羽田衝突で隠蔽される本当の事故原因「安倍時代の政治圧力」とは?現場に責任を押しつける犯人探しが始まった

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羽田空港の衝突事故から3週間。乗員乗客全員生還は不幸中の幸いでしたが、奇跡が二度起きないとすれば、今後どのような再発防止策が必要でしょうか?これに関して、日本では「原因究明」よりも「責任追及」が重視されがちだと指摘するのは辻野晃一郎氏。「羽田をこれだけ超過密化したのは官邸主導の強引な政治判断だ。負担と責任をすべて現場に押し付けるようなことがあってはならない」と警鐘を鳴らします。(メルマガ『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ より)

羽田事故の背景に「官邸主導の強引な政治判断」

(1/19号「今週のメインコラム」より)
前回の「気になったニュースから」では、1月2日に羽田空港C滑走路で起きた航空機事故について取り上げ、この事故は起こるべくして起きた事故ではないか、という感想を持ったことを述べました。(「羽田事故は人災」政府が隠す不都合な事実|辻野晃一郎(2024年1月13日公開)まぐまぐニュース!

今回は、こちらの「今週のメインコラム」の方で、このことについてもう少し深掘りしておきたいと思います。というのも、ヤフーニュースが1月16日に次のような記事を転載していたのを見て危機感を持ったからです。オリジナルはデイリー新潮が1月9日に出していた記事です。

●関連記事1:JAL機炎上事故で逮捕者は出る? 専門家は「捜査に1年以上かかる可能性も」Yahoo!ニュース

この記事を読んで、私は思わず以下のようにXにポストしました。

責任追及よりも徹底的な原因究明を。航空専門家によると各国で義務付けられているADS-Bという安全装置の搭載が日本では進んでいないとの指摘もある。羽田をこれだけ超過密化したのは官邸主導の強引な政治判断だ。負担と責任をすべて現場に押し付けるようなことがあってはならない。

デイリー新潮の記事の中に、「事故原因の究明を目指す運輸安全委員会の調査と並行し、警視庁は東京空港署に特別捜査本部を設置。捜査1課の特殊犯捜査係を中心に業務上過失致死傷容疑を視野に捜査を進めている」との記述があります。

このような事故が発生した場合、日本では警察の捜査が優先されて、原因究明よりも責任追及が重視される、ということが言われます。上記の記事もそのようなトーンで書かれていることが気になりました。そうなると、刑事訴追を避けるために、被疑者が自分に不利な証言を控えて原因究明の妨げになることがあるようです。

しかし、大切なことは再発を防止することです。そのためには、被疑者を免責にしてでも、徹底的に原因を究明して必要な対策を打つことを最優先にすべきではないかと思います。

現場に責任を押しつける“犯人探し”やめよ

また、上記ポストの2日前に、以下のようなポストもしていました。

2020年の新ルート開設以来、超過密な羽田の危険な実態を一番よく知っている管制官やパイロットたちは、今回のような事故を受けて、過重労働を強いられ危険な空港での離発着を強要される状況の改善を求めて労働争議とかを起してもいいのではないでしょうか?

これに関連する証言としては、以下の弁護士JPニュースの記事の中に次のような記述を見つけました。

全運輸労働組合等で組織される「国土交通労働組合(国交労組)」の担当者は、「政府の合理化政策等によって管制官として携わる人手が不足している」と訴える。担当者によると、管制業務に従事する全国の職員はここ数年、1900~2000人の間で推移。航空管制官と関連の仕事を担当する職員数は、2005年の4985人をピークとして減り続けており、23年には4134人まで減少しているという。
●関連記事2:羽田で5人死亡の航空機事故、国交労組「人手不足で安全保てない」…遠因の指摘も(2024年1月18日公開)弁護士JPニュース

上記記事の中には、前述した警察の捜査の問題点も指摘されており、国際民間航空条約(ICAO)違反にあたるとされています。

日本航空OBの専門家も指摘する「政治の圧力」

さらに、私のXでのポストへのリプライで、津田大介さんのポリタスTVのコンテンツの中に、以下のものがあることを教えてくれた人がいました。

●関連動画1:羽田空港衝突事故の検証 ヒューマンファクターの視点から|羽田空港で日本航空516便が海上保安庁の航空機と衝突。日本の航空安全管理における問題とは?|ゲスト:佐久間秀武(2024年1月14日公開)ポリタスTV

このYouTube番組は、日本航空OBで、長年、運航技術、整備技術、安全推進、ヒューマンファクター研究などに携わってきた佐久間秀武さんという専門家をゲストに招いて事故原因を検証する内容で、非常に参考になりました。

佐久間さんによると、トラフィックの多い空港で一つの滑走路を離着陸兼用で使用する場合の着陸許可オペレーションをLAHSO(Land And Hold Short Operation)というそうです(図1)。

事故が起きた羽田のC滑走路(34R)では、まさにその運用が行われていました。このオペレーションは、着陸する飛行機への着陸許可を、離陸する飛行機への停止命令とセットで発出しなければならず、着陸機、離陸機、管制官の3者でうまく連携をとらねばならない難易度の高いオペレーションにあたるとのことです。

図1:ポリタスTV(2024年1月14日公開)より

図1:ポリタスTV(2024年1月14日公開)より

事故に際しては、やはり佐久間さんも、「不謹慎かもしれないが予想していた事故が起きた」と話しています。佐久間さんによると、そもそも羽田の管制官やパイロットは、このLAHSOのオペレーションに対して消極的だったそうです。

それを強引に進めることになったのは、「政治の圧力」だったと発言しています。「政治の圧力」とは、私も以前からX(旧ツイッター)やこのメルマガなどで指摘してきたことと同じです。

すなわち、安倍政権時代に観光立国を標榜してインバウンドの大幅増加を図り、それに対応するために都心上空を低空で飛ぶ2本の新ルートを開設するなど、まともな国会審議も経ずに羽田空港を拡張して過密化させたことです。

このことが、いずれ何らかの事故につながるのではないかと佐久間さんも恐れていたようなのです。

●関連記事3:国民生活より「インバウンドが優先」の亡国政策|辻野晃一郎(2024年1月14日公開)まぐまぐニュース!

管制官とパイロットに難易度の高いオペレーションを強いているのはC滑走路のLAHSOだけでなく、RNP AR(Required Navigation Performance Authorization Required)という管制方式も同様だそうです。

佐久間氏は、「連携を間違えると並行して飛んでいる2機の着陸機が東京上空で衝突するような事故もあり得る」と警告しています。

驚くべきは、これらの難しいオペレーションを導入するにあたっては、最新のCRM(Crew Resource Management)訓練やAPM(Advanced Qualification Program)訓練などと呼ばれる高度な訓練が必要なものの、日本の航空業界はそのような訓練を十分に施している状況とは言えないそうです(事故後のJAL機からの脱出においては訓練が活きたそうですが、事故を起こさないための訓練が不十分という意味)。

訓練が行き届いていれば、今回事故を起こした着陸機JAL516便は、進入復行または着陸復行(Go around、Touch-and-go)などの手段で事故を回避することができたのではないかと述べています(*1)。

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