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日本を除くG7すべての国が出席見送り。中国が長崎の平和祈念式典“あの国不招待問題”に見せた冷静な反応

イスラエル駐日大使の「不招待」をめぐり、米英をはじめとする主要6カ国の大使が欠席した長崎の平和祈念式典。国内外を問わず多くのメディアが報じましたが、中国はこれをどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、隣国の反応を詳しく紹介。同国ニュース解説サイトの記事に寄せられた反応を取り上げています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:長崎市が平和祈念式典にイスラエル不招待で6カ国大使が欠席 日本のメディアはなぜ彼らに理由を質さないのか

世界のメディアが敏感に反応。長崎平和祈念式典の「イスラエル排除」を中国はどう見たか

長崎市が9日の平和祈念式典にイスラエルを招待しなかったことで、波紋が広がった。鈴木史朗市長は「政治的な判断ではない」と説明したが、結果としてアメリカを筆頭に主要7カ国(G7)の日本を除くすべての国が式典への出席を見送った。

理由は、ロシアやベラルーシとイスラエルが同列に扱われるようで、「残念で、誤解を招く」からだという。

世界のメディアは敏感に反応した。

だが、長崎市は判断を変えなかった。上川陽子外相も、市に「国際情勢を含め説明してきた」としつつも、国が市の判断を覆すことはできないとの見解を示した。

政治的判断ではない、という説明が通用するはずもないのだから、国際法違反が明らかな国はどの国であれ「招かない」という明快な判断をすればよい。唯一の被爆国として、平和を尊ぶ決意をしたのなら、静かに実行すればよいのではないだろうか。

残念だか日本では国際秩序とアメリカの秩序が混同されていて、どうしても時として筋の通らない問題が発生する。

さて、中国はこの問題をどう見たのだろうか。

ネットにあふれる感情的な書き込みを除けば、理性的に評したものはそれほど見つからない。筆者の検索能力の問題かもしれないが目立たない。公式見解と受け止められかねない発信は避けたいのかもしれない。

ちなみに感情的な書き込みというのは主に日本攻撃で、広島、長崎の式典では定番だ。文面は「(被爆国だと言って)被害者面するな!」といったものだ。

かつての中国では、「核攻撃は正当だった」という、アメリカでよく聞かれる主張が本流だった。しかしいまはそうした書き込みは減っている印象だ。

今回は、「(長崎の動きは)自分を被害者、善人に見せようとイスラエルと距離を置いたようだが、戦争責任は明々白々で石炭のように真っ黒で洗っても落ちない」という書き込みが目についた。

比較的冷静に書かれたという意味では『観察者ネット』の記事が良いかもしれない。

本文ではないが、記事に対する返信に見解が見つかる。

「広島がイスラエルを招きパレスチナを招かなかった時には誰も騒がなかったのに、長崎でイスラエルが招かれなかったらたくさんの犬が湧き出てきてワンワン吠えた。結局、日本は掛け金を左右の両賭けするしかない」という書き込みに対し、いくつかの視点が綴られているのだ。

反応したのは、日本がパレスチナ問題では両方に良い顔をしなければならない事情についてだ。

これはロシア・ウクライナ戦争で一方的な報道をした日本──中国ではロシアの立場からの報道も多かったのでそう感じる──が、パレスチナ問題に関してはそうではなかったという印象を中国人の多くが共有しているからである。

つまり対ロシアでは先進7カ国の一員として心置きなく鉄槌を喰らわした日本が、パレスチナ問題では歯切れの悪い対応をしたことを指しているのだ。

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日本に対し「自国利益の考慮」を呼びかけ続けてきた中国

その理由は何なのか。

「日本がパレスチナ問題で左右両にらみで対応したのは、中東の石油と天然ガスが日本のエネルギーにとっての生命線だからだ。だからアメリカがいくらイスラエルをかばっても、イギリスのように追従する勇気は持てないのだ。中東のアラブ諸国の機嫌を取るために、一定の距離を置かざるを得ない」という。

エネルギーだけの問題ではない。

「インドネシア、マレーシア、北アフリカ、南アジアのような多くのイスラム諸国は、日本の重要な貿易相手であり、同様に良好な関係を維持しなければならない」とも解説している。

「今回のイスラエル・パレスチナ紛争(ガザ地区への攻撃)が起きて以降、日本はバランスのとれた姿勢を維持していて、昨年のG7首脳会談後のイスラエルの自衛を支持するG7の声明には参加しなかった。そして日本のメディアも、パレスチナ地域でのイスラエルの暴行を比較的積極的に報道してきた」という記述も中国でよく聞く平均的な日本の評価だ。

米中対立が激しくなって以降、中国は日本に対し「自国利益を考慮して」と呼びかけ続けてきた。

指摘しているのは言うまでもなく日米間に存在する利害の不一致だ。

なかでも中国が警戒しているのが、台湾海峡危機だ。アメリカが台湾や日本の側に立ち中国と直接戦争をすると仮定──これ自体に無理があるのだが──しても、戦場は東アジアなのだから、日本や台湾、中国とアメリカの利害が一致するはずはない。どこの国が勝ってもアジアが深刻な沈下に見舞われることは明らかだからだ。

もっとも中国の目には、日本が台湾海峡危機を利用して脱戦後を果たし、平和憲法の桎梏を説こうとしているとも映るので、それなりのメリットがあってやっているともみている。だが、その日本の行動が万が一台湾の独立勢力を過剰に勢いづかせてしまい、制御できない状況を作り出す危機が高まれば、最終的なデメリットはメリットを大きく上回るに違いない。

話をパレスチナ問題に戻せば、日本がこの問題を通して感じる利害の齟齬は、実は今後の世界貿易では常態化しても不思議ではないのだ。

アメリカが対中国でデカップリングを進めるとしたら、それは現実問題としてのしかかってくる。デカップリングが非現実だとしても、いま日本が対中貿易、ビジネスで得ている利益は失われる。

そうなればそれに代わる何かを開拓しなければならないのだが、その場合に有望なのは東南アジアや中東、アフリカである。

このことを日本はどうとらえてゆくべきなのだろうか。

【関連】岸田政権から“何らかの圧力”があった?NHKが「広島平和記念式典」で“あの国”の駐日大使の顔を映し続けていたウラ事情

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年8月11日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: cowardlion / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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