すること。二重支払問題(それぞれが非同期に動くサーバー間で、どうやって「同じ口座から同時に持っている以上のお金を引き出す」などの不正を防ぐか、という問題で、過去20年間、誰も解決できなかったとても難しい問題。
  3. この問題を解決する上で、サトシが注目したのは「ゲーム理論」。参加するプレーヤーが自分の利益を最大化しようとした時にこそうまく動くシステムが設計出来れば、「二重支払問題」を解決できると考えた。
  4. サトシがその問題の解決方法を思いついたのは2008年の頭ごろだ。しかし、論文だけ書いてもその価値を理解してもらうのは難しいので、その設計に基づいたアプリケーションを作るべきとサトシは考えた。
  5. そんな時、リーマンショックが起こり、大きすぎる銀行は救済され、米国政府は大量のお金を印刷し始めた。
  6. 大量のお金を印刷しながら、起こるはずのハイパーインフレーションが起こらない日本を見て、米国でも同じことをしても良いという考え(MMT:Modern monetary theory)が台頭し始めたのはこの頃。
  7. サトシは、世の中が必要としているのは、誰にもコントロールされず、希薄化もしない、法定通貨に変わる新たな通貨にあると考え、その通貨こそが、彼が発明した分散台帳の最適なアプリケーションだと考えた。ビットコインが誕生した瞬間だ。
  8. 彼はその発想に基づいて、ビットコインの実装を進め、2008年の後半には彼のマシンの上でビットコイン・ネットワークが動き始めていた、サトシは並行して進めていた論文を発表した上で、ビットコインをオープンソースとして公開することを決めた。
  9. しかし、ビットコインを法定通貨に変わる通貨として世の中に提供するには大きなリスクが伴うとサトシは考えた。暗号技術の研究者が米国政府から逮捕されたこともあるし、P2P型のネットワークサービスWinnyをオープンソースとして提供した金子勇氏が日本で逮捕されたことも、サトシは良く知っていた。
  10. そこで、サトシは、実名を隠し、論文もソースコードも匿名で発表することに決めた。実名で発表すれば、名声も得られて彼のキャリアに大きなプラスになるかも知れないが、反逆罪や犯罪幇助の罪で牢屋に入るリスクは避けたいし、それによって、せっかく作ったビットコインが世の中に広まらないことになるのは、あまりにも勿体無いとサトシは考えたのだ。

となります。私の脚色も若干入っていますが、ビットコインがこんな経緯で作られ、匿名での発表になったことに関しては、ほぼ上に書いた通りだと考えて良いと思います。

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