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中国にも行かず「習近平が台湾と尖閣を取りに来る!」と騒ぐ日本の右翼政治家も同じ穴のムジナ。イラク戦争の教訓を学ばない愚かなバイデン

フセイン政権による大量破壊兵器の保有を理由として、米英などの有志連合のバグダッド空爆で始まったイラク戦争。しかし大量破壊兵器が発見されることはなく、アメリカは「大義なき侵略戦争」の主導者として歴史に名を残す結果となってしまいました。しかしそもそも、なぜ後にこの戦争により命を落とすことになるフセイン大統領は、大量破壊兵器の保有を否定しなかったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、フセイン政権の残した第1次資料に基づき、イラク戦争開戦の内幕を描いた米国人記者による著作の内容を紹介。フセインが「高をくくった」訳と、アメリカが最悪の判断ミスを犯した理由を解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題「イラク戦争は米国が嵌った『罠』だったのか/米記者が描くサダム・フセイン側からの開戦の内幕」

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年3月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

アメリカは「罠」にはまったのか。米記者が描くイラク戦争開戦の内幕

ピューリッツァー賞を受賞した米ジャーナリストでコロンビア大学ジャーナリズム学院教授でもあるスティーブ・コールの新著『アキレスの罠:サダム・フセイン、CIA、そして米国のイラク侵攻の起源』(ペンギン出版、24年2月刊)が話題で、米有力紙誌やウェブサイトで書評されている。3月1日付ニューヨーク・タイムズのオピニオン欄にはコール本人が「なぜサダム・フセインのような独裁者が米国の分析家や大統領を混乱させるのか」と題した1ページの論説を寄稿し、また「報道の自由のための記者委員会(RCFP)」のウェブの2月27日付ではコールがインタビューを受けている。

イラク戦争というアメリカ外交政策上最悪の間違い

2003年のイラク戦争は冷戦後の世界で米国が冒した最悪の外交政策上の間違いで、イラク人と米国人の生命・財産に恐るべき損失を与えたばかりでなく、イランの勢力拡大と地域的な代理戦争を招き、今なお米国が中東地域で足をとられ続けている状況を生んだ。

なぜこれほどの間違いが引き起こされたのかについては、サダムが大量破壊兵器を隠し持っているという偽情報にCIAはじめ米諜報機関が振り回されたこと、そのためブッシュ子大統領が判断を誤ったこと、戦争を求める世論が沸騰しメディアがそれを煽ったことなど、米国側の事情は散々に検証されてきた。しかし、なぜサダムは長きにわたり握ってきた独裁権力ばかりか最終的には自分の命まで失う結果となったというのに、持ってもいない大量破壊兵器を持っているかのような印象を米国と全世界に与え続けたのだろうか。そのことは、ほとんど解明されてこなかった。

ところがこのほど、サダムが生前に側近や閣僚など周りの者と交わした会話の2,000時間分の録音テープをはじめ大統領執務関連の大量の文書などが閲覧可能になり、コールは上述のRCFPなどと協力してこれらを解析し、その精髄を本書にまとめた。

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「高をくくっていた」フセインが招き寄せたイラク戦争

上述のNYT論説やRCFPウェブなどの短い表現からは多くのことを読み取ることは出来ないが、いずれにしてもサダムの米国への認識と対応姿勢は複雑で、愛憎相半ば(アンビバレント)とさえ言えるほどだとコールは指摘する。サダムは1979年に大統領になった直後、80年代からCIAの協力者ないしお互いに利用し合う関係を築いていて、その最も重要なカウンター・パートナーは、CIA長官(1976年~77年)からレーガン政権の副大統領(81~89年)となったジョージ・ブッシュ父である。彼は、レーガン大統領のイラク派遣特使として暗躍しサダムと親しかったドナルド・ラムズフェルドと共に、当時イランとの「イラ・イラ戦争」を戦っていたイラクを物心両面で支援した(ラムズフェルドは周知のように、ブッシュ子政権の国防長官として2003年のイラク侵攻の急先鋒となる訳なので、これはまさに歴史の皮肉でと言える)。

ところがブッシュ父は大の陰謀好きで、イラクを支援する一方でその戦争相手であるイランに密かに接触し、ホワイトハウスの国家安保担当補佐官ポインデクスター、その下の国家安保会議軍政部次長ノース大佐らを指揮し、イランに武器を密輸して議会を通さない裏金を作り中米ニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」に提供していた。これは86年に「イラン・コントラ事件」として発覚し、ブッシュ父の責任が取り沙汰されたが何とか追及を免れた。

コールによると、この一件でブッシュ父のチームがイランへの密輸作戦に際してイスラエルの諜報機関の協力を仰いだことを知って、イスラエル嫌いのサダムは激怒した。以後サダムは急激に反米化するが、反面、CIAの情報収集力や陰謀工作力に感服もしていた。だから2001年の9・11後にブッシュ子大統領がサダムが大量破壊兵器を隠していると非難を開始した時にも「CIAは何でも知っていて、我々が大量破壊兵器を持っていないことも、もちろん知っている。それなのに政治家がそのことを言い立てるのは、単に戦争開始の口実が欲しいだけだ〔からきっとCIAが止めてくれるに違いない〕」と高をくくっていた。そのため結果的に戦争を招き寄せることになった――と言うのである。

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イラク戦争の教訓に学ぶべき台湾危機を煽る日本の右派政治家

サダムは本当にそれほどCIAを信頼していたのかどうか。あるいはそのように周りに説明して大量破壊兵器保有のデマを敢えて放置して、米国を戦争に引き摺り込もうとしたのか。いずれにしてもCIAにはイラクに大量破壊兵器がもはや存在しないことを知っている者は少なからずいただろう。にも関わらずその声がホワイトハウスにまで届かなかったのは、コールによれば、CIAはじめ経験ある分析家の間では政界や世間に広まっている考えに安易に同調する「集団思考(グループシンク)」の傾向が強く、それが判断ミスを生む温床となった。

政治家のトップでも、例えば98年にクリントン大統領が英国のブレア首相と個人的にサダムについて話した際に、自分たち2人をはじめ両国の外交官も誰一人としてこの何年もの間、サダムと話をしていないことを嘆き合っている。クリントンは「もし自分が出来るのなら、電話器を取り上げてあの野郎を呼び出すだろう。しかしそれは米国では危険極まりないことで、もし私がそんなことをすればたちまち炎上してしまうだろう。だけどやっぱり彼と話をすべきなんだよな」と言っていた。確かに、コールが調べた限りでは91年以来、米国のこれと言う高官でサダムやその側近と直接言葉を交わした者は一人もいない。

このような対話も外交交渉もなしに相手の考えを勝手に推測して相手を「ヒトラーのような独裁者」などと決めつけ、戦争や武器支援などの全面対決に踏み切ってしまうという形は、イラク戦争だけの話ではなく、米国のロシアやハマスへの非難、ウクライナとイスラエル支援の現状にも共通している。コールはそのことに触れていなさそうだが、イラク戦争の教訓を誰よりも学ぶべきはバイデンだろう。それに、中国に行って対話を試みたこともなしに「習近平が台湾と尖閣を取りに来る」と騒いでいる日本の右翼政治家も、である。

ところで、一言付け加えさせて頂くと、ここでコールが言っていることの多くは、私が9・11直後から本誌で書いていることである(『滅びゆくアメリカ帝国』=にんげん書房、2006年9月11日刊で、本誌01年9月17日号から06年5月15日号までの主要関連記事を収録)。

コールの功績は、フセイン政権の残した第1次資料に基づいて改めて事実を検証したことにあるが、ブッシュ子がアフガン戦争へ、イラク戦争へとのめり込んでいくのと同時代的に対決し、その判断の間違いを指摘し続けたのは私の小さな功績として自慢させて頂いていいことなのかもしれない。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年3月4日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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 image by: Frontpage / Shutterstock.com
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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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