球界の雄・工藤公康さんが尊敬し続ける王貞治監督。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、王監督との感動エピソードを工藤さんがお話ししています。
工藤公康「あれが本当のファンなんだよ」
現役時代はピッチャーとして224もの勝星を重ね、11度の日本一に貢献。さらに監督としても7年間でチームを5度日本一へと導いた球界の雄・工藤公康さん。
その工藤さんが選手としても、指導者としても大きな影響を受けたのが、王貞治監督です。今も忘れられないという、王監督との感動エピソードをお話しいただきました。※対談のお相手は手術成功率98・7%を誇る小児心臓外科医・高橋幸宏さんです。
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〈高橋〉
……工藤さんは、広岡監督からアメリカ留学の機会をいただいたことが、野球に対する「価値感と使命感」を養う大きな転機になったといえますね。
〈工藤〉
そうですね。広岡監督のことでいまでも強く印象に残っているのは、入団間もない年始の出来事です。1月4日に帰省先の実家でのんびり新聞を開くと、監督が前日に誰も寮に戻ってきていないのを見て、「やる気のないやつはやらなくていいんだ!」と激怒していたと報じてありました。
慌てて寮に戻ると、広岡監督が仁王立ちしている。挨拶もそこそこにユニフォームに着替えて練習を始めました。監督はそれから一日も休まず僕たちの練習を見に来ましたが、「練習しろ」とはひと言もおっしゃらない。選手に悟らせ、自分で動いてよくなっていく。「見る」ことの大切さを学びました。
改めて振り返ると、僕は会う方、会う方に支えていただいてきょうまで歩んできました。小中学校の先生や高校の中村監督がそうですし、プロになったばかりの若い頃は、広岡さんと、広岡さんの前の監督で球団管理部長だった根本陸夫さんが、僕を厳しく導いてくれる親のような存在でした。それから何と言っても、王貞治さんから受けた影響は大きかったですね。
〈高橋〉
王さんは、工藤さんが福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)でプレーされた時の監督で、その後球団の役員を歴任してこられましたね。
〈工藤〉
僕からすれば、子供の頃にテレビで観ていたスーパースターですから、最初は面と向かうと緊張してカチーンと固まっていました(笑)。野球に向かう時はとても熱いんですけど、戦いを離れると「何でも相談に来ていいよ」と、とても気さくに声をかけてくださる方でした。
いまでも印象に残っているのは、チームの成績が低迷していた時に、僕たちの乗っていたバスがファンの方々に取り囲まれ、卵を投げつけられながら罵声を浴びせられたことがありましてね。
そんな中でも王さんは、ファンに言い返したり僕たちを責めたりすることなど一切なく、じっと一点を見つめて微動だにされなかったんです。後に「あれが本当のファンなんだよ」とおっしゃるのを聞いて、本当にすごい方だと思いました。
その出来事がきっかけでホークスは変わり、優勝を果たすことができました。僕も王さんに倣って、もっともっと人間的に成長していかなければと痛感させられます。
(※本記事は月刊『致知』2022年9月号 特集「実行するは我にあり」から一部抜粋・編集したものです)
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