頼の徹底した中国アレルギーが露呈されたと話題になったのは、「1624年、台湾は台南を起点とし、台湾のグローバル化を始めた。『台南400年』の歴史的瞬間にあって、台湾はもっと自信を示し、勇敢に新たな世界に乗り出し、世界に新しい台湾を迎え入れてもらおう」というくだりだ。
1624年といえばオランダが明軍との8カ月にわたる戦いを経て台湾統治を始めた年である。つまり台湾の人々にとっては「負の歴史」だ。それを総統就任式という晴れの舞台で堂々と「グローバル化の始まり」と触れることで中国との「違い」を強調したのである。このことに多くの大陸の専門家が「ありえないこと」と嘆息した。アフリカの国のトップが同じような発言をしたらどう感じるかという話だ。
次に中国が警戒する台湾問題の「国際化」だ。いわゆる外部勢力を引き込んで独立を進めようとする動きを指すものだが、この視点で見ても、気になる点は少なくなかった。
例えば、アメリカを強く意識して発せられた「台湾は『第1列島線』の戦略的位置にあり、世界の地政学の発展に影響を与えている。価値観外交を推進し、世界中の民主主義国家と肩を並べて、平和の共同体を形成することによって抑止力を発揮」という部分だ。
第一列島線は冷戦期の地政学の遺産で、本来は共産主義の拡大を防ぐための「防共ライン」として設定されたものだった。かつての米国務長官の名前を取ってアチソンラインとも呼ばれる。これは中国の言葉を借りれば、中国を敵視し西側の結束を求める、いわゆる「統一戦線」の呼びかけと解釈される。
その他、「私は中国が中華民国の存在事実を直視し、台湾人民の選択を尊重することを望む」とか、「世界でますます多くの国が台湾の国際参加を公然と支持している」など、中国と正面から話し合うよりも、既成事実を積み上げた上で中国側にそれを飲みこませようとする意図もちらつく。もはや蔡英文の備えていた慎重さはすっかり捨て去られたような演説だった。
これを受け、中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官が「台湾地区のリーダーによる「5・20演説」は、徹頭徹尾『台独』の自白だった」と切り捨てた。それも無理からぬ反応と言わざるを得ない。
改めて日本のメディアが直後に報じた「現状維持」がどれほどズレた解釈だったのかが分かるはずだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年5月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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