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“ナノメートル”はどのくらい小さい?私たちが実感できないその単位

半導体について話すときによく使われる「ナノメートル」という単位。どの程度小さいものなのか、その歴史をたどっているのは、無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者です。

3ナノとは空気分子間の距離

最近、半導体競争が激しくなり10億分の1メートルを指す「ナノメートル(nanometer)」のような微細単位がよく言及される。半導体が人工知能(AI)水準に発達したのは、電子回路がナノメートルの大きさに小さくなったためだ。したがって、回路をどれだけ小さく細く具現するかが技術を計る尺度になり、これを可能にした半導体工程のエッチング(etching)やフォトリソグラフィー(photolithography)も今は日常で接する用語になった。

ところが、ナノという数字がどれだけ小さいのか、実感できる人はそれほど多くはない。今回はナノについての言及である。この数字がどれほど非現実的であるかは、人類の知識欲求が古くから試みた挑戦だったという事実と密接につながっている。

1450年頃、ドイツのグーテンベルクが金属活字に成功してから1500年まで初期印刷物を「インキュナブル」と呼ぶ。ラテン語でゆりかごという意味の「incunabula」に由来しているが、新生児を保護するインキュベーターのような語源を持つこの単語は、技術の初期段階という意味だ。

この短い期間に印刷された著作は現存するものだけで3万種に達する。一つの原版で数冊が出版されるので、本の数ははるかに多く、ドイツだけで12万5000冊あり、全世界的には55万冊あると推定されている。紀元前のユークリッド幾何学が1482年に初めて印刷本として出版されるほど、人類の知的資産は中世を経るまでは羊皮紙の筆写本に閉じ込められていた。

このように少数だけが享受していた知識は、印刷革命であっという間に広がる。同じ1482年を背景とするヴィクトル・ユーゴーの『パリのノートルダム』(この作品自体は1831年の作)が「本が建物を殺す」として中世の終末を宣言したのはこのためだ。

この時期、ドイツの天才画家アルブレヒト・デュラー(1471~1528)は特に版画の絵を多く残した。デュラーは、ドイツで始まった印刷革命の意味に誰よりも早く気づいた。市場の反応は熱かった。初期の金属活字は木版印刷と競争したが、印刷物が堰を切るように爆発し、金属活字が勝機をつかむ。デュラーも木版画と銅版画を同時に試み、より精巧な銅版画に集中した。

この技術が出版物に挿絵として使われ、莫大な需要を生み出したのだ。これはエッチングという技法で可能だったが、鋭いペンで銅板を掻いて腐食させた後、その腐食部位にインクが染み込んで印刷する技法だ。中世を打ち破ったルネサンスは、印刷科学が作った知識革命だった。

印刷術が発達すると、より精巧な版画技術が要求されるようになる。「リソグラフィー(lithography)」はこのような背景から登場した。従来の版画は陽刻や陰刻を利用するが、リソグラフィーはこのような凹凸がなく水と油が混ざらない原理を利用した平板化技術だ。一種の選択的印刷方式であるが、はるかに繊細な表現をすることが可能となった。

20世紀半ば、トランジスタの誕生で半導体革命が始まると、科学者たちは細かい回路を小さなチップに集積できる技術をリソグラフィーから探すようになる。1955年、米国ベル研究所は光に露出された部位と影の部位を選択的に反応させ、まるで写真のように精巧な回路を描くことができるということを発見した。半導体集積回路の核心技術であるフォトリソグラフィー工程は、このように選択的印刷技術を利用したものなのだ。

要するに、半導体の核心工程であるエッチングとフォトリソグラフィーは、新しい知識に飢えていた人類の欲望が作り出したものだ。絶え間ない情報欲求は再びIT分野につながり、ここで微細な絵の技術的限界を克服する挑戦が続く。

初期の半導体工程は回路の線幅が髪の毛の太さに該当する100マイクロメートルから1マイクロメートル単位まで小さくすることが目標だった。フォトリソグラフィーが光を利用するため、微細なパターンを作るには光の波長も短いほど有利だ。我々が日常で見る光を可視光線という。可視光線の波長は数百ナノメートルなので、通常の光でマイクロメートルサイズの線幅を具現することは問題なかった。

しかし、人々はより高性能な半導体を求めより微細な回路が求められるようになる。ナノメートル単位まで小さくなると、はるかに短い波長が必要だった。

最新のフォトリソグラフィーは極紫外線(EUV)を使用しているが、この光の波長は13.5ナノメートルに過ぎない。現在、この技術で業界は3 ナノ級の回競競争に突入している。 3ナノメートルは空気分子間の距離に相当するほど想像を絶する小さいサイズだ(空気分子というものは存在しないが空気を構成している窒素分子や酸素分子のことをここでは象徴的に空気分子といっている)。

さらに驚くべきことに、我々の周りのハードディスクにもこのサイズが適用されるという事実。ハードディスクは円盤状のディスクが回転すると、その上に磁場を形成するヘッドが空気の上に浮いて作動する。この微細な隙間を「飛行高度(flying height)」と呼ぶ。最新のハードディスクは、この高さがわずか 3.8 ナノメートルだ。空気分子の間からヘッドが飛んでいる格好だ。

今年の最も熱い経済ニュースは、人工知能とIT革命をリードする企業の株価だった。世界最上位圏の会社一つの時価総額は、韓国のすべての企業の株価を合わせたものより大きい。このように、私たちは企業の価値を貨幣で評価して驚くのだが、企業の技術水準を表す数字がどのような意味であるかは分からない場合が多い。分子間の距離とは、人間が体感できる範囲を超えるからだ。

ところが、この数字があまりにも非現実的だという事実から、韓国企業が迎えた挑戦がどれほど容易ではないかが分かるというもの。一寸の隙も許されないこの競争は、最近のことではなく、かなり昔に始まった印刷術と知識革命から始まっているわけだ。その結果、文明が変貌し今やこの厳しく困難な競争に韓国経済の相当部分が巻き込まれていることに注目する必要がある。[朝鮮日報参照]

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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