自民党の権力闘争と化している派閥解消劇
中堅・若手の先頭に立って安倍派の解散を進言するなど、幹部を突き上げてきたのが、福田達夫元総務会長だというのも分かりやすい。
福田氏は安倍派、すなわち清和会を創設した福田赳夫元首相の孫であり、安倍晋三元首相とは折り合いの悪かった福田康夫元首相を父に持つ。福田氏は1月19日の派閥臨時議員総会で派閥の解散方針が決まった後「反省の上に新しい集団を作ることが大事」と述べたが、要は「安倍氏一派に牛耳られた派閥を、この機に創設者の系譜に取り戻す」意図があるのではないか。
結局は政治改革に名を借りた権力闘争に過ぎない、とみた方がいい。
そのような目で党内を見回せば、他の派閥も似たり寄ったりにしか見えない。
例えば茂木派だ。裏金事件の影響が少ない茂木派は派閥を解散せず、政治団体として存続する方針を打ち出しており、茂木氏は一時、裏金事件を理由に安倍派幹部に離党勧告を検討すると報じられた(結果として本人が否定した)。
茂木派の前身は小渕恵三元首相が率いた小渕派だが、2000年に首相だった小渕氏が急病で倒れ、後任に森喜朗氏が首相となって以降、党内は「清和会一強」状態となっていた。茂木氏には「いつかわが派が政権を取り戻す」との思いが強く、裏金事件での安倍派の窮地を、自派にとってのチャンスと見たのかもしれない。
だが茂木派の足元では、小渕優子選挙対策委員長や青木一彦参院議員ら、派閥を退会する議員が続出している。茂木派は「政権を取り戻す」以前に、安倍派とは別の意味で派閥崩壊の危機に陥っているのだ。
茂木派の前身は小渕恵三元首相が率いた小渕派。優子氏はその次女である。青木氏の父親は「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄氏で、二人はともに派閥の「本流」と言える。派閥解消ブームに乗り、日本新党出身で「外様」の茂木氏から派閥の実権を取り戻そうとしている、と見ることも可能だろう。
「政局メガネ」をかけてみれば、安倍派と茂木派の内部で起きていることは、妙にシンクロして見えるのだ。
およそ政治改革などとは言えないこんな派閥解消劇に、メディアも含む永田町全体が沸き立っているのは、それがすでに改革ではなく、自民党の権力闘争と化しているからだ。
自民党政治刷新本部の中間取りまとめには「派閥解散」への言及すらなかった。どうせ派閥は何らかの形で復活する、と党内外の誰もが思っている。そして彼らの関心は、その時に起きる派内の権力移動であり、自民党の派閥の力学の変化だ。「安倍一強」で停滞していた自民党に、久々に大きな権力闘争が起こりそうだ、ということに、党内も外野も血湧き肉躍っている。こんな状況を一番喜んでいるのは、実は岸田首相自身なのかもしれない。
1月26日に召集された通常国会。首相の施政方針演説には「裏金」という言葉すら盛り込まれていなかった。そんな「幕引き」感あふれる施政方針演説のなかで、岸田首相は「政策集団(派閥)が『お金』と『人事』から完全に訣別することを決めました」と訴えた。
それはつまり「『お金』と『人事』を派閥ではなく、執行部が握る」ということだ。派閥のうるさい声を廃し、首相が党内の権力を掌握したい、ということでしかない。
これもまた党内の権力闘争である。
今自民党内で起きているのはこういうことだ。「能登半島地震への対応が急務の時に裏金事件とは……」と嘆くのは少し違う。そんな大事な時に「汚れた政治への反省どころか、党内の権力闘争とは……」と嘆くべきなのである。

最新刊
『野党第1党: 「保守2大政党」に抗した30年』
好評発売中!
image by: 首相官邸









