2019年11月に発表され、それから4年を経た先月末に出荷がスタートしたテスラのサイバートラック。既に200万台を超える予約が入っているという次世代型トラックですが、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんは、「色々な意味で革新的」と断言します。今回中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、サイバートラックが達成した2つの大きなイノベーションを解説。さらにこの車がテスラで果たす「もう1つの役割」を紹介しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
テスラ「サイバートラック」が破壊した“自動車業界の常識”という名の厚い壁
先週、Teslaによるサイバートラックの出荷イベントが開かれました。イベントの映像(「Cybertruck Delivery Event」)は公開されているし、それに関する記事も数多く書かれています(「Tesla Cybertruck: First electric utes officially delivered」)。
サイバートラックは、色々な意味で革新的です。
一つ目は、数十年間変化がなかった「ピックアップ・トラック」のデザインを、「外骨格」を採用することにより、根本的に変えた点です。
通常の自動車は、フレーム構造と呼ばれるアーキテクチャで作られており、堅牢なフレームを作った上で、そこに別に製作したボディーを乗せる構造です。
ボディーに使われる鉄板は薄くてほとんど強度がないため、ちょっとした衝突で簡単に凹んでしまいます。乗客を衝突から守る力がないので、自動車のドアの内部にサイドインパクトバーと呼ばれる鉄製のバーを設置する必要があります。動物で言えば、フレームとサイドインパクトバーが骨(内骨格)で、ボディは柔らかい肉と皮に相当します。
これと違って、サイバートラックは、特殊な合金で作られた強度の高いパネルでボディを作ることにより乗客を衝突から守るアーキテクチャで、動物に例えれば、蟹や海老と同じ外骨格を持っています。そのため、ハンマーで叩いたぐらいでは凹まないし、防弾性能すらあります。
サイバートラックは、自動車業界では常識だったフレーム構造と、そこから決まる車体デザインの否定から始まりました。そのため、必要な合金を作る必要があったし、製造プロセスもこれまでとは全く違う物を作らねばなりませんでした。カリスマ的な指導者に率いられるTeslaだからこそ出来た芸当です。
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