10月27日に行われた衆院選で大惨敗を喫した自民党。「自公過半数割れ」となり厳しい政権運営を迫られることとなった石破首相ですが、我が国の政治にとって「2つの大きな収穫」があったと人気ブロガーのきっこさんは分析します。今回の『きっこのメルマガ』ではきっこさんが、そんな「収穫」について詳しく解説。日本がようやく「本当の民主主義のスタート地点」に立つことができる可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:衆院選の2つの収穫
自公過半数割れと高市早苗の完全終了。衆院選「2つの大きな収穫」
今回の衆院選は10月27日(日)が投開票日でしたが、その直後のメルマガ配信日が第5水曜日で通常号は休刊日だったため、選挙から10日も経った今日、どこよりも遅く取り上げることになってしまいました。しかし、逆に考えると、衆院選の直後ではなく、10日も経ったからこそ、いろいろと見えて来たこともあるのです。そこで今回は、激しく遅ればせながら、あたしなりに今回の衆院選を総括してみたいと思います。
結果のほうは皆さんご存知だと思うので、細かい点は割愛してザクザク進みますが、自民党は閣僚2人を含む56議席減で191議席となり、公明党は代表と副代表を含む8議席減で24議席となり、計215議席で過半数の233議席を大きく割り込みました。石破茂首相は「自公での過半数」という低すぎるハードルを勝敗ラインとしていましたが、それすら超えられない大惨敗でした。石破首相が非公認とした自民党候補のうち、当選できた6人を将来的に戻すとしても、過半数には届きません。
一方の野党は、立憲民主党が50議席増の148議席を確保し、国民民主党は7議席から28議席へと4倍も躍進しました。また、れいわ新選組も3議席から9議席へと3倍増となりました。しかし、機関紙「赤旗」が投開票日の直前に、自民党が非公認の候補者にも1人2,000万円を振り込んでいたというスクープを報じ、自民党の議席減に大きく貢献した日本共産党は、10議席から8議席へと減らす結果となってしまいました。そして、大阪の全19の選挙区を総取りした日本維新の会は、全国的には44議席から38議席へと6議席を失いました。
選挙前は、与党が計279議席、野党が計186議席でしたが、選挙後は、与党が計221議席、野党が計244議席と逆転しました。これはとても素晴らしいことです。自民党政権はこれまで、安保関連法案しかり、特定秘密保護法案しかり、多くの国民が反対していた数々の悪法を、ロクに審議も尽くさずに数の暴力で強行採決し続けて来ました。しかし、自民党と公明党の議席数が過半数を割り込んだ今、こうした強行採決は不可能になったのです。
もちろん、野党も一枚岩ではありませんし、日本維新の会のように野党でありながら採決のたびにチョイチョイと自民党に協力するため「ゆ党」などと揶揄されて来た政党もあります。しかし、選挙前までは自公だけで過半数を占めていたので、たとえば今回の解散総選挙のキッカケとなった岸田政権での「改正政治資金規正法案」のように、あまりにも抜け穴だらけで、日本維新の会も含めて全野党が反対していたのにも関わらず、自公の票だけで強行採決されてしまった悪法もたくさんあったのです。
ですが、今回の衆院選の結果によって、自民党政権はコレができなくなりました。非公認で当選した6人を入れても与党は計221議席ですから、衆議院465議席の過半数の233議席には12議席足りません。つまり、自公だけでの強行採決はできなくなり、自民党が何らかの法案を可決させたい場合は、自公の他に野党議員を12人以上、取り込まなくてはいけなくなったのです。これは大きな収穫です。
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自然と弱体化して行くはずの「安倍派の残党ども」の圧力
で、今までの自民党なら、同じ方向性の日本維新の会を補完勢力にするために秋波を送ったでしょう。しかし、日本維新の会は、衆院選での大敗の責任問題で馬場伸幸代表が突き上げられていて、それどころではありません。そこで自民党が目をつけたのが、今回の衆院選で28議席という、過半数への穴埋めにちょうどいい塩梅の議席を確保した国民民主党でした。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、日本最大の右派団体「日本会議」が主催する講演会に登壇したり、機関紙「日本の息吹」にも頻繁に寄稿しており、故・安倍晋三首相ととても近い思想を持った人物です。そのため、自らを「安倍首相の志を継承する者」と言ってはばからない高市早苗氏が総裁選に勝って首相になっていたら、間違いなく国民民主党と手を結んでいたと見られていました。
しかし、総裁選に勝って首相になったのは、安倍晋三氏とは思想も政策も大きく乖離した石破茂氏だったのです。石破氏は総裁選の時、12月1日にマイナ保険証に統一されるため廃止される紙の保険証について「一本化を納得していない人、マイナ保険証が使えなくて困っている人がいっぱいいる。そういう状況であれば、紙の保険証との併用を選択肢とするのは当然だ」と述べていました。
それなのに、石破氏は首相になったとたん、総裁選時の発言をことごとく撤回し始め、マイナ保険証についても「予定通りに進める」と手のひら返しを発動しました。
しかし、これは本心ではなく、あくまでも自民党内のパワーバランスによるものです。そして今、衆院選で与党は過半数割れをしたのですから、もしも11月11日の「ポッキーの日」に召集予定の特別国会で、立憲民主党や日本共産党などが「紙の保険証との併用」を提案すれば、数の暴力で野党案を踏みにじることができなくなった与党は、野党に裏切者が出ない限り、この提案を受けざるをえなくなったのです。
であれば、もともと「紙の保険証との併用を選択肢とするのは当然だ」という考えだった石破首相ですから、これぞ「渡りに舟」とばかりに野党案に乗り、自民党内の圧力を押し戻せば良いのです。紙の保険証の廃止まで3週間となった現時点でも、マイナ保険証の普及率はわずか14%なのですから、石破首相が「併用」に舵を切れば、間違いなく大多数の国民に支持されます。
マイナ保険証以外にも、選択制夫婦別姓など、首相になったとたんに党内の圧力に屈して手のひら返しすることになった総裁選時の数々の約束を1つずつ推進して行けば、内閣支持率はどんどん上がって行くでしょう。そして、支持率が上がれば、石破首相の足枷(あしかせ)となっている安倍派の残党どもの圧力も、自然と弱体化して行くはずです。
今の日本に必要なのは「デフレからの脱却」ではなく「安倍政治からの脱却」です。安倍派の解体が進む今、新生自民党が先頭に立ち、アベノミクスの検証やモリカケサクラなど安倍時代の疑惑の解明に着手し、社会保障の削減やバラ撒き政策による国民の負担増など安倍政治の負の遺産を1つずつ解決して行けば、日本の政治はようやく本当の民主主義のスタート地点に立つことができるのです。そして、自民党の中でそれができる可能性があるのが、唯一、石破茂首相なのです。
衆院選の結果を受けてマスコミ各社が11月2、3両日に実施した全国世論調査を見ると、すべての媒体で内閣支持率が急落しています。朝日新聞は「支持する」が前回の46%から34%に、「支持しない」が前回の30%から47%に、完全に逆転しました。FNNと産経新聞は「支持する」が前回の53.3%から43.8%に、「支持しない」は前回の35.8%から49.8%に、こちらも逆転しました。JNNは「支持する」が前回の51.6%から38.9%に、「支持しない」が前回の43.5%から57.3%に、これまた逆転しています。
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高市早苗氏に死亡フラグが立ったというもう1つの収穫
しかし、面白いのはここから先です。次の「石破首相は続投すべきか」という設問では、朝日新聞は「辞めるべき」が24%にとどまり、「続投すべき」が61%を占めたのです。FNNと産経新聞も「辞めるべき」は36.5%で、「続投すべき」は55.3%です。どの調査でも「支持する」を「支持しない」が超えているのに、過半数の回答者が「続投すべき」と言っているのです。
新聞には「まだスタートしたばかりなので、もう少し様子を見てみようという人が多いのかもしれない」などと書かれていました。もちろん、そういう人も一定数はいるでしょう。しかし、あたしは、衆院選で与党が過半数割れしたことで、これまでのように強行採決ができなくなり、これからは野党とも政策の擦り合わせが必要になったこと、そして、石破首相ならこの状況をうまく利用して、総裁選時に自分が言っていた政策を進めてくれるんじゃないか?…という期待が再浮上したのではないかと読みました。この方向に進めば、こんな時期に解散総選挙をした意味もあるというものです。
それからもう1つ、今回の衆院選での収穫は、高市早苗氏に死亡フラグが立ったことです。衆院選の12日間は安倍派の裏金議員の応援演説に引っぱりダコで、調子に乗っていた高市氏でした。しかし、総裁選で高市氏を推薦した20人のうち、11人いた衆議院議員の6人が落選し、出馬を断念した杉田水脈氏を含めて7人の推薦者が下野したのです。その上、高市氏が応援演説をした候補者の半数以上が落選したのです。これにより、高市氏の党内での発言力は、もはや蚊の羽音となってしまいました。
10月16日に配信したメルマガ、第283号の「さよなら杉田水脈!」に詳しく書きましたが、石破首相は「来年7月の参院選でも裏金議員には今回と同じ措置を取る」と国会で断言しました。そのため、参院選に鞍替えして単独比例での出馬を考えていた杉田水脈氏には、出馬の道が閉ざされました。
【関連】杉田水脈氏「終了」のお知らせ。参院選に鞍替え宣言も“裏金ペナルティ”比例出馬不能で国会から姿を消すお騒がせ議員の末路
そんな杉田氏は10月29日、自身のツイッター(現・X)に、高市早苗氏の愛車のトヨタ・スープラを運転させてもらったと画像付きで投稿し「お腹にくる加速が大好き」などとコメントしました。
選挙応援に行った時に、高市早苗先生の愛車・スープラに乗せていただきました♪https://t.co/mDCRsUXTTj pic.twitter.com/GkrrciC91G
— 杉田 水脈 (@miosugita) October 29, 2024
杉田水脈氏が国会議員に返り咲く道は、参院選への出馬を認めない石破氏を総裁の座から引きずり下ろし、総裁選で次点になった高市早苗氏に総裁、そして首相になってもらうしかないのです。そのため、下野した今もこうして高市氏にコビを売りまくっているのでしょうが、その高市氏も、今回の衆院選で発言力も存在感も失ってしまったのです。
そもそもの話、裏金問題が原因で行なわれた総裁選なのに、高市氏の推薦人は20人のうち13人が安倍派の裏金議員だったのです。これほど国民をバカにした話は前代未聞です。さすがは自称「安倍首相の志を継承する者」です。杉田水脈氏にしても高市早苗氏にしても、あまりの厚顔無恥ぶりに、思わず開いた口からエクトプラズムが流れ出して幽体離脱しちゃいそうな今日この頃、日本をここまで劣化させたA級戦犯である安倍派の残党どもには、1日も早く政治の場から退場してほしいものです。
(『きっこのメルマガ』2024年11月6日号より一部抜粋・文中敬称略)
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