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友軍か占領軍か腫れ物か?米軍ヘリ不時着で露呈した「日本の大矛盾」…保守も左派も大人になれぬ我が国安全保障上の重大懸念

神奈川県海老名市の水田に3日、米海軍のヘリコプターが不時着。けが人などは出なかったが、国内報道は総じて“アメリカ批判”に傾いた。これに関して、緊急時にヘリが耕地を選び不時着するのは良い判断にもかかわらず、称賛の声がほとんど聞かれない点に我が国の矛盾があると指摘するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。はたして日本にとって在日米軍は「友軍」か、それとも「占領軍」か。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:不時着ヘリが同情されない危険性について

なぜ批判一辺倒?海老名市の田んぼに米軍ヘリ不時着

8月3日の土曜日、神奈川県海老名市の水田に米海軍在籍のヘリコプターが緊急着陸しました。幸いなことに不具合は深刻ではなく、ヘリは自力で再離陸しています。ヘリにしても、航空機にしても、飛行中に万が一機材に不具合が出た際には、不時着地の選択は重要になります。

仮に自機の着陸の際のリスクが増すようでも、人口密集地を避けるのは鉄則です。アメリカの場合は高速道路の路面を選択するケースがありますが、日本の場合は慣れていないのと法令の問題があるのでこれはダメです。とにかく地上におけるダメージを最小化するのが鉄則であり、耕地というのはかなり良い選択になります。

仮に今回の事故が深刻なもので、地上に大きな衝撃を与えるハードランディング、ハードクラッシュとなるのであれば、余計に耕地に着陸を実行したクルーは称賛されるはずです。例えば、屋久島で垂直離着陸機の事故がありましたが、あれも陸上を避けた点はプラスに評価される性質のものです。

一方で、目撃者の通報を受けた警察と消防は日本の統治機構ですから、地上のけが人や被害を中心に確認を行ったのは、これはこれで正当なものです。その上で、人口密集地で同様の事故が起きたらという最悪のケースを想定した議論や申し入れが行われるというのも必要なことです。

ですが、クルーに関しては耕地を選んで着陸したことは称賛されるべきですし、また不具合と不時着があったにもかかわらず、恐らくは人的被害はなかったのだと思われれば、安堵の感想もあっていいと思います。

なぜならば、日本にとって在日米軍は友軍であり、仮想敵ではないからです。もっと言えば、本来は日本が自分で行うべき自国の防衛を肩代わりしてもらっている存在です。

ですが、政治にもメディアにも不時着成功への称賛もなければ見舞いの言葉もありません

事実だけを伝える姿勢のニュースにしても「けが人はいないということで、警察や消防が当時の状況を詳しく調べています」「現場は、小学校や住宅が点在する田園地帯です」と暗に非難のニュアンスを込めています。

「日本は米軍を『友軍』として認めていない」問題

どうして、在日米軍というのはこのように忌避されてしまうのでしょうか?

例えば、NATO見直しを公言してはばからないトランプ氏が大統領に返り咲く可能性から、日本では「もしトラ」論議が盛んです。さらには、自分の軍歴を元に「アメリカ以外を守る」ことに懐疑的なJDヴァンスという人が副大統領候補に指名されてもいます。

この「もしトラ」論というのは、日本には暗黙のプレッシャーとなっています。つまり在日米軍の費用負担を増額されたり、米軍の撤退をチラつかせて脅されるのではという恐怖となっているわけです。岸田政権が防衛費の増額を進める理由はこれと関係しています。

ちなみに、バイデンは「自分が増額を認めさせた」と胸を張って、日本の外交当局を怒らせました。ですが、独立国の自主的な判断だというのはあくまで建前であり、「もしトラ」というトランプの「忍び寄る影」が岸田氏の判断を後押ししているのは間違いないと思います。

問題はカネだけではありません。今回のヘリの一件がそうであるように、在日米軍は日本にとって本当に友軍と思われているのか?という点は、根源的な問題だと思います。

保守派も左派も、在日米軍に「素直になれない」のはなぜか

例えば、沖縄では地代収入と雇用、購買など基地の経済効果が県の経済を支えています。それでも、その一方で、基地への世論は厳しいものがあります。ただ、沖縄に関しては日米の激しい戦闘に巻き込まれ、27年にわたる米国による占領と軍政に苦しめられた経験から仕方のない面もあると思います。

けれども、今回の神奈川の事件でもそうですが、ヘリが水田に不時着したら批判されるというのは、全国的にあるわけです。在日米軍イコール迷惑という感情論に抑えが効いていないわけで、これはメディアもそうですし、左右問わず政治家の姿勢にも見られます。

説明は可能といえば可能です。日本人の心情には平和主義が根強いので、今でも世界で軍事プレゼンスを維持する米軍に対しては不快感があるということで、これでまあ説明はつくといえばつくわけです。ベトナム戦争には世論の多くは反対でしたし、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争、いずれも日本の世論の過半数は反対でした。

さらに、在日米軍については、占領の延長だという「悔しさ」の感情もあると思います。左派も含めて、敗戦や占領への反発といった自覚のないナショナリズムがありそうで、この問題は結構深刻だと思います。

その先にあるのは、どうして在日米軍が存在するのかという根源的な理由です。

敗戦経験から重武装を嫌い軽武装を選択した日本は、米国の軍事力に依存しなくては自国の安全を確保できないので、そのような選択をしているというのが一般的な解釈だと思います。

けれども、その奥には屈折した心情があることもまた間違いのないところです。

左派には国家や国軍への不信があり、自主重武装をすれば必ず自滅するというネガティブな信念のようなものがあります。そのような自国への不信感を発想法の核に据えているというのは不安定に過ぎるように思います。

けれども、こうした心情はテコでも動かせないわけです。そこで、歴代の政権は湾岸戦争のようにカネで済むことはカネで済ませ、イラク戦争の場合は輸送支援と井戸掘りで済むならば、それで済ませるということをしてきました。

そんな中で、自衛隊には国民から十分な尊敬が集まっているのかというと疑わしいわけです。

今回噴出した自衛隊の不祥事に関しても、調達に関係した賄賂については言語道断ですが、それ以外の機密保持や訓練ノウハウの問題(手榴弾投擲の事故、複数の深刻なヘリ墜落事故)については、世論にある軍事的なるものへの過剰な嫌悪や侮蔑の念が自衛隊を追い詰めて苦しめているとも言えるように思います。

日本の「親米保守」すら在日米軍の足を引っ張っている現実

では自衛隊や在日米軍の応援団であるべき保守派はどうかというと、彼らも問題を抱えています。

具体的には、歴史認識において枢軸日本の名誉を回復しようという無謀な心情を隠さないことであり、これに加えて必要以上に近隣諸国との協調を壊そうとしていることです。さらに一部には核武装論を語るグループもあります。

この姿勢はアメリカの利害と対立するだけでなく、日本を孤立と破滅に追いやる危険思想に違いないと思います。日本という20世紀的テクノロジーの得意な国が核武装するようですと、NPT体制は瞬時に崩壊して人類の生存の危険は一気に高まるからです。

けれども、そのような、日本の「保守派」の主張は「在日米軍が瓶の蓋」となる中での「瓶の中の人畜無害な国内向けの議論」だとみなされ許容されてきたわけです。

【関連】なぜ自衛隊の「大東亜戦争」呼称は“利敵行為”にあたるのか?右派の甘えと精神的コスプレ 日本存立を脅かす重大脅威に

キッシンジャーは、日本の軍事大国化を心配する毛沢東と周恩来に対して、「在日米軍が抑えを利かすから大丈夫」だと説明したそうですが、けれども、地域の環境が厳しくなる中ではそのような甘えは許されないと思います。

例えば核武装については、トランプは「米軍の駐留経費を全額払わないなら、日韓から米軍を引き上げる。その代わり日韓には核武装を認める」などと無茶なことを言っていますが、これがアメリカの国家意思では「ない」ことは明白です。

3点の問題提起をしてみましたが、全体としては「右も左もやっつけろ」的な議論のための議論に聞こえるかもしれません。けれども、その奥にあるのは恐ろしい一つの事実です。それは、在日米軍にとって日本国内には本当の味方は少ないということです。

在日米軍を歓迎する「親米保守」は、心情的には枢軸日本の名誉回復を望み、中国や韓国との必要以上の関係悪化を厭わない勢力を抱えています。

一方で在日米軍を忌み嫌う左派は、同時に米軍抜きの地域安全保障の青写真を全く持っていないのです。

つまり、在日米軍にとっては自分たちを歓迎しつつ足を引っ張る勢力と、歓迎しないくせに自分たちに依存している勢力があるだけで、真の理解者はいないことになります。

「日本の本音」がアメリカにバレたらどうなるか

日本の国内の論議として考えると、この構図には、残念ながら深く長い歴史的必然があります。正しくはないにしても、この構図そのものが現在の日本の「国のかたち」だという説明も可能は可能でしょう。

ですが、在日米軍、例えば生命の危険を感じながらも、今回危険を冒して水田への非常着陸を成功させたヘリのクルーなどは、仮に日本国内に自分たちへの嫌悪があるということを知ったらどう思うでしょうか。

危険を冒して守ってやっているのに、相手は迷惑だとして自分たちを嫌っているという事実、これは、恐らく米軍の多くの若者やアメリカの一般世論には隠されてきました。その上で歴代の「知日派外交官」たちが、内心の不満を隠しながら日本の政府や沖縄県庁に対して笑顔で対応してきたのも、また歴史として膨大な事実があるわけです。

ですが、国際情勢が不安定さを増す中で、このような非常識なことは是正して行かないといけないと思います。今回はヴァンスになりましたが、トランプの副大統領候補の中で同じように軍務経験のあるトゥルシー・ギャバード(元民主党)などは、軍事的反日主義者として危ない人物と言えます。何しろ、日本の軍事費倍増は「太平洋支配の野望」だなどと、ヒドいことを言っているからです。

彼女の場合は、もしかしたら北方の調略が入っているのかもしれません。ですが、この種の危険な「アメリカ・ファースト」的なノリというのは、現在のアメリカではすぐに「受ける」のは間違いありません。守ってやっているのに嫌悪されているという「事実」が、この種のトランプ派など「新しい孤立主義者」にバレては大変です。

この問題は日本の安全保障上の重要課題であると言っても過言ではないと思います。とにかく、コツコツと是正することは必要だと思います。軍事費負担を倍増する以前にしておくべきという言い方もできるかもしれませんし、効果はこちらの方が大きいと思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年8月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。メインレポートの「株安は日米の物価対策の副産物」もすぐ読めます

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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