政敵ナワリヌイ氏が獄死。それでもプーチン独裁が崩壊に向かう理由

 

ナワリヌイ「航空機内毒殺未遂」8人の実行犯

さて、ナワリヌイは2020年8月20日、シベリアの都市トムスクからモスクワに向かう旅客機の中で、毒殺されそうになりました。飛行機は、オムスクに緊急着陸し、ナワリヌイは病院に運ばれた。

彼の妻ユリヤは、「ロシアの病院にいると殺される」と思い、ドイツでの治療を求めます。8月22日朝、ナワリヌイは、オムスクの病院から、ドイツ、ベルリンに搬送されました。飛行機は、ドイツのNGO「シネマ・フォー・ピース財団」が手配したと発表されています。

ドイツでの検査の結果、ナワリヌイ毒殺未遂に使われたのは、神経剤ノビチョクであることが判明しました。ノビチョクは、ソ連が開発した軍事用神経剤。2018年に、ロシアの元二重スパイ・スクリパリと娘のユリヤ殺人未遂事件の時にも使用され、全世界に衝撃を与えました。

ドイツで一命をとりとめたナワリヌイは2020年12月14日、「事件は解決された。私は、私を殺そうとしたすべての人を知っている」という動画を公開。実際の動画はこちら。

Дело раскрыто. Я знаю всех, кто пытался меня убить

この動画の中で、ナワリヌイは、実行犯8人の名前と写真を公開。そして、「このグループに殺人の命令を出しているのは、プーチンだ」と断言しています。

動画の中で明らかにされていますが、犯人捜しをしたのは、ナワリヌイ自身ではありません。「ベリングキャット」という団体です。

ベリングキャットは2014年、イギリスで設立されました。「ファクトチェック」と「オープンソースインテリジェンス」を専門にしている。そのベリングキャットがナワリヌイに連絡をとり、「君を殺そうとした人たちを見つけた」と話したそうです。

この調査結果は、ドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』、スペインの日刊紙『エル・パイス』、アメリカCNNでも検証されました。調査の結果、何がわかったのか?

  • 8人のFSB諜報員が、3年間ナワリヌイの尾行をつづけていた(動画内で、8人の実名と顔写真が公開されている)
  • 8人の人物は皆、「化学」あるいは「医学」の教育をうけており、「ただの尾行」ではない
  • 彼らは「シグナル科学センター」から化学兵器を受け取り、ナワリヌイ暗殺を試みた
  • 8人のグループが、3年間ナワリヌイを追いつづけた。これが、ボルトニコフFSB局長の許可なしで行われることはない
  • そして、ボルトニコフFSB局長が、プーチンの許可なしで、この作戦を指示することはありえない
  • よって、毒殺指令を出したのは、「プーチン自身」である

以上のような論理構成になっていました。

これに対し、プーチンは2020年12月17日の記者会見で、「毒殺したければ、毒殺しただろう」と語り、容疑を否認します。つまり、「ナワリヌイが生きていることが、私(プーチン)が無関係な証拠だ」と。

日本人には理解不能ですが、ロシアでは、このロジックが通用します。ロシア人の多くは、プーチンのこの言葉を聞いて、「確かにその通りだ」と思ったのです。

2020年12月21日、ナワリヌイは、新たに「私は、殺し屋に電話した、彼は〔犯行を〕認めた」という動画を公開します。実際の動画はこちら。

Я позвонил своему убийце. Он признался

ナワリヌイは、パトルシェフ元FSB長官、現安全保障会議書記の補佐官マクシム・ウスティーノフと名乗り、実行犯の「容疑者」に電話しました。そして、「容疑者」クドゥリャフツェフは、飛行機が緊急着陸したオムスクで、ナワリヌイの服を回収し、毒が発見されないように洗ったことを認めたのです。

また、ナワリヌイの下着(パンツ)に毒が塗られたことを認めました(彼自身が毒を塗ったわけではないが、計画を知っていました)。

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