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小林製薬「紅麹」禍を招いた、安倍晋三元首相の「演説」と「功績」…陰謀論ではないアベ友と機能性表示の闇(辻野晃一郎氏)

小林製薬の「紅麹」による健康被害が相次いでいる問題で、故・安倍晋三元首相とその取り巻きの責任をあらためて問う声が高まっている。「機能性表示食品」制度の創設を主導した「アベ友」の面々は、私たち国民の健康を犠牲にして、どのような利益供与を受けてきたのか?メルマガ 『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ の著者、辻野氏が詳しく解説していく。一部狂信的な信者は「なんでも安倍さんのせいにしたがる左翼連中の陰謀」などという妄想をSNS上で垂れ流しているが、ここまで証拠が出揃ってしまっては言い逃れは不可能だ。
※本記事のタイトル・見出し・SNS埋め込み等はMAG2NEWS編集部によるものです/原題:小林製薬の健康被害問題について(前編)

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

陰謀論ではない厳然たる事実。安倍元首相と紅麹事件の関係

(4/5号「気になったニュースから」より)
現在までに5人もの関連死が疑われている小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」による健康被害について、メルマガ前号でも少し触れましたが、今号ではこの問題をもう少し掘り下げておきたいと思います。なおその後、「紅麹コレステヘルプ」だけでなく、同社の「ナイシヘルプ+コレステロール」でも被害が出ていることが判明しています。

まず、前号(3/29 Vol.50)では、以下のように述べました。

現在問題になっている小林製薬のサプリによる健康被害についても、メディアは表面的なことだけを追いかけていますが、抜本的な問題として、安倍政権時代の経済政策の一環で、2015年、これまでの「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品」というジャンルに加え、新たに「機能性表示食品」というジャンルを作って健康食品市場の参入障壁を下げたという経緯を知っておく必要があります。端的に言えば、国民の健康よりも経済が優先されたことが今回の健康被害にも繋がっているのです。

トクホでは、健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、たとえば「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されますが、表示される効果や安全性については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可する制度になっています。これに対して、機能性表示食品は、あくまでも事業者の責任において機能性の表示が認められる食品です。販売前に安全性や機能性の根拠に関する情報を消費者庁に届け出ればよいだけで、国の審査や消費者庁長官の個別の許可を受けるものではありません。

ひと頃から、サントリー、キリンといった大手だけでなくさまざまな中小企業がこぞって健康食品市場に積極参入していますが、背景には経済界と政界の癒着があり、今回の小林製薬の健康被害の根底にある問題として見逃してはならないと思います。トクホとして認められなかった健康食品が、機能性表示食品として市場に出回る事態に対して、安全性を懸念する声は当初からあがっていたのです。

この2015年の規制緩和の結果、図1に示す通り、2023年には約7,000億円規模の新たな市場が生まれました。届け出数は約6,800件とトクホの6倍を超えるそうです。

市場原理からすれば、国の審査が厳しくて、許可を得るまでに大きな資金と長い時間が掛かるトクホよりも、手軽に健康効果を謳えるジャンルが出来たわけですから、トクホの市場がシュリンクして機能性表示食品の市場が一気に立ち上がったのは自然な流れと言えます。

図1:機能性表示食品と特定保健用食品の市場規模の推移(出典:日本農業新聞

しかし、まさにここにこそ、今回小林製薬のサプリが健康被害を引き起こした最も決定的な原因があるわけです。

規制緩和を推進した「アベ友」、森下竜一という人物

当時、第二次安倍政権下において進められたこの規制緩和は、以下の図2に示すような流れで行われました。

図2:「機能性表示食品」解禁に至る流れ(出典:デモクラシータイムズ

そしてこの規制緩和を推進したのは、内閣府が組織する規制改革会議・健康医療ワーキンググループで、メンバーは以下の諸氏になります(肩書は当時)。

【委員】
・安念潤司 中央大学法科大学院教授
・(座長)翁百合 株式会社日本総合研究所理事
・金丸恭文 フューチャーアーキテクト株式会社 代表取締役会長兼社長
・佐々木かをり 株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
・林いづみ 永代総合法律事務所弁護士
森下竜一 大阪大学大学院医学系研究科教授

【専門委員】
・竹川節男 医療法人社団健育会理事長
・土屋了介 公益財団法人がん研究会理事
・松山幸弘 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹/経済学博士

まあ、この手の民間委員としては見慣れた顔ぶれで、私自身も直接お付き合いのある人たちがいるのですが、驚くべきは、健康や医療の専門家ではない素人が大半を占めていることです。

ここに名前がある人は全員、今回小林製薬が起こした問題に対して、一定の責任があると言わざるを得ないでしょう。中でも、森下竜一氏の名前が含まれていることには「なるほど、やっぱりそうか」という思いがあります。

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黒い噂が耐えない「アベ友」の森下竜一氏

ご存じの方も多いかと思いますが、森下竜一という人物は、安倍政権に巧みに取り入ったいわゆる「アベ友」の1人で、黒い噂の絶えない人です。

アンジェスという医療ベンチャーを起こし、吉村洋文大阪府知事にも取り入って「大阪ワクチン」と称した新型コロナのDNAワクチンを開発すると豪語し、政府から75億円もの助成金をせしめた人です。単にアンジェスの株価操作をするためのでっち上げだったという疑惑が残っていますが、結局、そのようなワクチンを開発することは全くできずに断念しています。

私は、この人は単なる詐欺師ではないかと思っていますが、その後も一切悪びれることなく大阪大学に籍を置き続け、大阪市の特別顧問として大阪・関西万博の総合プロデューサーにも就任しています。

前述した規制改革会議のワーキンググループでは、座長代行のような立場で機能性表示食品の解禁を積極推進した張本人とされています。おそらくその貢献によって、さまざまな企業や団体から多額の利益供与を受けている可能性もあるのではないかと思います。

もう一人の「アベ友」松澤佑次氏に製薬会社から8億円超の寄付

さらには、 ジャーナリストの高野孟氏によると、森下氏の背後には、大阪大学名誉教授/阪大病院院長/住友病院院長(当時)/同院名誉院長(現在)の松澤佑次氏がいるそうです。

この松澤氏は、日本版「メタボリック・シンドローム(メタボ)」の概念を広めた人物とされますが、高野氏によると、日本の医療を蝕んでいる「自民党厚生族×厚生官僚×医師会×薬品業界」のドロドロの利権・癒着構造の中心にいる人物とのことです。

これにより、我々は健康診断の時に必ず腹囲を計測されメタボ診断されるようになりましたが、「メタボ診断には根拠がなく、単に投薬対象者を増やすためのまやかしだ」として医療統計学の専門家などから批判されています。

実際のところ、松澤氏は、コレステロール低下薬メバロチンを製造・販売する第一三共など、大手製薬会社20社以上から計8億3,800万円もの寄付を受けています。高野氏は、この松澤氏が大学の後輩にあたる森下氏を使って機能性表示食品の解禁を推進したとしています。

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児玉龍彦東大名誉教授が筆者に語った、小林製薬の危険な内実

次に小林製薬についてですが、以下は、私が信頼している科学者の1人であり、ユーチューブ番組などでもしばしばご一緒する東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦先生から直接伺った話です。

小林製薬という会社について、以下のように論評しておられます。

小林製薬は、基準の厳しい医薬品ではなく、機能性表示食品などを多品種、短期に、次々、発売し続け、経産省の、今年の健康経営優良企業に表彰されています。 https://www.kobayashi.co.jp/newsrelease/2024/20240311/

しかしながら、小林製薬の内実は、衛生材料企業から、販売優先の機能性表示食品などに転換して成功した「曖昧なものを圧倒的な宣伝戦略でカバーする」アメリカで巨大化しているサプリ産業の輸入版、ともいえます。でもアメリカ人の寿命は世界の先進国の中では低い方です。

実は世界の医薬品は、ゲノム配列などの膨大な情報をもとにした精密医療(プレシジョンメディスン)という方向に進歩しています。ところがその周辺では、金儲けのために、曖昧なサプリメント市場が巨大化します。また、医薬品でも新規開発が大変になるにつれ、ジェネリック医薬品の製造で儲けようとします。

小林製薬は、膨大な宣伝をもとに、地道な研究開発というよりは、買収、売却を繰り返し、すぐに売れる商品をすぐに売って儲ける「お金があったらいいな商法」です(注:小林製薬は、「“あったらいいな”をカタチにする」をスローガンとして掲げています)。紅麹製造も、カビの培養に経験があまりない小林製薬が、グンゼから買い取ったもので、記者会見などでも、経験を持った技術者が少なく見えます。

日本の製薬業界が、コロナ禍で4兆円の貿易赤字となる中で、多くの企業が、画期的医薬品の開発ではなく、サプリメントなどに走っています。小林製薬は、今回以外にも不祥事を起こしています。08年には銀イオンによる除菌効果をうたった消臭剤など15製品の効果が十分でないとして自主回収し、2製品の表示について公正取引委員会から景品表示法違反(優良誤認)で排除命令が出ています。また11年には、子会社が医療器具の承認申請時に改ざんしたデータを提出していたとして、旧薬事法に基づく業務停止命令も受けています。

今回の小林製薬による健康被害は、まさに利益誘導型の筋の悪い人たちによる悪しき規制緩和と、それに乗じた利益優先主義の筋の悪い企業の組み合わせが引き起こした典型的な事件と言えるのではないでしょうか。

また同時に、新薬開発などのハードルの高いチャレンジを避け、手っ取り早く稼げる市場で稼ごうという安きに流れる利益優先主義を象徴しています。このようなメンタリティは、全体的に日本の技術力や産業力を衰退させた一因でもあるでしょう。

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「機能性表示を、解禁いたします」安倍元首相の演説動画

なお、機能性表示食品の解禁に先立ち、安倍元首相は2013年6月の内外情勢調査会の講演で以下のような演説を行っています。

健康食品の機能性表示を、解禁いたします。国民が自らの健康を自ら守る。そのためには、的確な情報が提供されなければならない。当然のことです。

現在は、国から「トクホ」の認定を受けなければ、「強い骨をつくる」といった効果を商品に記載できません。お金も、時間も、かかります。とりわけ中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされていると言ってもよいでしょう。

アメリカでは、国の認定を受けていないことをしっかりと明記すれば、商品に機能性表示を行うことができます。国へは事後に届出をするだけでよいのです。

今回の解禁は、単に、世界と制度をそろえるだけにとどまりません。農産物の海外展開も視野に、諸外国よりも消費者にわかりやすい機能表示を促すような仕組みも検討したいと思います。

目指すのは、「世界並み」ではありません。むしろ、「世界最先端」です。世界で一番企業が活躍しやすい国の実現。それが安倍内閣の基本方針です。

この演説は、ユーチューブの首相官邸チャンネルの動画にも残っています。頭出ししておきましたが、以下のリンクの11分23秒あたりからです。

安倍総理「成長戦略第3弾スピーチ」(内外情勢調査会)-平成25年6月5日(YouTube動画)

いかにももっともらしいことを言っているように聞こえますが、詰まるところ、国は企業の利益や経済を優先して国民の安全には関知しないので、自分の健康は自分で守れ、と言っているようなものです。

この動きに関しては、共産党の穀田恵二議員をはじめ、当時の国会でも疑義が表明されていました。以下は上記の安倍氏の演説の翌2014年3月のものです。

小林製薬の紅麹問題 10年前にあの人が予言してました(YouTube動画)

また、全国消費者団体連絡会日弁連主婦連合会なども健康被害のリスクを危惧して、行き過ぎた規制緩和の見直しを求めていました。

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日本は「真っ当な指摘」を無視して自ら災難を呼び込んでいる

この事例からも明らかなように、起こり得るリスクを正しく予見して指摘する人というのは必ず存在するものです。

たとえば、福島原発にしても、東京電力の想定を遥かに上回る津波の襲来を予見して前もって警告を出していた科学者や国会議員は存在していました。

しかしながら、前掲の動画を観ていただいてもわかるように、それら真っ当な指摘を受けても、担当大臣自身が何らその指摘に正面から向き合うことなく、官僚の書いた答弁を読むだけでその場をやり過ごしてしまうような杜撰でいい加減な対応が繰り返され、結局その後の災害や被害を呼び込んでしまっているのは極めて残念なことです。

さて、すっかり長くなってしまったので、今回はここまでにします。現在、プベルル酸という物質の存在が同定されているようですが、それが健康被害の原因物質であるかどうかについてはまだわかっていません。

来週は、本件の続きとして、カビなどの微生物を培養して健康食品を作ることの危険性について、児玉先生から伺っている話を紹介したいと思います。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 2024年4月5日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください。世の中のウソと真実を見抜くための6原則、「陰謀論」「デマ」のレッテルにも怯まないことの大切さを解説した「2.今週のメインコラム」や、「古くからの友人が入院しております。療養中の心の持ちようについて何かアドバイスいただけましたら嬉しく存じます」に辻野さんが回答する読者質問コーナーもすぐに読めます

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image by: 小林製薬株式会社 , MilletStudio , Sanyawadee / shutterstock.com

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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