厚生労働省が先月19日に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン[PDF]」は、従来のジョッキやグラス数換算ではなく「酒に含まれる純アルコール量」を基準に飲酒の健康リスクを示すもの。基準以上のアルコール摂取により「脳梗塞」「高血圧」「胃がん」「大腸がん」などへの罹患率が高まるとしていますが、この基準を「アホか!?」とバッサリ斬り捨てるのは、メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』の著者で、京都大学大学院教授の藤井聡さんです。日本という国を破壊し、逆に国民を不健康に追い込んでしまう“厚労省基準”の問題点とは?
(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2024年3月2日配信分の抜粋です)
厚労省「飲酒ガイドライン」は大きなお世話、しかもデタラメ
今朝、朝日放送の「正義のミカタ」で、厚生労働省が「飲酒ガイドライン」をまとめた、というニュースが取り上げられました。このニュースを解説した「専門家」は、医師の和田秀樹先生。
どうやら政府・厚労省がまとめたこの「飲酒ガイドライン」では、健康のために、純アルコール量が男性なら40グラム未満、女性なら20グラム未満になるようにしましょう、ということのようです。
で、この20グラム、というのは…
- ビールならロング缶一本
- 酎ハイなら缶酎ハイ一本
- ワインなら小さいグラスで2杯
- 焼酎ならコップ半分
- ウィスキーならダブル一杯
という分量。
要するに厚労省は、女性なら上記のいずれか一つでも飲んでしまったら、もうリミットになるので、それ以上に飲むのは止めましょう、と言い出したわけです。
しかも厚労省は以上を示した上で「体質などによってはより少ない量にすることが望ましい」とまで言ってのけたようです。
しかもしかも、「純アルコール量」を60グラム以上摂取すると、急性アルコール中毒などが起きる可能性があるため、避けるべき」とすらのたまっています!
つまり、焼酎コップ一杯と、ビールロング缶ずつ飲んじゃうと「急性アル中」になる可能性があるから避けろと言ってるわけです。
日本の経済と文化を破壊する「馬鹿丸出し」のお役所仕事
僕の知り合いでもお酒の弱い人は生中一杯以上飲めない人も居ますし、全く飲めない人も居るのは事実ですが、もっともっと飲んで長生きする人もたくさん居ます。
それなのに「ガイドライン」と称して十把一絡げに「お酒の量は、一日あたり、ビールロング缶一本にしましょう!」「焼酎とウィスキー一杯ずつのんだら急性アル中になるかもしれませんから止めしょう!」なんていう事を、政府のガイドラインとして公表するなど、ハッキリ言って「馬鹿丸出し」。
酒の神様の京都の松尾大社や奈良の大神神社の神々やギリシャのバッカス等の神々の逆鱗に触れること請け合いな、神々を冒涜する愚か極まりない話です。
この厚労省の「飲酒ガイドライン」の背後には勿論、医師達がいます。どっかの論文引っ張ってきて、それを根拠に「それ以上飲むと、生活習慣病リスクを高めるという事が統計学的有意になったというエビデンスがあるのです」なぞと言いつつ策定したものに違いありません。
ホンット、こういう馬鹿のせいで、今、日本は潰れそうになっている、っていうことが、その医師達も厚労省の役人達も全く分かってないのでしょうね。
こういう医師や厚労省の小役人達(以下、コイツらと呼称しますね 笑)の態度を筆者は、拙著『過剰医療の構造』でも詳しくガッツリ批判しているのですが、ここでは改めて、コイツらがどれだけバカなのかを以下に解説いたしたいと思います。
不適切にもほどがある「健康リスク」の嘘八百
そもそもコイツらは、「生活習慣病リスクが上がってしまう酒量はいくらなのか」という研究を踏まえているのでしょうが、コイツらが評価しているのは「飲酒についての生活習慣病リスク」だけなのです。
しかし、「酒量」というものは「生活習慣病リスク」だけに影響するのではありません。万が一にでも、「生活習慣病リスク」だけに影響しているのなら、僕もこのガイドラインに賛成しても別に構いません。
しかし「酒量」は、人々の社会的行動、文化的行動、芸術的行動に強烈に影響を与えると同時に、それを通してメンタルヘルス、つまり、精神的健康に巨大な影響を与えているのです。
社会的行動や人々の精神的健康に影響を与えるということは、政治の有り様や社会の有り様や経済の状況にも巨大な影響を与えている、と言うことになります。
そういった事を全て度外視して、「生活習慣病リスク」に及ぼす影響だけに基づいて「酒量のガイドライン」を決めるなぞというのは、バカにも程があります。
しかも、コイツらが言う「ロング缶一本飲んだら生活習慣病リスクが上がるぞ」という話は、「上がるか上がらないかと言えば、上がらなくはない」というだけの話であって(それこそが、コイツらが準拠する“統計的有意”という奴です)、「どれくらいヤバいのか」という点については何ら配慮していないのです。
この点は拙著『過剰医療の構造』でも詳しく批判しましたが、重要なのは、「上がるかどうか」という話ではなく「どれくらい上がるのか?」という点なのです。
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「ゼロリスク」を国民に押しつける厚労省の無責任
例えば、外に出れば、クルマに引かれる確率は確実に上がります。
だからといって、どっかの役所が「クルマにひかれるリスクが上がるので、外出するのは止めましょう」というガイドラインを作ったら、誰もが「アホか!?」と思うことでしょう。
なぜなら、「そんなの分かってるよ!あたりめーだよ!!」という話だからです。
ここで重要なのは、「どれくらい上がるか」なのです。
「外出すれば、クルマでひかれて死ぬ確率が、1割を超える状況になりました」とか言われれば、「まぁそれならしょうがない…」と思う人が出てくるでしょうけれど、「引かれるリスクが上がるのダ~!だから、外出してはいけないのダ~!」っていうアホがでてきたら、万人がお前はバカボンのパパか!?と思うに違いありません。
つまり、リスクが「上がる」ということ事態は、殆ど何の意味もない話なのです。
ある行為をすることであるリスクが上がるということがあったときに、その行為によって得られる「メリット」と、そのリスクの「デメリット」とを「比較」して、その行為をするか止めるかを、我々は日々判断しているのです。
というか「そうすべき」です。「リスクがある」というだけで全てのリスクを回避しているようでは、我々は普通の幸福な生活など絶対手に入れることができなくなるのです。これは、まったくもって「常識」と言う他無い、当たり前の話です。
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“ガイドライン遵守”で、逆に健康を損なう恐れ
にも関わらず、この厚労省のガイドラインは、そんな人間の「常識」を完全に無視し、飲酒を止めることの「デメリット」を度外視し、どれほどの「メリット」があるのかについて何も言及せずに、強制的に飲酒をヤメろと主張しているわけです。
そんな事すれば、伏見や灘の作り酒屋から大手酒メーカーを含めた酒産業や、居酒屋やバーやレストラン等のあらゆる種類の飲食業が深刻なダメージを被るのはもちろんのこと、酒場で繰り広げられた様々なコミュニケーションが失われ、それによって支えられてきた良質な社会活動や組織運営、効果的なビジネスや政治判断や、ひいては高度な学術活動を激しく毀損する事になります。
さらに言えば、本日、医師の和田先生が主張されていたのは、飲酒には「健康増進効果」があるという話。
良好な「飲酒コミュニケーション」は、精神的健康を高め、うつ病をはじめとした精神疾患の発症リスクを引き下げます。そして精神的健康の維持や幸福感の増進は「免疫力」を高め、それを通してがんの発生リスクが低下するというメリットを持つのです。
そしてもちろん、免疫力はがんの発生リスクのみならず、風邪やインフルエンザやコロナをはじめとしたあらゆる感染症のリスクを引き下げることにもなります。
そう考えれば、飲酒を全くしないことで、かえってトータルとしての健康が劣化することすらあるわけです。
にも関わらず、「ロング缶一本以上飲むのはやめましょう」なぞという単純極まりないメッセージを発するなど、バカとしか言いようがありません。
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新型コロナの二番煎じ。厚労省のウソを見抜け
このバカ話は、コロナのバカ騒ぎと全く同じ構図を持つものです。
要するに、現代の医師や医療行政は、特定の疾患リスクを限りなくゼロに近づけるためのあらゆる自粛を要請し、それを通してトータルの健康水準にダメージを与える愚かな帰結をもたらし続けているのです。
ついては、コロナのバカ騒ぎのような阿呆な社会的風潮が、この飲酒ガイドラインの公表を通して僅かなりとも進展しないように、こんなガイドラインは国民皆で徹底無視し、我々の「常識」に基づいて、「飲み過ぎ」には気を付け、「一人飲み」「深酒」は極力避けつつ、週に一、二度は「休肝日」を設ける…という恰好で、上手に酒と付き合って行くことが、大切です。
我々は下らない数値基準などに惑わされず、今一度、自らの身体性と社会性、倫理性ある常識を鍛え続けていかねばならないのです。
酒は飲んでも飲まれるな、かしこく上手に(そして、時には医者の話にももちろん耳を傾けつつ)、酒と付き合って参りましょう。
(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論』2024年3月2号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ)
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