中国製の星条旗を手に「おまじない」を叫ぶ米国民の不幸。もう「アメリカン・ドリーム」は二度と戻らない

 

トランプを指導者に選んでしまったアメリカ国民の責任

もちろん、仮に民主党がその層に目を向けたとしても、「資本主義の終焉」というのは歴史的=構造的、文明論的な大問題であって、選挙目当てに口当たりのいいことを言って済まされるような話ではない。

しかもそれは、数世紀に及ぶ資本主義世界の変転を突き動かしてきた「覇権システム」の終焉という問題にも直結する。覇権システムの最後の姿が東西冷戦体制で、それは、第2次世界大戦で欧州では勝者の英仏も敗者の独伊も等しく瓦礫に埋もれてしまった中で、その西と東の辺境に生き残った米国とソ連がそれぞれの陣営を率いる盟主となって睨み合うという二重覇権の時代だった。

冷戦が終わり、ソ連の側は直ちにワルシャワ条約機構を解消したが、米国の側は当時のブッシュ父大統領が「冷戦という名の第3次世界大戦に勝利した米国は、これからは敵なしの“唯一超大国”だ」という誤った時代認識に陥り、そのためNATOの解消を拒んだだけでなく、その後これを東方に拡大する戦略を採った。それが今日のウクライナ戦争にまでつながる難問の数々を生んだのである。

で、トランプのアメリカ・ファースト、MAGAというのは、このブッシュ父の“唯一超大国”論の焼き直しであって、米国は「世界No.1であって当たり前で、それがそうなっていないのは誰かが悪いからだ」と敵を外に求め、そこに憎しみを集中的にぶつけることで自分が蘇るかの幻覚に浸る態度である。

こんなことをいくら繰り返しても憎しみが膨らむばかりで何の問題解決にもならない。本当はここで共和・民主両党はそれこそ超党派の議論を成熟させ、「米国を“超”のつかない(と言うことは軍事力をやたら振り回して他国に命令するような態度をやめて)、それでもまだ十分に世界最大の経済大国へと軟着陸させる方策」を落ち着いて議論することが必要である。

これを一言で表せば、米国のポスト冷戦時代への不適応という世界中にとっての大迷惑を取り除くという問題なのだが、米国民はそれとは一番縁遠い人を指導者に選んでしまった。

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