MAG2 NEWS MENU

大谷翔平は“アメリカの罠”を克服するか?水原通訳の危険なテキストメッセージ…野球賭博の有無 最大焦点に

大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏による違法賭博スキャンダル。大谷選手は25日の会見で自身の関与を完全否定しました。これに関して米国在住作家の冷泉彰彦さんは、「水原通訳がどうやって大谷選手の銀行口座を操作したのかや、カリフォルニア州ではスポーツ賭博が違法であるといった点は、実はさほど重要ではない」と指摘。今後最大の焦点は「不自然なほど頻繁にスマホでテキストメッセージをやりとりしていたとされる水原通訳が野球賭博に関与、ないし胴元に内部情報を提供していたかどうか」であるとして、大谷選手をここまで追い詰めたアメリカ野球賭博の実態を紹介しています。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「水原元通訳、野球賭博への関与が問われる理由」

大谷翔平がハマった“アメリカ野球界の罠”

アメリカ野球界は、大谷翔平選手の専属であった水原一平元通訳のスキャンダルで大騒ぎとなっています。すでに国税当局(IRS)が捜査に動いており、メジャーリーグ(MLB)のコミッショナーも厳重な調査を命じています。

今のところ問題になっているのは、大谷翔平選手がどのような「被害」を受けたかのという点です。

水原元通訳が様々なギャンブルに負けて作った450万ドル(6億8千万円相当)の借金について、これを返済するために大谷翔平選手の銀行口座から「どのようにカネが動いたのか」という問題です。

この問題に関しては、3月25日(現地時間)に大谷選手が会見し、送金に関して自身の関与を全否定しました。

と明言。これで水原元通訳による巨額窃盗という構図が確定しました。大谷選手には虚偽を述べることの合理性はなく、この線で事実認定がされれば、大谷選手は100%被害者ということで、ダメージは最も軽くなります。

そうではあるのですが、では、どうしてこの事件がアメリカでこれほどまでに重大視されるのかといえば、そこにはやはり「違法性」という問題があるからです。この「違法性」、問題は3つあります。

「窃盗」や「違法賭博」は本質ではない

1つは、水原元通訳の「窃盗という犯罪」です。どのように大谷選手のパスワードを盗んだのかなど、細かい点の確認は必要であるものの、窃盗とこれに関連した、詐欺、脱税など罪状はやがて確定してゆくでしょう。

2つ目は、違法賭博への参加という問題です。近年、アメリカの多くの州で解禁されて巨大な産業になっているオンラインによるスポーツ・ギャンブリング(スポーツ・ベッティング)が、「カリフォルニア州では州の憲法の規定により解禁されていない」という問題があります。

水原元通訳は、エンゼルス時代もドジャースに移籍してからも、居住地はカリフォルニアですから、オンラインでのスポーツ賭博に賭ける行為は違法です。

けれども、こうした「カリフォルニアなので違法」という指摘は、実は本質的な問題ではありません

「野球人による野球賭博」こそが最大の問題

もちろん、違法は違法ですし、立証されたら有罪です。ですが、深刻なのは3番目の問題、つまり「野球人が野球賭博に関与」という問題です。

水原元通訳は球団に雇われた職員、つまり野球界の内部の人間として全試合、全イニングにベンチ入りする現場の人間でした。

野球賭博について言えば、このような野球の現場の人間が関与することは、協約や個別の契約で厳格に禁止されています。「カリフォルニアでオンラインスポーツ賭博に賭けたから犯罪」というよりも、この違反の疑いのほうが深刻な問題です。

水原元通訳は、自分が賭けていたのはバスケやフットボールなど野球以外のスポーツだとしていました。これは、野球賭博をやったら重罪という禁止事項を意識してのことであることは明白です。

もしも水原元通訳がウソをついており、野球に関する賭けにも関与していたのであれば、少なくとも水原元通訳は野球界から永久追放になります。

大谷選手が全面否定をするまでの期間は、まるで「大谷スキャンダル」のような言い方をする人がアメリカでは見られましたが、それはこの問題があまりに深刻だからです。

大谷を追い詰めた、アメリカ野球賭博のヤバい現状

では、どうして野球界の内部の人間が野球賭博に関与したら重罪なのかというと、具体的には3つの問題を考える必要があります。

1つは、敗退行為の可能性です。日本の場合は、1960年代に日本プロ野球を大きく揺さぶった「黒い霧事件」で有名になったのですが、要するに野球賭博の胴元が実際に野球選手に金銭を提供し、選手は意図的に試合に負けるような工作(八百長)をするということです。

要するに、胴元の方は工作を施した球団の敗退に賭けることで、賭け金を回収するわけですから、全体としては単純なイカサマということになります。

この問題は、さすがに今回の事例ではあり得ないと思います。水原元通訳はあくまで通訳であって試合に参加していないし、自分が通訳兼マネージャーのような密接な関係にあったからといって、ほかでもない大谷選手を使って敗退行為を工作するというのは、どう考えても不可能です。

2つ目は、内部の人間だけが知り得た情報によって自分が賭ける行為になります。ベンチ内にいて、明らかに自分だけが知りうる情報に基づいて賭けており、その結果として賭けに勝っていたのならば、これは悪質なインチキです。

ただ、違法カジノであれ、ログデータは残っているはずで、確認はできるでしょう。もしも発覚すれば永久追放は免れません。

3つ目は、内部情報の提供です。今回の問題における可能性としてはこちらであり、恐らくFBIも、そしてMLBも厳格な捜査を行うことになると思います。

その前提として、現代アメリカのネット野球賭博の仕組みは非常に高度だという点があります。勝敗に賭けることもできますが、もっと細かい試合の経過や選手個人の成績も賭けの対象となっているのです。例えばですが、

「豪速球のゲリット・コール投手と、ホームランバッターのブライス・ハーパーが本日すでに2回対戦して2打数1安打1三振でしたが、次の打席に本塁打が出ると賭けて当たれば賭け金が317%になります」

とか、同じ状況で、

「次はハーパーが三振すると賭けて、三振したら289%です。おっと、第一球はボールでした。では、312%にアップです」

という具合(数字を含めてあくまで架空の例)です。

水原通訳が徹底追及される「情報漏洩」の有無

参加者は通常、対象試合のTV中継を見ながら、スマホのアプリで試合経過によって出てくる様々なチャンスに賭けを繰り返すことになります。

オンライン賭博が合法化されている州の場合は、MLBの中継映像の提供元が、オンラインカジノであることが多く、試合中も画面の隅に、こうした「賭けのチャンスと賭け率」が表示されます。

試合の勝敗に賭ける場合も非常に複雑です。例えばある日のヤンキース対メッツ戦の場合、過去の両者の対戦におけるホーム、ビジターでの勝敗だけでなく、先発ピッチャーのデータ、主要な打者のデータなど、多くの要素を検討したうえで、どのような計算式で賭け率が決められているかが公開されています。

実は、この賭け率というのは、相当程度まで公開されたデータに基づいて、計算式もデータサイエンスのセオリーに沿って公開されています。これに加えて、参加者が細かなデータを持っていると有利になる場合もあります。

例えば、審判の特性などが勝負を左右するので、システムは「その審判が主審をした場合のストライク判定率」などを公開しているのですが、仮に「その審判とその日の先発両投手の相性」を良く知っている人間がいれば、システムを上回るデータ力で、有利になるかもしれません。

とにかく、リアルタイムで刻々と賭けの対象も賭け率も変動する中で、ユーザーは、自分の賭け屋に預けたキャッシュの残高をアップダウンさせながら楽しむという仕掛けです。

多くの賭け屋は、新規ユーザーにはいきなり300ドル(4万5千円相当)などのボーナスを最初に与えて(ただし、このボーナスの即時引き出しは不可能)、「ギャンブルの沼」に引き込むようになっています。

そんな中で、仮に胴元が、試合の進行中のベンチから情報提供を得ていたとしたら、純粋にデータサインエンス上の胴元と参加者の「知恵比べ」であるはずの野球賭博において、胴元が不正に有利な操作をすることが可能になってしまいます。

水原通訳のスマホに頻繁に届いてたテキストメッセージ

仮の話になりますが、水原元通訳が野球賭博を運営している胴元と親密となり、要求されるままに、「今のピッチャーはあと打者2人で交代みたいだ」とか「自分のボスには今日は盗塁のサインは出ない約束らしいよ」などという情報をリアルタイムで提供させられているとしたらこれは深刻です。

仮に情報の提供という一線を超えてはいないとしても、巨額の借金をカタに情報提供を迫られ、テキストメッセージなどでかなり危ない会話がされていたとしたら、潔白を証明するのは困難を極めると思います。

もちろん、試合中はベンチでスマホを使った交信などは不可能なので、観客席とのサインでのやり取りなどスパイもどきの行動になっていたかもしれません。リアルタイムの情報でなくても、仮に選手が負傷した場合の深刻度や、新しくメジャーに上がってきた選手の特徴など、ベンチの内部者しか知らない情報を胴元に流していたら、これも問題です。

一部の報道によれば、水原元通訳のスマホには不自然なぐらい頻繁にテキストメッセージが入っていたという証言もあります。その頻繁なメッセージが、借金返済の催促ならまだしも、内部情報の提供を強要するものであったら、これは本当に深刻です。

仮にそうした行為がされていたとしたら、ギャンブルの勝負はこれによって歪められ、瞬時に何百万ドル(数億円)のカネがオンライン上で動くことになるからです。

仮にそうした行為を強いられていたのであれば、これは本当に大変です。水原元通訳を永久追放にすれば済むというだけでなく、MLBとしてこれまで認めてきた合法オンライン野球賭博の、産業そのものの存立に関わる大事件ということになります。

そうなれば残念ながら、大谷翔平選手にも詳しい聞き取りなどがされるかもしれません。MLBとして神経質になっているのは、恐らくこのためです。

“大谷ゲート事件”で、米球界が様変わりする可能性

もう一度確認しておきたいのですが、水原元通訳がどうやって大谷選手の口座を操作したのか、また、スポーツ賭博について「カリフォルニアで違法」だという意味合いでの違法性を水原元通訳が認識していたかどうかという話は、それほど重要ではありません。

ですが、水原元通訳が野球賭博にも関与していた場合、あるいは胴元との関係のために情報提供など悪質な行為に加担していたとなると、事態は非常に深刻となります。

私はその場合でも、大谷選手が処分される可能性はないと思っています。ですが、捜査は厳格を極めるでしょう。

日ハム時代以来の大谷選手と水原元通訳の関係性、会話の内容などを厳しく捜査されて、大谷選手自身も辛い経験をさせられる可能性は十分にあります。

さらに言えば、これからのMLBでは、日本人選手の通訳として、日本語が母国語の人を入れて、選手がベンチ内でその通訳と日本語で会話するというのは、周囲が警戒する可能性があります。

大谷選手に関しては、今回は通訳を入れて説明しましたが、今後は、あらゆる問題に関して、英語で自分の言葉で丁寧に説明することが求められると思います。

いずれにしても、アメリカの野球界では、この問題は最大級のスキャンダルとして取り上げられています。推移をしっかりと見極めていきたいと思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年3月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

冷泉彰彦さんの最近の記事

【関連】大阪桐蔭の敗退で自己破産まっしぐら!? オッズ1.04倍に全財産投入?下関国際の大金星に揺れる高校野球賭博の実態


初月無料購読ですぐ読める! 3月配信済みバックナンバー

※2024年3月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、3月分のメルマガがすべてすぐに届きます。
2024年3月配信分
  • 【Vol.527】冷泉彰彦のプリンストン通信 『もしトラ安保危機、シナリオC』(3/26)
  • 【Vol.526】冷泉彰彦のプリンストン通信『「もしトラ」騒動、現状は最悪』(3/19)
  • 【Vol.525】冷泉彰彦のプリンストン通信『2034年の世界を考える』(3/12)
  • 【Vol.524】冷泉彰彦のプリンストン通信『2014年の世界(創刊10周年)』(3/5)

いますぐ初月無料購読!

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2024年2月配信分
  • 【Vol.523】冷泉彰彦のプリンストン通信『熊本TSMCは日本経済の墓標か』(2/27)
  • 【Vol.522】冷泉彰彦のプリンストン通信『政治不信の根源は制度の問題』(2/20)
  • 【Vol.521】冷泉彰彦のプリンストン通信『流転する政局、今週の状況』(2/13)
  • 【Vol.520】冷泉彰彦のプリンストン通信『日米の政局、混沌の裏』(2/6)

2024年2月のバックナンバーを購入する

2024年1月配信分
  • 【Vol.519】冷泉彰彦のプリンストン通信『月末特集、さまざまな論点』(1/30)
  • 【Vol.518】冷泉彰彦のプリンストン通信『日米における民主制度の変容』(1/23)
  • 【Vol.517】冷泉彰彦のプリンストン通信『誤解される能登半島地震』(1/16)
  • 【Vol.516】冷泉彰彦のプリンストン通信『航空保安における90秒ルール』(1/9)
  • 【Vol.515】冷泉彰彦のプリンストン通信『緊急提言、能登半島地震』(1/2)

2024年1月のバックナンバーを購入する

2023年12月配信分
  • 【Vol.514】冷泉彰彦のプリンストン通信『地を這う日本の生産性』(12/26)
  • 【Vol.513】冷泉彰彦のプリンストン通信『最近の『日本映画』3本』(12/19)
  • 【Vol.512】冷泉彰彦のプリンストン通信『アメリカ政治の現実乖離』((12/12)
  • 【Vol.511】冷泉彰彦のプリンストン通信『日本政治における空洞について』(12/5)

2023年12月のバックナンバーを購入する

image by: Los Angeles Dodgers(@Dodgers)公式X(旧Twitter)

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け