謎多き「ビットコイン生みの親」サトシ・ナカモトは、なぜ匿名で発表し姿を消したのか?

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全世界に衝撃を与えた、ビットコインの登場。その開発者として名の上がる「サトシ・ナカモト」氏ですが、彼がどのような人物であるのかは未だ謎に包まれたままとなっています。そんなサトシ・ナカモトの正体に迫るNHKの番組に出演したというのは、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さん。中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』で今回、その番組の後半部分で「ドラマ仕立てで描くべきだった」と考える、ビットコインが作られた経緯や匿名での発表となった理由を記すとともに、ナカモトに焦点を当てたNHKに対する評価を付しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

NHKも特集した「ビットコインの生みの親」サトシ・ナカモトは一体誰か?その人物像と匿名の謎

私も出演者の一人として関わった、「市民X:謎の天才『サトシ・ナカモト』」がようやくNHKで放送されました(ダイジェスト版が11月13日、完全版が11月26日)。

NHKのプロデューサーから連絡を受けたのが、今年の5月、実際に取材を受けたのが8月ですが、8月には、プロデューサーとカメラマンがシアトルの私の家まで足を運び、撮影機材を設置して簡易スタジオを作り、数時間かけて撮影する、という丁寧なものでした。

私と同様の取材を12人の人にしたのですから、莫大な時間とコストをかけた番組で、民放では到底出来ない芸当です。

ビットコインや暗号通貨に関する解説番組ではなく、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトに焦点を当てた番組作りは素晴らしいと思いましが、取材された私の目線では少し消化不良を起こしそうな番組です。

ビットコインがいかに画期的だったかに焦点を当てた前半は、悪くはないとは思うのですが、12人もの人に意見を聞いたため、逆に分かりにくくなっていた部分があると思います。分かりやすさを重視するのであれば、3人ぐらいに絞って、一人一人にもう少し話させた方が良かったと思います。

12人もの人に意見を聞けば、異なる見方や意見が出てきても当然ですが、その部分が曖昧になってしまっていた部分が多いと思います。

ちなみに、「サトシ・ナカモトがビットコインを作った意図」に関して言えば、「政権の都合で赤字国債を発行するたびに希薄化される法定通貨」とは異なる「誰にもコントロールされていない、発行量の決まった、薄まらない通貨」を作りたかった点に関しては疑問の余地はありません。

中央の管理者が不要な分散台帳を作ろうという試みは20年以上の間研究者の間で行われていましたが、それに答えを見つけたのがサトシ・ナカモトであり、だからこそ「ノーベル経済学賞に値する」と私は発言したのですが、その分散台帳が可能にするのが、政府の支配下にない通貨なので、彼がビットコインを実装し、世の中に放ったのは当然の流れで、そこにそれ以上の意図を読み取る必要はありません。

彼が本名を隠した理由も、それが「マネーロンダリングを可能にする」「米国の基軸通貨としての地位を揺るがせる」などの理由で、米国政府から指名手配されることを避けたかったから、と解釈すればそれで十分だと思います。彼が、同じくP2Pソフトウェアの開発者である金子勇氏が逮捕されてしまった「Winny事件」のことを知っていた可能性は十分にあります。

ちなみに、出演者の一人が「見返りを求めずにビットコインを作った」ことを褒め称えていましたが、ここは大いに疑問です。そもそも、ビットコインを成功させるにはオープンソース化する必要があることは明確で、そこを褒める必要はありません。また、ビットコインの価値が上がれば、彼が初期の頃に自らマイニングして手に入れたビットコインが大きな収入になるだろうことは十分に予想できた訳で、そこを考えれば、「見返りを求めずに」という発言は不適切です。

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