24日に厚労省が発表した、2023年の賃金構造基本統計調査の速報。フルタイムで働く人の平均月収が31万8,300円を記録し、大手メディアはこぞって「過去最高」と書き立てましたが、識者はこれをどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では社会健康学者の河合さんが、数字から読み取れる正社員の厳しい現実を解説。シニア社員までを安い労働力として扱う企業の姿勢を批判しています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
平均賃金“過去最高”も今までが異常だっただけ。「数字」が語る理不尽
「2023年 賃金構造基本統計調査(厚労省)」の速報値が公表され、一般労働者の平均賃金は前年から2.1%増え月31万8,300円で、22年に続いて過去最高を更新したことがわかりました。
“過去最高“と言っても、そんなに騒ぎ立てることではありません。今までが異常だっただけ。「変わらない=上がらない」ならまだしも、減っていたのですから。しかも実質賃金は20ヶ月連続マイナスです。「過去最高!」という見出しを見て「やっぱりね!」「すごい!」などと共感する人がいるのか?甚だ疑問です。
おまけに冒頭の調査対象の多くは「正社員」です。賃金構造基本統計調査での「一般労働者」とは、常用労働者(無期雇用者、1ヶ月以上の期間を定めている有期雇用者)のうち「短時間労働者」以外です。
つまり、「週5日・1日8時間」の週40時間働いている人なら非正規雇用も含まれますが、非正規雇用全体の約7割が週50時間未満の短時間労働者なので、「過去最高!」はおおむね正社員のお話であり、非正規を排除した数字なのです。
しかし一方で、件の速報値を年齢・学歴別に見ると、「正社員」には正社員の厳しい現実が確実に存在することがわかります。どんなにがんばって働いても「50歳になった途端に、会社から用無し扱いされる」という厳しいリアルが、賃金の増減率に顕著に反映されていたのです。
順を追って説明しましょう。
まず、もっとも伸び率が大きかったのが「高卒・20代」です。20代後半は5.5%増えて24万円、20代前半は5.3%増で21万6,000円。続いて「高卒・30代」が3.4~4.0%増と、かなりの高水準で増えていました。
「大卒・20代」も2.6~2.8%増えているので、企業がなんとか若い世代をゲットするために賃金アップに苦心した様子がわかります。
全体的に大卒より高卒が、中高年より若手の方がアップ率が高い「高高大低、若高老低」型といえそうです。
そんな中、「大卒・50代前半」だけが「老低」どころか「老減」になっていたのです。22年の平均賃金より0.2%減の、47万3,000円。減少幅はわずか0.2%ですが、「大卒・50代前半」だけが唯一マイナスというリアルは、「捨てられる50歳の理不尽」そのものではないでしょうか。
以前、インタビューした男性が「うちの会社は50歳になると、『セカンドキャリア研修』という名の肩たたき研修を受けさせられます。おそらく内容はどこの会社も同じだと思います。なのでそれは我慢できます。解せないのは、なんで俺がアイツと同じ扱いなんだよ、ってこと。管理職にもなれなかった万年ヒラの同期がいるわけですよ。それが一番ショックだった。俺の会社員人生、なんだったんだ?ってね」と、やるせない心情を教えてくれました。
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