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岸田文雄のシナリオ通り。自民「政治刷新本部」で“麻生に菅を対峙させる”意図

パー券裏金問題で失った信頼を回復すべく、自民党内に設置された「政治刷新本部」。しかしそのメンバーや要職の人選を見る限り、岸田首相に政治資金問題を解決する気があるようには到底考えられない、というのが衆目の一致するところです。首相の意図は一体どこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、岸田首相が同本部を設置した狙いを考察。さらに菅元首相を麻生副総裁とともに最高顧問に据えた意図を解説しています。

問題を「派閥解消」にすり替え。岸田が「政治刷新本部」を設置した意図

岸田首相が立ち上げた「政治刷新本部」が、自民党の金権腐敗に抜本的な対策を施せると思う人は少ないだろう。とにかく、メンバーの人選が、国民をなめている。

岸田首相が本部長なのはともかく、麻生太郎副総裁と菅義偉前首相が最高顧問、茂木幹事長が本部長代行というから、ちゃんちゃらおかしい。どっぷりと自民党的な金権腐敗政治につかってきた連中が、寄ってたかって政治を刷新しようというのだ。おまけに、権力乱用疑惑の晴れないあの木原誠二氏が幹事長で、さらには裏金に染まっている安倍派議員が9人も名を連ねている。

岸田首相は何を思って、党内にこんな組織をつくったのだろうか。むろん、派閥のパーティー券販売をめぐる裏金事件について、首相として、党の総裁として、何らかの対策を打たなければ、ますます世間に無能扱いされるということはある。それにしても、こんな面子で何ができるというのか。

そもそも、抜本的に政治資金の改革をするのなら、会計責任者ではなく、議員の責任のもと、例外なく全ての資金の出入りを収支報告書に記載するように義務付ける政治資金規正法改正案を岸田首相が主導して作成し、国会に提出すべきである。

そこまでの決意と覚悟を岸田首相が示せば、内閣支持率が上昇に転じる可能性が出てくるはずだ。ところが、それをしないのはなぜか。党内に反対論が噴出し、「岸田降ろし」のうねりが起きるのを恐れるからではないか。それほどに、自民党政治はカネの威力を頼りにしているのだ。世襲議員がはびこっているのもそのせいである。

岸田首相に本気で政治資金問題に取り組む気概があるとは思えない。さりとて、首相として国民になんらかの改革姿勢を見せなければ、ますます支持率が下落するだろう。そこで、安直に考え出したのが「政治刷新本部」という会議体だ。問題が起こるたびに発生するナントカ会議、ナントカ本部がまた一つ増えたわけである。

ただ、愚劣きわまりない組織ではあっても、岸田首相としては、追及された時に「全党あげて刷新に取り組んでいる」と逃げ口上に使えるだろう。最高顧問の一人に菅義偉前首相を加えたあたりにも、意図的な何かが感じられる。

言うまでもなく、菅氏は派閥に所属していないことをウリにしている。昨年1月、菅氏は訪問先のベトナムで記者団に「派閥」についての持論を次のように展開した。

「政治家は国民の負託を受けて出てきているので、みずからの理念や政策よりも派閥の意向を優先するようなことはすべきでない。いまは、国民の声が政治に届きにくくなっている」

「総理大臣は国民全体の先頭に立って汗を流す立場にある。歴代の総理大臣の多くは所属する派閥を出て務めていたのではないか」

岸田首相が派閥の会長を続けていることに苦言を呈したわけだが、これを気にした岸田首相は昨年12月、派閥パーティー裏金疑惑の発覚を受け、「首相在任中は宏池会を離脱する」と表明せざるを得なくなった。

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「派閥解消」を本気で考えるはずのない岸田首相

そんな経緯を背景として、菅氏を刷新本部に引き入れたのだから、「派閥解消」が議論のマトになるのは当然の成り行きだった。第1回目の会合から、菅氏や小泉進次郎衆院議員らがそれを強く主張したが、麻生副総裁は絶対に反対の立場だ。おそらく今後も「派閥解消」が焦点となって、会議が踊り、いたずらに時間が費やされるのだろう。

しかし、たやすく「派閥解消」というが、派閥をどうやったらなくすことができるというのか。とかく人は群れたがる。大勢の人がいれば、自然にグループができ、リーダー的な存在が生まれる。派閥は法律に基づいた制度でもなければ、自民党の公式な組織でもない。いわば、任意の議員グループだ。

岸田首相が「政策集団」と呼ぶように、政策に関する勉強会ということになっているが、それは建て前にすぎない。実際には、政治資金の調達、ポストの配分という利益確保を目的として集まっている集団だ。その目的を実現するため、親分(領袖)に強大な政治権力を握らせるべく、総裁選での多数派工作にいそしむのだ。カネとポストを得て、派閥の力が強くなれば、個々の所属議員の選挙でも勝利が近づくという寸法だ。

日本社会では閉鎖的な利益共同体である「ムラ社会」が形勢されやすい。派閥はその典型で、行動原理は集団主義である。他の集団に負けないよう、家父長的リーダーのもと、みんなが一つになって同じ行動をする。

派閥という「ムラ」の連合体が自民党だ。意見や政策が異なり、時には激しく対立しながらも、政権を守り抜くために長老が話し合い、最後には一致団結する。そんな芸当ができるのも、自民党が派閥という「ムラ」の集合体であるからだろう。派閥をなくするとして、自民党は自民党であり続けることができるのだろうか。

「政治刷新本部」ではじまった派閥解消の論議とやらが、最終的に、党内の上下関係や秩序を形成していたあらゆる価値観をぶっ壊し、世襲とか金の力を有する者ではなく、国民にとって真に必要な人材が集結しやすい土壌に変えていくことをめざすのであれば、大賛成である。

だが、その旗振り役が菅前首相や小泉進次郎氏というのでは、絶望的な気分になる。自分たちが無派閥であることを国民にアピールするパフォーマンスを繰り広げるだけではないかと疑いたくなってしまうのだ。

だいいち、菅氏に「派閥解消」を唱える資格があるのだろうか。菅氏は派閥横断の勉強会「韋駄天の会」や、無派閥議員からなる「ガネーシャの会」など、緩やかな結びつきのグループの中心的存在だ。その数は合わせても20~30人といわれる。カネやポストを目的としていないかもしれないが、これも派閥の変種ではあろう。

なにより、菅氏もまた、二階派、麻生派、細田派(当時)、竹下派(同)などの謀議による派閥の力学で首相にのぼりつめた政治家である。いまさら「派閥解消」を声高に叫ばれても、自己宣伝の一種としか思えない。

だが岸田首相は、菅氏を麻生副総裁とともに刷新本部の最高顧問に据え、その結果、「派閥解消」を中心とした論議が巻き起こった。岸田首相にとってシナリオ通りの展開ではないか。もとより岸田首相が「派閥解消」を本気で考えるはずはない。それでも、「派閥解消」論議がメディアを通じて国民の間で話題になること自体は、政権にしがみついていたい岸田首相にとってマイナスではないように思えるのだ。

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菅前首相に出番を与え麻生副総裁に対峙させた意図

岸田政権を支えているのは、まぎれもなく麻生派(志公会)、茂木派(平成研究会)、岸田派(宏池会)を中心とした派閥の連携である。しかしそれは、麻生副総裁が主導権を握った体制だといえる。

麻生氏はポスト岸田に茂木幹事長を考えているとされる。内閣支持率が下落を続ける岸田首相はいつなんどき「岸田降ろし」を仕掛けられないとも限らない。そこで、岸田首相は、あえて菅前首相に出番を与え、派閥力学を駆使してキングメーカーたらんとする麻生副総裁に対峙させたのではないだろうか。

すなわち、菅前首相の「派閥解消」論を誘発することで、麻生氏の行動に歯止めをかけるというようなことだ。一見、非主流である菅前首相にトクをさせ、主流派の麻生副総裁を貶めるようではあるが、追い詰められている岸田首相の頭はそこまで整理できていないだろう。いずれにせよ、国民が納得する「政治刷新」の結論が出ない限り、麻生氏らは政局を仕掛けづらくなったといえる。

一部メディアの報道によると、東京地検特捜部は、安倍派の事務総長経験者ら幹部議員の立件をあきらめた模様だ。誰もが、パーティー券売上のキックバックが「会長案件だった」と説明しているため、会計責任者と事務総長らの共謀が立証できないというのだ。会長といえば、細田博之氏や安倍元首相をさすのだろう。むろん彼らが還流の仕組みを知らなかったはずはないが、「死人に口なし」とばかりに口裏合わせをしたという見方がもっぱらだ。

この情報がホンモノで、西村康稔氏も世耕弘成氏も無罪放免となるのならば、まさに政治資金規正法の抜け道をうまく利用された形である。政治家に都合よくできている法律は、世の中の役に立たないことを証明している。

もう一度言うが、カネの亡者のような政治屋が集まり中途半端な会議体をつくっても、ろくな結論を導き出せない。国民をうまくごまかす文言をひねり出して、党改革を成し遂げたように見せかけるのがオチだ。

「派閥解消」などと言えば聞こえはいいが、政治が「数」であるならば、強い者のまわりに群れるのが自然である。不可能なことを言い募るより、できることをきちんとやるのが肝心だ。あれこれ見せかけの会議を重ねるのではなく、法改正によって政治資金を徹底的に透明化する方向に岸田首相は進むべきではないか。

それにしても、東京地検特捜部が“トカゲのしっぽ切り”をしただけでこのまま手を引くとすれば、あまりに情けない。政権に配慮し、いい加減なところで“手打ち”をしたと勘繰られても仕方がないだろう。

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image by: yu_photo / Shutterstock.com

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