福沢諭吉とは正反対。中江兆民が生涯を通して貫いた「下から目線」

 

兆民が暴いた粗暴極まりない強盗に過ぎない西欧列強

中江は、福沢を含む開戦論者を激しく非難し、彼らがそうなってしまう根本は、文明を名乗る西欧諸国の欺瞞性に目を瞑ってひたすら憧れて、西欧と同じようにアジア諸国を軽蔑しようとする態度にあると喝破した。その代表的な論説が、中江が(匿名ではあるが)自由党機関紙「自由新聞」に82年8月に3回連載した「論外交(外交を論ず)」である。

欧州諸国の形勢を眺めれば、確かに文物は豊富、学術は精緻で羨み憧れる者もいるけれども、しかしその欧州諸国も増長して世界第一の文明国と自称し「亜細亜地方の人民を視るときは蛮野鄙陋〔野蛮で心が卑しい〕を以てこれを軽蔑するの意あり。しかるに彼の〔欧州〕諸国の他邦と往復交際するを視るに往々騙詐〔だましいつわる〕の計を用い、詭譎〔ケッサ=うそをついてあざむく〕の謀〔はかりごと〕を行ひ、深刻陰険の極、実に狗鼠もその余を食はざるに至る。看ずや英国の支那における、阿芙蓉〔けし〕を輸致して以てその民を毒し、清人覚りてこれを拒むに及びては兵艦を遣はしその沿海を屠焼し、甚きは地を割いてこれを拠有するに至る。看ずや法国の意答利〔イタリ〕における……、看ずや孛国〔ボッコク=プロイセン王国〕の法朗西〔フランス〕における……」「ああ同一凶悪の行為にして庶人の上において言ふときは盗賊の名を免れざるも、邦国の上において言ふときはあるいはこれを称して強国となす。何ぞ論理の相反するの甚きや」(中江兆民評論集、岩波文庫、P.116~118)

と、文明国を名乗る西欧列強が実は粗暴極まりない強盗に過ぎないことを暴くのである。

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