日銀のマイナス金利解除を嘲笑うかのように進む円安。この“意外な円安”に、財務省の神田眞人財務官は「違和感」を表明し、市場関係者の間でも「為替介入間近」の見方が増えてきた。だが、そんな状況でも「米ドル資産を円に転換しようとはまったく思わない」とするのは、メルマガ『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』の著者で、資産運用に詳しい作家の鈴木傾城氏だ。鈴木氏が「アメリカという国が好きなわけではない」にも関わらずドル資産を保有しつづけ、「一時的に円高になっても、最後は円安に向かう」と断じる理由とは?
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
日銀は円安阻止に「あらゆる手段を排除しない」というが、私はこう考えている
2024年3月19日、日銀はマイナス金利の解除を決めた。それと同時に、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の廃止や上場投資信託(ETF)の新規購入の停止も決定した。
植田総裁は「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定の目標が持続的安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断した」と説明した。
本当に賃金と物価が2%で持続的にあがっていくのかどうか、どこを見て判断したのかさっぱりわからないのだが、日本でも2022年から物価が上昇しているのは間違いないので、少しくらいは何かしないといけないと日銀も思ったのだろう。それが、マイナス金利の解除であった。
通常、金利があがると為替レートでその国の通貨は上昇する。ところが、日銀のマイナス金利の解除のあとに起こったのは、その真逆で「ドル高円安の進行」であった。通常とはまったく逆のことが起こった。
神田眞人財務官は「反対方向という意味で強い違和感を持っている」「ファンダメンタルズに沿ったものとは到底いえない」と不快感を隠さない。
日銀や政府は「円安が是正されて円高になる」という目論見があったのだが、そのとおりにならないので驚いているというのがこの発言でもわかる。
なぜ、そうなったのかという理屈に「背景に投機的な動きがあることは明らか」と神田眞人財務官は分析している。
そこで3月27日、「行き過ぎた動きに対してはあらゆる手段を排除せずに適切な対応を取る」「文字通りあらゆる手段を排除しない」と市場にメッセージを伝えている。
円安がずっと続いているのだが、これからどうなるのだろうか……。
為替介入で円高になる?それがどうした
政府は「円安が想定外」「行き過ぎたらあらゆる手段で何とかする」と断言しているのだから、「少しくらいは円高にしたい」という気持ちが切実に見えてくる。
それならば、どこかの水準で政府が為替市場に介入してきて円高に振れるというのは、もはや既定路線であるようにも思える。
日本政府が「そうしたい」といっているのだから、ある程度はそうなると考えるのはおかしなことではない。「あらゆる手段を排除しない」というのは、そういう決意があるという表明である。
「いつドル高円安が反転してドル安円高になってもおかしくない」と考える人の根拠はここにある。
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なぜ市場は政府の思惑どおりに動かなかったのか?
ただ、興味深い点があるとしたら、「なぜ市場は政府の思惑どおりに動かなかったのか」という点だ。これについては多くのアナリストが分析しているのだが、まとめると以下のようになる。
「日銀が操作する政策金利は今マイナス0.1%だが、これがゼロになったところで利上げ幅が小さすぎて、ぜんぜん引き締めになってない」
しかも日銀はゼロ金利解除を発表前から小出しにしていて、「そろそろゼロ金利を解除する」というのが発表前から周知されているような状況でもあった。そのため、発表時にはまったく何のサプライズもなかった。
そういうのもあって、市場は足元を見透かしており「日銀の動きはたいしたことではない」と判断し、逆にそれを折り込んで円安に向かった。
ある意味、日銀や日本政府の動きは市場に「舐められていた」という見方もできる。日銀が市場に舐められているのであれば、「あらゆる手段を排除しない」というのも口先だけと見なされて、円安はけっこう長めに続くという見方をしているアナリストもいる。
日本は金利を引き上げていけるような状況になっていない
では、日銀や日本政府が「あらゆる手段」を使って円高にしたら、それは定着するのだろうか。為替の動きは日本政府や日銀の都合で決まるものではないので、「一概にそうとはいえない」と考える人もいる。
日本の金利が「ゼロ」でアメリカの金利が「5.25%」だったら、誰でもアメリカに資金を持っていく。グローバル資金は、金利の低い通貨から金利の高い通貨に流れるのは「常識」だからだ。
アメリカの景気はまだ底堅く、金利の引き下げはまだ不透明である。それは、高金利が意外に長く続く可能性があるということを示唆している。
そうであれば、円を売ってドルに替える動きはとまらない。一時的に日本側が何か為替操作しても、この金利差の構造が変わらないのであれば、結局はドル高円安になるという話でもある。つまり、こういうことだ。
一時的に円高になっても、最後は円安に向かう。
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日本政府にも日銀にも、金利を上げつづける覚悟はない
もし、日銀がどうしても円高にしたければ、どうすればいいのか。
簡単だ。金利をどんどん上げていけば目的を達成することができる。
「強い違和感を持っている」とか、「あらゆる手段を使う」とか、いちいちそんな決意を述べなくても、ただ単に政策金利を「もっと上げる」だけで円高に触れる。
しかし、日本政府も日銀も金利をどんどん引き上げる決意は持っていない。
金利を引き上げれば、これまで長期債を大量に買ってきた日銀は国債の利払い負担が増加する。
さらに企業の資金調達コストや家計のローン返済負担が増加して脆弱な日本経済がポッキリと腰折れする可能性もある。
ちなみに、住宅ローンを組んだ日本人の7割は「変動金利」である。ギリギリでやっている人たちは金利が1%でも上がったら、年間で数十万もの返済額が上がって一気に首が絞まる。経済破綻しなくても利払いで窮する。
わかりやすくいうと、日本は金利をどんどん引き上げていけるような状況になっていないのだ。
「金利を引き上げたら日銀自身が破綻する」と主張するアナリストもいるが、そう思われてもしかたないほど日銀のバランスシートや日本人の家計は醜悪だという話でもある。
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筆者がドル資産を円に戻す必要性をまったく感じない理由
私たちは投機家ではないので、ドル円レートがどのように推移するのかは毎日のように追う必要はないと思うが、「投資」をする上では最終的にドルと円はどちらのほうが保有する価値があるのかを知っておくのは重要だ。
その国の通貨は、短期や中期では上にも下にも動くのだが、最終的には国力を反映した価格に落ち着いていく。つまり、ドル円レートでいえばこういうことだ。
将来的にアメリカが日本よりも成長するのであればドルは強くなる。
将来的に日本がアメリカよりも成長するのであれば円が強くなる。
「金利を上げたらいくらでも通貨高になるのだから、将来的な成長は関係ない」という人もいるが、それは間違っている――
※本記事は有料メルマガ『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』2024年3月31日号の一部抜粋です。この続きは、初月無料のメルマガお試し購読の上、3月分バックナンバーを購入してお楽しみ下さい。
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