イーロン・マスクとは異なる手法。日本人が果たした「心に描いた風景の復元が可能」の衝撃

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これまで困難とされてきた、「人が心の中に思い描いた画像」の復元。そんな分野の研究で、日本人グループが画期的な結果を出していた事実をご存知でしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、メンタルイメージの復元に成功したとする「量子科学技術研究開発機構」の興味深いプレスリリースの内容を紹介。その成果が人類に何をもたらすかについて解説しています。

心に描いた風景を脳信号から復元!「アタマの中」を覗く研究が進む

少し前の11月30日の話になりますが、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST、理事長 小安重夫)発の『心に描いた風景を脳信号から復元!~生成系AIと数理的手法を用いた新たな技術を開発~』というプレスリリースが目に留まりましたので、プレス内容を引用しつつ紹介します。

QSTの量子生命・医学部門 量子生命科学研究所 量子生命情報科学研究チームの間島慶研究員、情報通信研究機構(NICT、理事長 徳田英幸)未来ICT研究所の小出(間島)真子研究員、大阪大学大学院生命機能研究科の西本伸志教授は、人が心の中で思い描いた任意の風景や物体などの「メンタルイメージ」を脳信号から読み出し復元することに成功したそうです。

計測された脳信号から、被験者の知覚・記憶・運動意図などを読み出す技術は、脳情報解読技術(脳情報デコーディング技術)と呼ばれ、近年発展が目覚ましい機械学習やAIを活用しつつ大きな進歩を遂げてきました。代表例として、「人が目で見ている画像(視覚画像)」を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI) *1 という手法によって計測した脳信号から復元できることは、先行研究で既に示されてきました。しかし、実際に目で見ている画像を復元できる一方で、「人が心の中に思い描く画像(メンタルイメージ)」の復元は、画像の復元精度が低く、アルファベット、単純な幾何学図形、人の顔といった限られた種類の画像でしかこれまで成功例はありませんでした。

これに対して、同研究チームは、視覚画像の復元に成功した既存の手法を基礎にしながら、画像生成AI、ベイズ推定 *2 、ランジュバン動力学法 *3 などを組み合わせた新手法を開発しました。この新手法を用いて、画像の種類を限定することなく、メンタルイメージを復元することに世界で初めて成功しました。

本成果は、メンタルイメージの復元を介した診断の補助や、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術への応用が期待されます。例えば、意思の疎通が困難な患者から医師や家族に意思を伝えたり、思い通りに義手を動かしたりなど、医療や福祉分野において、より革新的な技術を生み出すことに繋がることが期待されます。

また、量子生命科学の分野では、生体ナノ量子センサ等の量子計測・センシング技術 *4 を用いて、脳・神経におけるミクロレベルの生命活動を計測し、マクロレベルで認知機能や意識が生み出されるメカニズムを明らかにしようとする研究が進められていますが、本成果は、メンタルイメージを客観的に復元することによって、こうした研究にもブレイクスルーをもたらす可能性があります。分子・細胞のふるまいから認知や意識の状態までを途切れなく説明すること、すなわち「心とは何か」の解明に道を拓くものとしても期待されます。

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