MAG2 NEWS MENU

イーロン・マスクと「AIのゴッドファーザー」が旧Twitter上で繰り広げた“子供の喧嘩”は、米国のエネルギーの源か?

2023年7月にイーロン・マスク氏が設立した、人工知能の開発を行う企業「xAI」。同社に関するマスク氏のX(旧Twitter)へのポストをめぐり勃発した「一悶着」が一部メディアで報じられ話題となっています。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、マスク氏とメタ社のAI部門トップのヤン・ルカン氏がX上で繰り広げた「喧嘩」の様子を紹介。その上で、互いに負けず嫌いな性格を隠すことのない大物2人のやり取りから感じた率直な感想を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:メタのAI部門トップ ヤン・ルカンとイーロン・マスクの喧嘩

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

子供の喧嘩か。負けず嫌いなイーロン・マスクとAIのゴッドファーザー

本メルマガでは、AIを巡る話題についても多く取り上げてきていますが、「AIのゴッドファーザー」と呼ばれる人物の筆頭が、以前にここでも紹介したジェフリー・ヒントンです。ヒントンは、米国からカナダのトロント大学に移籍してから多くの優秀な門下生を育てています。

その中には、ヒントンと共にALEX Net(画像認識AI)の構築を手伝い、OpenAIの立ち上げにも関わったイリヤ・サツキーバーや、現在、メタのAI部門トップを務めるヤン・ルカンなども含まれています。ちなみにサツキーバーは先日OpenAIを辞めました。

ヒントン、ルカン、そして現在カナダのモントリオール大学教授のヨシュア・ベンジオの3人は、深層学習(ディープラーニング)に関する研究が高く評価されて、2018年のチューリング賞を揃って受賞しています。その結果、この3人を「AIのゴッドファーザー」と呼ぶこともあります。

そのヤン・ルカンが、5月22日に公開されたフィナンシャル・タイムズのインタビューの中で、OpenAIのChatGPTやグーグルのGemini、メタのLlamaのような大規模言語モデル(LLM)を基盤とするAIでは、将来的に「人間レベルの知能には到達できない」と語っています。

ルカンは、「LLMに基づくAIモデルは、膨大な量のデータを使って訓練されるが、正確な答えを導く能力は、訓練されたデータの性質によって制限される」と語っており、「正しい答えを導き出すのは、これらのモデルが適切なデータで訓練された場合に限る」としています。

さらに、「LLMは、限られたロジックの理解しか出来ず、永続的な記憶を持たず、物理的な世界を理解せず、階層的な計画を立てることができない」と説明し、「理にかなった推論は行えない」と結論付けています。

そして、「人間と同じレベルのAIを望む研究者は、他のモデルに目を向けるべきだ」と語っていますが、彼は、メタのAI研究組織であるFundamental AI Research(FAIR)において、約500人からなるチームと共に、「ワールド・モデリング」と呼ばれる別のアプローチに基づく次世代のAIシステムの開発に取り組んでいることを明らかにしています。これについては、「システムが周囲の世界を人間のように理解し、何かが変わった場合に、何が起こるかを予測する感覚を養うものだ」としており、ワールド・モデリングのアプローチに基づいて人間レベルのAIを実現するには、最大で10年程度かかるだろうと予測しています。

この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ

登録はコチラ

「もっと努力しろ!」ルカンに言い放ったマスク

5月27日、米国はメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)の祝日でしたが、ルカンとイーロン・マスクがX(旧ツイッター)上で口論を繰り広げて話題になりました。最初に口火を切ったのはルカンの方でした。

マスクは、自身が新たに立ち上げたスタートアップのxAIに、人材勧誘の投稿をして、「人気や政治的妥当性にとらわれず、真実を最大限に追求することが宇宙を理解するために必要だと信じるなら、ぜひxAIに参加してください」と呼び掛けました。

すると、それにルカンがリプライして、「あなたが、クレイジーな陰謀論やホラ話を吹聴する上司に耐えられるならどうぞ」などと揶揄したのです(以下参照)。

これにたくさんの野次馬が参戦して延々とやり取りが続くのですが、興味がある方は以下を参照してください。

https://x.com/elonmusk/status/1794981927125987683

マスクとのやり取りを少し抜き出しておくと、ルカンの「私は科学者であり、ビジネスやプロダクトの人間ではない」いう投稿に対し、マスクは「この5年間、君はどんな『科学』をやってきたんだ?」と尋ねます。それに対してルカンは、「2022年1月以降80本以上の技術論文を発表した。君はどうなんだ?」と返事をします。マスクは、「取るに足らないね。君は衰えてきているよ。もっと努力しろ!」と言い放っています。これに対してルカンは、「君はまるで私のボスみたいなことを言うんだな」と嬉し泣きの絵文字を添えて返事をし、その後もやり取りは続きます。



ルカンはマスクに、テスラが採用する今日の運転支援システムの全てが、自分が生んだ畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に依存していると主張しますが、マスクは「正直、最近はCNNをあまり使っていない」と応じています。

ルカンは、今年3月にも、マスクが掲げるAIの将来的なビジョンを否定して「現状のAIは人間の知性のレベルには全く及ばない」と述べているのですが、それ以前にも、2017年に、当時のトランプ大統領からマスクは距離を置くべきだと忠告しており、2人の確執は長く続いているようです。

今回の2人の口論は、マスクのxAIがシリーズBラウンドで60億ドル(約9,400億円)を調達し、メタやOpenAI、グーグルなどとの競争に向けて、優秀な人材を引き寄せようとする中で勃発しました。

2人の口論に野次馬の1人として割り込んだグーグルのソフトウェアエンジニアがルカンに対し、「君たちはケージファイト(金網マッチ)で決着をつける必要がある」とからかっているのですが、もちろんこれは昨年マスクがメタCEOのマーク・ザッカーバーグに格闘技での対戦を提案したことにちなんでいます。

世界を席巻する起業家でもあり世界一の大富豪でもあるイーロン・マスクと、AIのゴッドファーザーとも言われ世界のAI研究者やAI技術者たちの尊敬を集める科学者のヤン・ルカンが、まるで子供の喧嘩のようなことをしているのが面白く、いい大人が、恥ずかしげもなく公然とこのような負けず嫌いなところを剥き出しにするのも、米国のエネルギーの源だと感じた次第です。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年6月7日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください。

この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ

登録はコチラ

辻野晃一郎さんの最近の記事

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』

【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け