お米の「大規模大量生産」は日本の敵か味方か?令和6年米騒動とアメリカの関係…わが国経済・食文化・食料安全保障の死守ラインを考える

 

消費者が知らない、アメリカの大規模米作と「事故米」の関係

さて、ここで大規模米作ということで言えば、何と言ってもカリフォルニア米のことが思い起こされます。カリフォルニア米というと、何となくメキシコ系などが「粒の長いパラパラ米」を作っているとか、せいぜい中国系だろうと思っている方が多いのかもしれませんが、実は違います。

カリフォルニアにおける米作をリードしているのは日系人で、具体的には2つの農場(農業企業)であり、代表的なものとしては2つのファミリーに絞られます。1つは、国府田(こうだ)ファームです。福島県出身の日系1世である国府田敬三郎氏(1882~1964)が創業者で、製品名は「国宝ローズ」です。

この農場はカリフォルニアという「高温で乾燥」している風土の中で、ジャポニカ米の大量生産を行うには「純粋な短粒米では無理」だと判断しました。そこで、長いパラパラ米(長粒米)とジャポニカ米(短粒米)をかけ合わせた中粒米(ミディアム・グレーン)を開発したのです。これが「国宝ローズ」でした。この「国宝ローズ」には黄色のノーマルと、赤のプレミアムがあります。確かに見た目は短粒米より長いですが、浸水をしっかりやればジャポニカ米に近い食味が得られることで日系社会、そして全米で信頼を勝ち得たのでした。

この国府田ファームで修行した中に、田牧一郎氏(1952~)という方がいます。田牧氏は「コシヒカリ」をベースとした短粒米を、大規模米作に向くように品種改良したばかりか、非常に近代的な機械化、自動化を通じた緻密なコスト計算を積み上げました。その結果が「田牧ゴールド」であり、全米でトップの評価があります。

この銘柄は、長年15ポンド(7キロ)で25ドル程度だったのが、2015年ぐらいから30ドル~35ドルという価格水準を維持しています。とにかく評価が高く、値崩れしないのです。食味は、ほとんど日本国内のブランド米と同等です。アメリカの場合は精米時期を表示しなくてもいいので、恐らく精米後8ヶ月前後のものが流通していると思われますが、それでこのクオリティというのは、相当な工夫があるとしか思えません。

いずれにしても、長年にわたって外務省と農水省が「ああでもない、こうでもない」とアメリカからの米の輸入に抵抗していました。そして、最後は入れたとしても「事故米扱い」していたのは、実は国府田ファームや田牧ファームの製品や、それとほぼ同品質の米だった可能性が高いわけです。(事故米の正体については、これも建前としては、ベトナム米とか中国米ということになっていますが、カリフォルニア米も可能性が高いです)

実は、この「事故米」はコッソリ炊いて食べてみたら「美味い」ということがバレてしまったのでした。そこで、多くの外食産業などが「コッソリ」とこの「産業原料にしか使ってはいけない」はずの「事故米」をヤミで買い付けて消費者の口に入るようにしていたという事件もありました。密告があるまでバレなかったというのは、むしろ当然と言えます。国府田、田牧クオリティの製品(もしくはそのライバルたち)のものである可能性があるからです。この「事故米横流し」事件は、2008年の事件ですが、その真相は今となっては藪の中です。

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