国際的音楽祭を政治利用。ブーイング必至の舞台に立たせた若い女性歌手にイスラエル側はどんな内容のビデオメッセージを送ったのか?

 

ステージを降りた瞬間に号泣のイスラエル代表歌手が得た同情票

決勝が行なわれた11日には、反イスラエルのデモが数万人に膨れ上がりました。決勝のオープニングでは、決勝に進出した歌手たちが自国の国旗を掲げてステージに立つ「フラッグ・パレード」が行なわれましたが、ゴランさんがイスラエルの国旗を掲げてステージに現われると、批判のブーイングと応援の歓声が同時に巻き起こり、会場は混沌とした異様な雰囲気に包まれました。

決勝ということで周辺のデモ参加者の一部もヒートアップし、会場になだれ込んでゴランさんのパフォーマンスを妨害しようとした一団が、警備隊に鎮圧されました。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(21)も、パレスチナ伝統のスカーフを身にまとってデモに参加していましたが、有名人ということで目をつけられ、警察官に強制連行されました。

罵声が飛び交い緊張がMAXになった会場では、決勝へ進出した各国の代表のパフォーマンスが始まりましたが、アイルランド代表のバンビー・サグさんは「愛は常に憎しみに打ち勝つ」と叫び、ポルトガル代表のヨランダさんは「平和は勝つ」と叫び、フランス代表のスリマンさんは「私たちは愛と平和のために音楽で団結する」と叫びました。

注目されていたイスラエル代表のエデン・ゴランさんも、持ち歌の『ハリケーン』を最後まで歌い切りました。しかし、いくら国の代表と言っても、まだ20歳の女性です。ゴランさんはステージを降りた瞬間、緊張の糸が途切れたのか、号泣してしまいました。

審査員1人が12点ずつ持っている審査員投票では、ゴランさんは52点しか獲得できず、12位に沈んでしまいました。しかし、その後の観客投票で323票も獲得し、5位に浮上したのです。この観客投票はクロアチアの337票に次ぐ二番目に高いスコアでした。関係者によると、審査員投票と観客投票にこれほどの差が生まれたのは、長いコンテストの歴史で初めてのことだそうです。

これはあたしの推測ですが、審査員の多くはゴランさんのパフォーマンスを純粋に審査したのではなく、それぞれの国の政治的スタンスを加味して採点したのではないでしょうか?そして観客は「音楽と政治は関係ない」という視点や、ブーイングを受けているゴランさんへの同情票など、こちらもこちらでパフォーマンス以外の何かが加味されたのではないでしょうか?

もちろんあたしは、音楽やスポーツは政治と切り離して考えるべきだと思っています。しかし、北朝鮮の代表チームが日本に来てサッカーの試合をしたりすると、長年、拉致被害者家族の苦しみを見て来たので、とても複雑な気持ちになります。北朝鮮の代表チームの選手たちに何の罪もないことは分かっていても、「サッカーをやりたいなら、まずは拉致被害者を全員返せよ!」という気持ちになってしまうのが正直なところです。

今回のイスラエル代表のエデン・ゴランさんにしても、わずか20歳の女性が国を代表して批判の矢面に立たされたのですから、その点だけを見れば気の毒だと思います。しかし、自分の家族をイスラエル軍に虐殺されたパレスチナの人々にしてみたら、とても笑顔で拍手を送ることなどできないでしょう。それに今回、パフォーマンスを終えたゴランさんは、記者団に次のように述べたのです。

「私が今、国の代表としてこの場に立てる機会を得られたことは、とても意味のあることです。私の国では、昨年10月7日のハマスによる襲撃で多くの人々が虐殺され、今も100人以上がテロリスト集団の捕虜になっています。私はこの人たちをそれぞれの故郷に連れて帰るために歌いました。会場ではイスラエルを憎むハマス支持者からブーイングを浴びせられましたが、イスラエル国民の愛が私を支えてくれました」

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