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NHKも判で押したような解説。日本人が理解できない中国を取り巻く現状

台湾が実効支配する金門島付近の海域で発生した漁船衝突事件に関して、NHKが『時事公論』で取り上げ解説。その内容は日本のメディアの“お決まり”に留まり、事態の真相に迫るものとは言えなかったようです。そう指摘するのは、前回記事でこの事件について、原因もその後の対応も台湾側に問題があると解説した拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、尖閣問題との共通点があるなら、どちらも「オウンゴール」とさらに踏み込んで解説。フィリピンと中国の対立についても同様の問題があると指摘しています。

やっぱり利用されるしかないフィリピンの現状を日本は他山の石とすべき

先週取上げた厦門・金門(「厦金海域」)海域の漁船衝突事件で、日本のメディアが台湾海巡署の問題には一切触れず、「尖閣の再現だ」「現状変更だ」と中国批判を繰り返していることに疑問を投げかけた。3月29日のNHK『時事公論』もまるで判を押したように同じ解説だった。

厦金海域の状況は尖閣諸島の問題と同じなのか。中国海警局の船が尖閣諸島周辺に頻繁に現れるようになったのは2012年以降。きっかけは野田政権(当時)の「尖閣国有化」だ。日本は大胆に一歩を踏み出し、逆に中国に大幅に押し込まれてしまったのだ。つまり厦金海域の漁船衝突事件と尖閣諸島に共通点があるとすれば、それはどちらもオウンゴールだったということだ。

だが『時事公論』の解説を聞いていても、視聴者は何が台湾のオウンゴールか、理解できなかったはずだ。意図的なのか、取材不足か、民進党政権が事件処理の過程で積み重ねた数多の失策には触れられていないからだ。

例えば、漁船転覆の原因だ。台湾・海巡署は当初、転覆は逃走の際に漁船が蛇行したためと説明していたが、その嘘は生き残った大陸の漁民の告発によって暴かれてしまう。人命が失われた事故で、最悪の対応だ。その上で謝罪と賠償と真相究明という要求を無視し続けているのだから、中国側が強引な行動に出るのも当然だ。

そして日本メディアが指摘する「現状変更」は、台湾が定めた禁止・制限水域に中国海警局の船が侵入することを指したものだが、そもそも禁止・制限水域に法的根拠などない。それは台湾自身が一番よく知っている。

それゆえ台湾は、この海域で中国に隙を見せないよう慎重に振舞うべきだった。事実、事件後、禁止・制限水域を形骸化させるだけでなく、海上での実力差を見せつけられることとなり、台湾の支配は大きく後退した。

残念なのは、中国側もこの海域で台湾の支配を崩す機会を虎視眈々と狙っていたわけではなかったという点だ。事故への反応は概して穏やかで、慎重さを欠いていない。その理由はアメリカや蔡英文政権の思惑に乗らないよう中国が警戒しているからだ。事故によって中国のイメージを傷つけられることを習近平政権は気にしている。

実際、日本のメディアは民進党の発表のまま「尖閣と同じ」「現状変更」と横並びで書きたて、目的達成に少なからず貢献した。「現状変更」はいまや中国と付き合うリスクの代名詞だ。その警句を少しでもメディアに発信させたい国・地域はアメリカや台湾だけではない。南シナ海におけるフィリピンも同じだ。

現状、最もホットな火種はフィリピンの沖約120マイルの小さな浅瀬、仁愛礁(アユンギン礁)で座礁したままになっている船、シエラ・マドレ号をめぐる中比の攻防だ。シエラ・マドレ号は第二次世界大戦時の船で、フィリピンが南シナ海で中国の支配に楔を打ち込むため意図的に座礁させた船だ。

中国はこれを不満とし、フィリピン側に引き上げと撤去を求めてきた。一方のフィリピンはシエラ・マドレ号に補給を続けることで実績を積み上げ、隙あらば修繕のための資材を運び込もう試みた。

昨夏まで落ち着いていたこの問題が再燃した理由は一つではない。現在のフェルディナンド・マルコス大統領とロドリコ・ドゥテルテ前大統領との確執も指摘されているが、やはり中国はアメリカの思惑にフィリピンが乗せられている点に注目している。

4月11日には、岸田総理とジョー・バイデン大統領、そしてマルコス大統領がワシントンに集い、首脳会談が行われる予定だが、これなどは典型的な動きと映る。3月19日、フィリピンを訪れたアントニー・ブリンケン米国務長官は「米国の同盟関係強化は中国を標的にしたものではない」と語ったが、本音は明らかだろう。

南シナ海では仁愛礁だけでなく黄岩島(スカボロー礁)でも中国と対峙するフィリピンだが、純粋に自国の利害のため仁愛礁での動きを活発化させたかといえば極めて怪しい。

例えばマルコスは今年1月、台湾総統選挙後にわざわざ頼清徳副総統にSNSで祝意を伝えている。フィリピンのトップが台湾総統という表現を用いるのも寡聞なら、祝意を伝えるのも異例だ。いずれも中国をいたずらに刺激するだけで、フィリピンの国益に資するどころか害しかない行動だ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年3月31日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

image by:NGCHIYUI/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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