「大企業経営者100人の7割が原発再稼働に賛成」このタイミングで日経新聞が1面トップに“政権ヨイショ記事”を据えた意味

 

サプライズは何一つない財界人へのアンケート結果

ベースロード電源の安定的な確保と脱炭素化に並んで重要なのが、前述した需要変動による電力供給のこまめな調整です。そこを担うのが「ミドル電源」と「ピーク電源」になりますが、ミドル電源は主にLNG(液化天然ガス)やLPガスによるもので、ピーク電源は石油や揚水式水力によるものになります。発電コストはベースロード<ミドル<ピークになります。したがって、エネルギー政策の根幹の一つは、これら3種の電源をどのような配分で構成するか、ということになります。

2021年度に策定された現行のエネルギー基本計画では、2030年度の原発比率目標を20~22%としています(2022年度は5.5%)。再生可能エネルギーについては、まだ全体に占める割合が小さく、エネルギーミックスの位置付けが定められていません。しかし今回のアンケートでは、再エネ比率を高めるべきと答えた経営者が8割を超えたとありますので、会社経営において、国際競争力を保つ上でも、世界の潮流である脱炭素化の動きを意識している経営者が多いことがわかります。

個人的には、世の中の大きな流れを俯瞰すると、すべての分野で中央制御型・全体最適型から分散制御型・個別最適型の流れに移行しつつあると思っており、エネルギーの分野においても、ベースロード電源依存のエネルギーミックスという発想から脱却して、スマートグリッドを用いて、電力の供給側と需要側の双方から電力利用を最適化する次世代型エネルギー政策に移行することが急務と捉えています。

今回は、マスメディアの記事の読み取り方について考えるのが目的で、エネルギー政策について専門的に論じるのが目的ではないので、ここではこれ以上エネルギー政策の議論に踏み込むことは控えますが、経済界の人たちにこのようなアンケートを取れば、経済推進の立場から、電力の安定供給やコスト低減を求めて今回のような回答になるのはごく自然なことで、ここにサプライズは何もありません。

ですから、これはこれとして、一つの参考データ程度に受け止め、このアンケート結果を利用した政府やメディアの思惑にそのまま流されることが無いように注意しておくことが肝要だと思います。そして、こういう記事を一つのきっかけとして、エネルギー問題や地球温暖化の問題について自分自身でしっかり調べた上で、日本のエネルギー政策に対する自分の立ち位置を明確にする努力をしておくのが大切なことだと思います。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年6月28日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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