教員だけでなく、心理や法律などの専門家も一丸となって学校運営に当たっていこうという「チーム学校」という取り組み。その考え方はまさに理想的なものですが、教育現場はこの「恩恵」を得るに至っているのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、さまざまな「証拠」を挙げつつ「チーム学校」が仕組み的に崩壊していると判断せざるを得ない理由を解説。さらにこのタイミングで文科省が創設するという「いじめ対策マイスター」に対する率直な思いを綴っています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:チーム学校の崩壊、マイスターって何?
チーム学校の崩壊、マイスターって何?
2010年台から始まっている「チーム学校」、これは、一言で言うと「専門的な職員のサポート体制を作って学校のマネジメント力を強化」するということ。
例えば、心理職のスクールカウンセラー、福祉関係ではスクールソーシャルワーカー、法律だとスクールロイヤー、など。警察OBなどで警察とも連携を図ったり、学校に係るさまざまな問題解決ができるようにチームを組んでおこうというけっこう画期的な体制だった。
しかし、運用からおよそ10年近く、実際は、どうなのよ?と言えば。
現在、中央教育審議会などが目玉としている探究学習の肝となる「学校司書」は、非正規が前提での不安定雇用となっているという。9割近くが非正規、複数校兼任も珍しくないそうで、自治体の中には、資格を求めていないところもあるという。
ちなみに、探究とは、経済界からも今後人材確保に当たっても注目があるかなり画期的なもので、児童生徒が自ら興味のある課題を研究したり、専門性のある人や団体などに取材を行うなどして課題解決をしていこうと言う学習などのことで、これまでの詰め込み型教育とは異なる。
私のところには、この探究関係でものすごい量の申し込みが来る。月に1~2件ならまだ対応ができるが、無償で30件以上の申し込みが来ている状況で、個別授業の一環だからまとめて行うわけにもいかず、選ぶわけにもいかないから、全面的に受付をしないことにしたのだ。
やる気に目を輝かせ、素朴ながらも本質的な疑問を問うてくる児童生徒の対応をするのは、確かに良い。しかし、数が多いとさすがに、どうなのよ?と思うわけだ。
これまでたくさんの児童生徒の対応をした。みな好感が持てたし、真剣に学ぶ姿は希望も持てたが、今は、数の多さと教員らが全く連絡がないことなどで、申し込み自体を閉鎖している。そしてずっと引っ掛かっていたのは、ほぼ全ての対応に教員らの姿も挨拶もなく、趣旨説明の1つもないことだった。
これに文句をネットで呟いたら、教員関係者に見つかって、プチ炎上したが、私が問題だと思ったのは、探究自体はものすごく良い取組なのに、教職員が何の説明もせず、メールや探究学習の意義とか趣旨のプリント一枚もないと言うのがほとんどだと言うこと。これを率直に問うと、児童生徒が先生に怒られると言うこと。炎上した際、教員らはこれを「お膳立て」とよび、そこまでしたら生徒のためにならないと言っていたことだ。
さらに炎上したのは、こうした問題提起の内容を読まずに、単に「いじめ問題で色々言ってくる門外漢が今度は探究の文句を言っていた、叩いてやろう」という極めて未熟な精神の教職員や教授連中からであった。
実際、きちんと連絡があった学校もあるし、教職員もいて、どうなんだろうと話をすると、「社会経験が乏しかったり、無かったりする人が多い業界なので、こうした少なからず挨拶しようという当たり前の社会常識がわからないのでは?」と言う意見ばかりであった。一方、なぜプチ炎上したのだろうというと、「その常識のなさを指摘されると、感情的に激昂する教員は多い」のだそうだ。
これについては、取材中なので後日詳細に書くことになるが、アクティブ型の教育は単に知識を詰め込む詰込み型学習より学びは大きく感じるだろう。画期的であるのは間違いない。そして、その探究の質や拡がりを持たせる役割として、「学校司書」は機能するというのだが、そもそもの雇用が不安定では、仕組みとしては絵に描いた餅であり、個々の学校司書に負担を強いることで成立する職業となってしまう。
こうした雇用上の問題が顕著になっているのは、スクールカウンセラーだ。
スクールカウンセラーは激務
スクールカウンセラー問題においては、東京都による大量解雇問題があった。東京都の場合、全員が非正規の公務員という位置付けで、人事制度としては会計年度任用職員となる。
つまり、その会計年度のみ雇用される立場であり、民間企業の一定期間働くという契約をするような契約社員は5年ルールで、働き続ければ正社員転換ができるという労働法からも外れているため、雇用自体が不安定な立場になる。
そうしたことで、東京都は結果的にスクールカウンセラーを大量解雇するという事態が発生したのだ。
私はこうした実態を知っているか、保護者に当たる大人100人にアンケートを取ってみたが、誰一人、この不安定な就業環境を知らなかった。
スクールカウンセラーは、何かあれば、心理職の専門家として、「頼ってください」と公的なアナウンスが流れるが、実は、ほとんどが、雇用不安定の公的非正規。教員不足と同時に学校のブラック企業化が叫ばれる昨今、スクールカウンセラーはもっとひどい環境で働いてるから、ドブラック労働を強いられているのだ。
実際にスクールカウンセラーとして働いている方に話を聞いてみたが、残業は当たり前で、持ち帰りで仕事もできない上、毎日勤務ではないのでその分給与は安いし、勤務校では原則部屋にいることが暗黙のルールになっているので、教室などを出歩いて困っている子に話しかけることもできないと嘆いていた。
当然に働き方は勤務校や地域によっても異なるということだが、何かあったら、キーマンになるような職業で、現状だと平時においても重要な役職だとなっているのに、こうした制度上の問題で不安定であるというのは、「チーム学校」の考えからすれば、亀裂が生じていると、いえるし、外部からみれば、仕組み的に崩壊しているのではないかと思えてならない。
そもそも、教員不足や教職員のブラック労働、定額サブスク働かせ放題の問題でも、根本的な問題は同様であろう。総じて、責任の割に雇用体制が不安定で、ばかみたいに安い報酬なのだ。
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一般企業なら
一般企業ならば、それこそ、取締役級の重責が発生する業務をアルバイトの子にやっといてねと頼むレベルで、そのアルバイトはどんなに残業しようが定時以降はお給料が出ないというのと同じことだ。
その割に責任はとにかく重く、やりがいはかなりあるが、普通に身体的疲労と精神的疲労は史上最大級にのしかかり続け、保障はない。
これを一般企業がやったら、速攻で労働基準監督署が来て経営者は逮捕されるだろう。しかし、「チーム学校教育村」では普通に逮捕者もなく合法だとして営みが先細りしながら続いているのだ。
そして、ここにきて、文科省がいじめ対策マイスターを創設します!
とこの9月になってからきたのだ。
マイスターって…。なんかソーセージ作る人ですか?と思ったのは私だけだろうか…。ネーミングセンスはいつも微妙だ。次はモンドセレクションなどの賞も用意されているのではないかと勘繰ってしまうが、まあ、このさい役職名はどうでもいい。
文科省の資料によると、いじめ対策マイスターは、各自治体の教育委員会に警察OBとか保護司などによる「いじめ対策マイスター」を設置して、学校から教育委員会に相談があった際にマイスターを派遣すると言う仕組みなのだという。
学校だけで対応が難しいケース(犯罪とか関係者との対立)、学校だけで再発防止が難しいなどに対応するという。今後の成果を見て全国的に広げる予定だということだ。
被害者側からの申し出は、受けるとはどこにも書いていないから、他の制度と同様に、学校長が申込書を作って教育委員会に送り、教育委員会が許可してマイスターを派遣するのであろう。
それならば、従前から通知や連携の約束が取り付けられていた警察との連携をより強固にすればいいだけではないかと思うのだが、それでは縦割りが崩れるという懸念があるようだ。
どうも国がやるいじめ対策は、実行部隊は全て自治体や学校法人で、実行部隊支援のみになっている。
現状、こうした公的支援が公的機関を支援する仕組みは次々に出てきて充実してきているが、公的機関である公立学校や教育委員会自体が、いじめの隠蔽を図ったり、被害者の声を封印しようとするケースが異常に目立って起きているのが問題なのであり、それは、記憶に新しい旭川いじめ凍死事件の再調査委員会がしていたし、その他の重大事態いじめの調査を行った第三者委員会が指摘している。
これだと隠蔽を国が応援しかねない仕組み作りになっており、被害者はますます声が上げられない、声を上げても刈り取られてしまう環境が強化されているのではないだろうか。
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そもそも被害者側はやることがたくさんある
私は被害者支援を軸としている。稀にこどもから直接の相談と依頼がくることもあるし、金銭的に困窮しているという家庭からも相談があるし、全て交通費も無償での対応を基本としている。だからこそ見えてくるのは、地方だと弁護士さんを探すのも一苦労だし、依頼料を捻出するのも大変なことになる。さすがに弁護料まで我々が負担するわけにもいかず、ギリギリのところで依頼をすることもあるし、そもそもで依頼をしないという方もいる。
不登校であっても学力はなんとかしたいところもあって、フリースクールなど別の学び舎を探すにしても、フリースクールと言えど、授業料などはフリーではない、相応の費用が掛かるし交通費もかかる。心療内科や治療が必要な場合はそうした費用も掛かるし、目が離せない状態であれば夫婦いずれかが仕事を休んだり、仕事を辞めて家にいる必要や付き添いの必要もある。
証拠集めや資料のまとめなどもあるし、平日の日中に、学校が話し合いたいと呼び出しをしてくることに対応しなければならないから、そういう場合に急きょの有休を取ったり、仕事を休んだりしなければならない。
交渉は学校だけではなく、教育委員会とやり取りをしなければならなかったり、学校側の弁護士と対応することもある。
つまり、被害側は全てが手弁当であり、それを負担しなければならなくなるのだ。
そして、100%、いじめ被害においては、被害側の責ではなく加害側の選択によって引き起こされており、重大事態などの大問題になるものは、学校や教育委員会などの対応が不十分というより、不作為や隠ぺいによって起きているのだ。
こうした中で、なぜ被害側を支援せず、制度的な仕組みが学校側ばかりになるのか、全く理解できないし、それでも、何かやってますアピールをするのは、どうも詐欺に遭っているように感じてしまうのだ。
能登が大変なことになっているのに、外遊する総理大臣のように、それもきっと大切なんだろうが、タイミングも悪いし、国民の声が全く届いていないように感じるのだ。
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編集後記
被害家族の方々と話していると、今の流れから悲壮感が漂い、諦めに近い言葉が耳に入ってきます。重大事態いじめのガイドライン改悪然り、今回のマイスター然りです。
でも、です。
諦めたらそこで試合終了なんです。
声は上げ続けることが最も大事だと思います。たぶん、漫画『いじめ探偵』のおかげだと思うのですが、私の元には応援するという声がたくさん届いています。もちろん、嫌がらせも中にはありますし、足を引っぱろうという一部勢力もありますが、それはそれです。
ご寄付者名簿があるのに、寄付したと嘘をついて近づいてくる人がいたり…もうバレバレなんですけど、一部法人からも寄付があったりして、これまで交通費を自腹で負担していたのが無くなって助かっています。
当初は、マジで自腹でした。今すぐ札幌に来てくれ…とか言われても、俺もう金ないよと、事情を話すと、被害保護者からも本人からも、すごい謝られたりして、いやいや、こちらこそみたいな変な会話をした覚えもたくさんあります。
そんな中、そういうことがありましたと経営者の会のスピーチを頼まれたときに言ったら、カンパが集まったり、世の中捨てたものではないなと実感したこともありました。
つまり、私の活動は色々な人の思いや志で成り立っています。
だから、まだ諦める時ではないのです。
時代は動きます、考え方や様々な仕組みも変わっていきます。だから、声を上げ続ければ、いつかは変わるはずだと信じるしかないのです。
声がかれてきたり、喉がイガイガしたとき、とりあえず私はすぐ横にいます。代わりに倍声を張り上げます、限界はありますが。
もしよかったら、これを読む方もご一緒しませんか。なにかちょっとでも変わるかもしれないし、その変化が、大きなうねりとなっていくかもしれません。
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