「過剰生産」や「政府補助金」をキーワードに、電気自動車(EV)など7分野の中国製品に追加関税を課すことを決めたアメリカ。バイデン大統領は中国の「一帯一路」についても厳しい言葉で批判しています。しかし、中国側は激しい反応は示していません。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、中国が余裕を見せる理由を解説。まず、中国の貿易が対アメリカ以外で好調なことを上げ、「一帯一路」については参加国から批判する声があるのかという点に注目する必要があると指摘しています。
新たな制裁関税でも「一帯一路」を批判しても、中国の貿易を止められない
米中貿易戦争の最前線は、いま半導体など最先端技術の囲い込みから、関税による中国製品の排除へと向かっている。メイド・イン・チャイナに高関税をかける理由は、「多額の政府補助金により安価な製品を他国に輸出している」からだ。いわゆる「過剰生産」問題だ。
なるほど筋の通った話だ、と思ってしまいそうだが、実態はそうではない。そもそも補助金は中国だけの特殊な政策ではない。6月6日、定例記者会に臨んだ中国外交部の毛寧報道官は、アメリカの指摘にこう反論した。
「産業補助政策は、もともと欧米で生まれた概念で、世界各国が普遍的に使っている。中国の産業補助政策は世界貿易機関(WTO)の定めたルールに合致している。産業補助というのであれば、アメリカこそが『大店』である。ここ最近だけをみても『CHIPS及び科学法』や『インフレ削減法』など、数1000億ドル規模の補助金を直接・間接に投じてきた」
要するに、アメリカが出せば「産業支援金」と呼び、同じことを中国がやれば、「政府補助金」という身勝手な批判への不満だ。
世界にはWTOというルールが存在するのだから、中国が出す補助金が適正か否かはWTOに訴えて決着つければよい話だ。ちなみにトランプ時代に発動された対中制裁関税は、WTOで明確にルール違反だと判断されている。
興味深いのは、アメリカに反論した毛寧の言葉には、一方でそれほど切実なトーンが含まれていなかったことだ。会見で毛は、「補助金が競争力を補うことはないし、保護主義が守るのは弱さであり、失うのは未来だ」と皮肉たっぷりに付け加えている。
中国のこうした反応は、少なくともバイデン政権の保護主義政策が、米中の産業競争力に決定的な作用を及ぼすとは考えていないことを想像させた。例えば、新たな貿易摩擦の種に浮上した電気自動車(EV)についても、アメリカの市場から排除されることは痛いとしても、それが中国EV産業にとって死活的な意味を持つかといえば、決してそうではないからだ。
第一に世界最大の自動車市場はいま中国だという自信であり、第二は世界的にもアメリカ以外の市場が育ちつつあるからだ。実際、中国製EVは、アメリカにはほとんど輸出されていないにもかかわらず、中国の自動車の輸出は凄まじい勢いで伸び続けている。
6月6日、中国の税関総署は今年1月から5月までの貨物貿易の統計を発表したが、その総額は17兆5000億元に達し、対前年比では6.3%の増加を記録したという。
数字が続伸したのは5月の貿易が好調だったためだが、輸出をけん引したのは高付加価値、AI、グリーン産業だった。なかでも注目されたのが船舶、EV、家電であり、それぞれ対前年比で100.1%、26.3%、17.8%という大きな伸びを示している。
地域別にみると、「対ASEAN、対ラテンアメリカ、対アフリカの輸出が好調だった」(税関総署統計分析司司長呂大良)というから、中国にとって重要な貿易パートナーが、従来の欧米中心から、明らかに新興国・発展途上へと変化していることがわかるだろう。
また「一帯一路」参加国との貿易の伸びも顕著だ。今年5月までの貿易総額は8兆3100億元で、対前年比で7.2%もの増加となった。いまや「一帯一路」参加国との貿易額は、全貿易額の47.5%を占めるまでになっている。
アメリカに続いて欧州委員会(EU)もいま、中国製品の排除に向けて不穏な動きを見せるなか、中国は「一帯一路」をフル活用して、新興国・発展途上国との関係を強め、新たな市場の開拓に動いている。
その「一帯一路」についてジョセフ・バイデン米大統領は、「いまや誰もが嫌悪し、葬られた構想。アフリカで何が起こっているか? それを見れば明らかだ」と批判した。だが、6月7日の中国外交部の定例会見で毛寧が「『一帯一路』をどう評価するのか。それについて発言権があるのは参加国の国民だけだ」と反論したように、参加国のなかで、バイデンが評したような意見を持つ国が多いかといえば、決してそうではない。
前述したように「一帯一路」参加国との貿易は、順調に伸び続けているからだ。西側メディアでは、中国と「一帯一路」参加国は「債務の罠」による加害者と被害者の関係だと報じられることが多い。だが、そうであれば声を上げるべきは被害国であって西側先進国やメディアではない──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年6月9日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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