中国製の星条旗を手に「おまじない」を叫ぶ米国民の不幸。もう「アメリカン・ドリーム」は二度と戻らない

 

99%の人たちの不安と怒りにつけ込んだトランプ

「古き良きアメリカ」とはいつ頃までのことなのか。たぶん1950年代から60年代半ば、ベトナム戦争に負け始めて社会が激しく分裂するようになる前までだろうが、米国は世界が羨む豊かな中間層の国で、努力すれば誰もが必ず報われて、親よりも子、子よりも孫がもっと豊かになるに違いないと信じられる希望の国だった。

しかし、2022年にバーニー・サンダース上院議員が議会予算局のデータを元に発表したところでは、米国の上位1%の超富裕層が米国の富全体の3分の1を保有し、上位10%の富裕層となると7割以上を保有しており、しかも富裕な人たちほどますます速く富を増やすことができるのに、貧しい人たちはその逆で、この恐ろしいほどの貧富の格差はさらに広がりつつあるとのことだった。

こうした中で、高卒・大卒で職のない若者が4割にも達し、彼らが「We are the 99%」の旗を掲げてウォール・ストリートの広場を占拠する事件まで起きた。

この問題の大きな歴史的背景としては、水野和夫が言うところの「資本主義の終焉」がある。資本主義がある日突然にバタッと倒れるという話ではなく、16世紀以来の「中心」が「周辺」=フロンティアを貪り食って自己増殖を遂げてきた資本主義というシステムは、もはや地球上にフロンティアが残されていない以上、ゆっくりと、しかし確実に「死期に近づいて」行かざるを得ない、ということである。

米国に限らず欧日を含むどこの資本主義大国も、辺境から奪ってきた富の一部を自国の労働者にも分配し、また投票権も与えて政治参加に道を開くなどして中間層を育て、不満が爆発しないよう囲い込んできたのだが、もはやそのゆとりを失い、それでも自己増殖をし続けなければならない宿命ゆえに、なんと、せっかく育ててきた自国の中間層を食い物にし始めた。そのためどこでも社会的なストレスが激増し、それに乗じて右翼が台頭し、移民が諸悪の根源であるかに言われて排撃されるようになった。

世界中がそうなのだから、資本主義の盟主=米国でどこよりも激しいストレスが生じるのは当然で、トランプはその分解し没落する中間層の不安と怒りを上手に煽って集票に利用した。

本来、中・低所得の、特に労組に組織された労働者層は民主党の最重要基盤であったが、いつしか同党は(必ずしも富裕層とピッタリ重なるわけではないが)経営者、弁護士、学者、シンクタンク研究者、NPO指導者などいわゆる「知的エリート層」中心の党とみなされるようになり、昔からの基盤を重視しなくなっていた。そこをトランプにつけ込まれたのである。

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