経営効率の向上や節税等のメリットが見込める企業の分社化。しかし安易かつ事業規模を無視した分社化は自らの首を絞めることに繋がるのもまた事実のようです。今回のメルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』では事業再生コンサルタント、作家、CTP認定事業再生士の顔を持つ吉田さんが、年商1億円にも満たないながら5社もの会社を持っていたという企業の事例を紹介するとともに、彼らの事業再生劇を振り返っています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:策士策に溺れる、という事例
策士策に溺れる、という事例
こんな会社がありました。
従業員6-7人の小さな物販業なのに、会社を5社も持っているのです。理由を社長に訊いたら、「いやあ~、業績が良かったときに節税や資金調達などの目的で分社化しちゃいまして…」との事。
業績が降下してからはそれが裏目に出て、うちに相談に来られた時点では、もう大変な事になっていました。
- 実質的に1事業なのに、5社に分けて会計処理をしているから、お金の流れが見えない
- 5社分の会社の維持費(税理士費用、均等割など)が重くのしかかっている
- 銀行から信用されない(5社あっても全て実質的には同一会社とみなされているし、お金の流れが不透明だから)
- へたに複数の会社の名義で銀行借入してしまい、そのうちの2社は従業員を代表取締役にさせてしまったものだから、従業員の連帯保証を外すのに難儀
- 稚拙なやり方で節税対策したものだから、税務調査でも痛い目にあった模様
その後、この会社は銀行借入をリスケしましたが、その際にも5社分の試算表、資金繰り表、経営改善計画書などが必要になり、お金の流れが見えにくいことも相まって、大変な手間がかかりました。グループ全体で年商1億円にも満たないのに、10億円クラスの会社よりも手間取ったものです。
「このままではいつまでたっても資金繰りが改善しないですよ!」
「なによりも、お金の流れが見えにくい。社長も、従業員も、銀行も、税務署も、誰から見ても見えにくい。これが最大の問題です。5社間で貸し借りがあるし…」
「策士策に溺れる、といいますが、今まさに、溺れてる状態じゃないですか」
「複雑な問題は、できるだけシンプル化することから始めましょうよ」
あれから数年。
5つあった会社は、3つを合併して、2つを切り離して休眠し、現在は1社のみになりました。
これにより、お金の流れは、はっきり見えるようになりました。
会社の維持費も、1社分だけになり、経費がだいぶ削減されました。
借入も1社にまとめられ、代表者になっていた従業員は代表を降りてもらい、彼らの個人保証も(かなり苦労しましたが)解除されました。
リスケはいまだに延長していますが、もうあと1-2年で卒業できそうです。
税金関係も透明になり、最近では一度も追徴などを受けたことがありません。
(メルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』2024年7月30日号より一部抜粋。
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