アメリカの鼻を明かした中国。パレスチナの分断終結と民族団結強化の「北京宣言」署名に導いた“正攻法外交”

 

だが、ハマスのせん滅を公言するイスラエルも、それを支援するアメリカも「北京宣言」を歓迎するはずはない。

イスラエルのイスラエル・カッツ外相は「アッバス議長はハマスの殺人者や強盗犯と手を結び本当の顔を暴露した」と即座にSNSに投稿。アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官も、「戦後のガザ地区の統治にテロ組織の役割はない。ハマスはテロ組織だ」と会見で不快感を露わにした。

アメリカとイスラエルの反発という以前にも、「北京宣言」に対する懐疑的な見方は西側メディアでは目立つ。

ドイツのZDFは、中国政府がこの仲介を自画自賛していると報じる一方で、「この合意は何ももたらさない」という中東問題の専門家のコメントを紹介している。

中国自身、そうした批判は想定範囲内で、中国外交部の毛寧報道官は「平和は一朝一夕でできるものではないが、正しい方向に向かって進み続けるべきだ」と応じた。

この場合の正しい方向とは、政治的解決、いわゆる話し合いでの解決のことだ。対極にあるのは、アメリカの力による解決だ。力の行使とは、いわゆる軍事力の行使から経済制裁、国際社会からの排除などなどだが、そうした解決には限界があることを暗に批判したコメントだ。

力の行使は分かりやすく、即効性が期待できる反面、根本的な解決に至ることは少なく恨みが残る。それは次の紛争の火種にもなる。

中国式の和解は、ハマスも排除しない点で特徴的で、正邪と好悪で白黒をはっきりさせたがる西側的価値観には反する。

しかし現実はどうだろうか。

象徴的なのは24日から中国を訪問し、広州で王毅外相と会談したウクライナのドミトロ・クレバ外相の動きだ。その前にはヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が突然、「ロシアと話し合う」と発信し世界を驚かせた。これを伝えた米CNNテレビ(7月21日)は「いつになく抑制された口調で国民向けの演説を行い、ロシアとの交渉に前向きな考えを示唆した」とそれを報じている。

現段階では大きな妥協とは言えないものの、変化の兆候であることは間違いない。

要因は、米大統領選でウクライナ支援に消極的な「ほぼトラ」の要素が高まったことだと言われる。ウクライナの正義は大統領選次第というのが現実だからだ。

またウクライナ国民の戦争への考え方に変化が生じ、厭戦に傾きつつある点も見逃すことはできない。

中国式の仲介は、即効性や強制力がない反面、最終的な落としどころという意味では、着実な布石を打っている。

以前、サウジアラビアとイランの和解を取上げたときにも触れたが、中国の進める和平プロセスは、対立よりも利益を重視し、双方がそのメリットを確認すれば不可逆性が高まるからだ。

興味深いのは、この「中国式」への支持がグローバルサウスを中心に広がりつつあることだ。

27日、多くのメディアは「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ5カ国を中心に生まれた新興国グループ)に参加を希望する東南アジア諸国連合(ASEAN)の国が増えていると報じた。タイやマレーシアが積極的なのに加えて「ラオス、カンボジア、ミャンマー、ベトナムもBRICS加盟の意欲があると報じられている。ASEAN10カ国では半数を超えている」(「朝日新聞」7月26日)という。

もはや「北京宣言」を笑ってばかりいられない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年7月28日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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