でも、土地だけで建物はない。「どうするんです?」と聞いたら、「あなたの実家から貰ってらっしゃい」と。
それで築二百年ほどになる実家の旅館を半分壊して持ってきたのが創業の原点です。最初は本家の屋号を借りて招雲閣別館としてゼロから出発しました。
もう古くて汚くてボロボロなんですよ。布団が足りなくて、私の持っていた着物を全部解いて縫ったので、1枚ずつ模様が異なる。
部屋は僅か7つ、お客様は10人でいっぱい。水道がないので、川から天秤棒を担いで運ぶ。電話もないので、一番近くの電話を借りに30分自転車を走らせる。
──まさに徒手空拳のスタートだった。
そして極めつけは義母からもらった金庫です。
ある日、「お祝いです」と言って、ピカピカの手提げ金庫を持ってきてくれたの。
「いくら入っているのかな、これでお米を買おうか、お酒を買おうか」と思いながら蓋を開けると、何も入っていない。
それで義母の顔をじっと見たら、こう言われました。
「一銭も入っていない金庫にお金を入れるのもあなた、これを捨てるのもあなた。すべて人のせいにしないこと」
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