習近平が激怒。NATO事務総長「中国がウクライナ侵攻のロシア経済を支えている」という“名指し批判”

 

相も変わらず簡単に操られ続けるアジア人

中国が「いかなる証拠もないまま、米国の捏造した偽情報を撒き散らし続けている」とアメリカを批判したように、その意図も明白だ。

NATOは冷戦期、ヨーロッパがロシアの脅威に対抗するために設立された機構だが、現状はむしろ「アメリカの世界戦略のため」に利用されていると中国は見ている。

実際、NATOをめぐりアメリカとヨーロッパの利害の齟齬も露見して久しい。

例えばドナルド・トランプ前大統領は、ヨーロッパがアメリカに安全保障面で依存し過ぎていて義務を果たしていないと、NATO加盟国に対し、GDP比で2%以上の国防費の拠出を求めた。

対する欧州も、フランスのマニュエル・マクロン大統領は、アメリカの利益のためにばかり動くNATOへの不満を隠そうとせず「欧州統合軍」設立の構想を打ち出した。

今回、NATOが欧州・北大西洋という枠を越えて、アジアにまで出張ってこようとするのは「中国と欧州の関係に水を差し、中国と欧州の協力を損なう」(林剣)ためだ。

欧州の視点に立てば、ロシアという眼前の脅威に対処するためにはアメリカとの強い関係が不可欠であり、中国の利益を損ねたとしても、積極的に反対する理由はない。

一方の中国も、NATOがアジア太平洋地域に本気で戦力を投射してくるとは考えていない。そのことは足元のウクライナ支援でさえ、これほどまとまらない現状を見れば明らかだ。

しかしNATOのアジアへの拡大が、ただでさえ危うい台湾海峡におかしな政治的メッセージを与え、刺激することには神経を尖らせている。

これまで慎重であったNATOが大きく踏み込んできたのは、いうまでもなく中国を公然と批判できる理由があったからだ。それこそ冒頭で触れた「中国はロシア経済を支えている」だ。

しかし、林剣が会見で反論したように、ロシア経済どころか、ロシアの戦争継続に大きく貢献しているのは、実は欧米の方だというのが中国の言い分だ。

2023年末、多くのメディアがウクライナのメディア「ウクラインスカ・プラウダ」を引用して報じた事実がある。記事には「ウクライナ国家汚職防止庁がロシアの無人機やミサイルなど76の兵器に使用されていた2,453個の部品を分析したところ、米国企業が製造したものが74%に当たる1,813個もあり、日本や欧州、台湾の部品も多数見つかった」とある。

中国外交部は会見で「ロシアが輸入し武器に使用される部品や兵器に転用可能な原材料の6割以上は欧米からの輸入で、ウクライナによって破壊されたロシアの兵器の重要部品の95%は西側社会から来たもの」だと説明した。

また今年5月、アメリカはやっと濃縮ウランをロシアから輸入することを禁ずる法案に大統領が署名した。しかし実際に輸入が止まるのは2027年末だという。つまり今後2年半はロシアの戦争資金に貢献し続けるのだ。

米中対立が激しさを増して以降、アメリカは中国に関するさまざまな疑惑を国際社会に向けて発信してきた。しかし、その後にきちんとした証拠が示されたことはない。

NATOサミットを報じた日本のメディアの素直な記事を見ていると、アジア人を操るのは相変わらず簡単なようだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年7月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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