それ以前に危険なキンシャサ市民のパニック
しかし、それ以前に、政府の情報発表によるキンシャサ市民のパニックも危険です。そのため、カンバ保健相は最新データも把握していたのに、あえて発生当初の古いデータの数字を言ったのか、それとも最新データを知らなかったのか、その辺のことは分かりません。ただ、1つだけ言えることは、カンバ保健相の「われわれは最大限の警戒態勢を敷いている」という言葉が、現地の「感染者の大半が設備の整っていない地元の開業医で診断や治療を受けている」という実態とは大きくかけ離れている、という現実です。
実際、現地メディアの報道によれば、今のところ現地の医療関係者は「亡くなった人の遺体には触れないように」という警告をしているだけなのです。まだ、感染の流れどころか、細菌かウイルスかさえも分からない状況なので、有効な対応ができないのは仕方ありませんが、これでは首都への流入も時間の問題のように思えてしまいます。
今年4月からコンゴで5歳以下の子どもと妊婦を対象に無償の医療活動を行なっている非営利団体「マバディリコ(スワヒリ語の「チェンジ」の意味)」の代表理事、土井直恵氏は、感染者のうち死亡しているのが幼い子どもに集中している点を「警戒している」と述べました。そして、もしも首都キンシャサで流行すると「世界規模で病気が広がってしまうのでは」との懸念を示しました。
コンゴでは半世紀前の1970年、サルやウサギやリスなどのウイルス性の感染症「エムポックス(サル痘)」のヒトへの感染が初めて報告され、以降、ヒトへの感染が世界各国へと広がって行きました。日本では2年前の2022年に初めての感染者が見つかり、現在までに252例の感染が報告されており、死亡例も報告されています。そんな「エムポックス」ですが、コンゴでは昨年2023年から感染者が急増しています。昨年だけでも1万4,000人以上が感染し、そのうち約650人が死亡しました。今年になってからも感染は拡大し続けています。
コンゴの医療機関は、この「エムポックス」と戦いながら、さらに新たな「疾病X」との戦いを強いられることになったのです。それも、致死率が5%以下の「エムポックス」と違って、まだ正体の分からない「疾病X」は、現時点では致死率50%なのです。
致死率の高さと言えば、感染の発見が遅れると90%が死亡する「エボラ出血熱」が有名ですが、このウイルス性感染症の名前は、1976年にコンゴのエボラ川の沿岸の村や町で初めて感染爆発したことに由来します。この「エボラ出血熱」もまた、アフリカのコウモリの感染症だったウイルスが、ヒトにも感染するように変異したことが始まりと見られています。
この記事の著者・きっこさんのメルマガ









