今年のノーベル平和賞を受賞した日本被団協。授賞式で田中煕巳さんが語ったスピーチは多くの人々の心に響きました。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で健康社会学者の河合薫さんも、そのスピーチに込められた思いを受け止め、日本政府の対応について怒りがわいてきたと語ります。
核なき世界と戦争のない世界
昨夜(10日)、ノルウェーで日本被団協のノーベル平和賞受賞式が行われました。田中煕巳さんの世界に向けたスピーチは心の奥底に響きました。言葉一つ一つに込められた思いが、とてつもなく重く、切なく、熱く、未来を見据えた優しさに溢れていて。数年前に広島の原爆ドームを訪問した時に目にしたシーンが鮮明に思い出されました。
みなさん遠い道のりでお疲れになったことと思います。帰国なさった後も、お元気にお過ごしになることを心から祈るばかりです。
一方で、スピーチで語られた日本政府の被爆者への対応には、日本人として恥ずかしく、そして、なんとも言葉にし難い怒りが湧き立ちました。政府は被爆者を差別し、排除し続けた。この現実こそが、今を生きる日本人が向き合わなければならない現実です。
授賞式の当日、衆議院の予算委員会で石破首相は、来年3月の核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加に「正式に参加することは極めて困難だと思っている。北朝鮮や中国、ロシアと核を持った国々に取り囲まれた状況で拡大抑止を否定するという考え方は持っていない」と述べました。
石破首相は、石破茂という「ただの人」としても、同じことを言うのでしょうか。
思い返せば、09年にプラハでオバマ大統領は(当時)、「核兵器のない世界の平和と安全」を追求すると誓い、その年のノーベル平和賞に選ばれました。
「核兵器のない世界の話を聞き、実現不可能と思え る目標を設定することに価値があるのかという疑問を持つ人もいます。しかし、そうした考えの行き着く先は分かっています。私たちが平和の追求を怠るときには、永久に平和をつかむことはできません」
「過去に核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として、米国には行動する道義的責任があります。米国だけではこの行動で成功を収めることはできませんがその先頭に立つことはできます」ーー。
これらはオバマ大統領のプラハでの演説の一部です。オバマ大統領は、ロシアのメドベージェフ大統領とともに、両国の核兵器の新たな削減に向けて交渉をすすめていたのに。10年にカナダで開催された主要8ヵ国首脳会議でも、全核保有国に核軍縮に向けた努力を求めていたのに。「オバマ政権」は臨界前核実験を行いました。
識者たちは「アメリカを守るのが大統領の仕事。核兵器削減と両輪でやるのは極めて難しい」と言っていましたが、核兵器なき世界は夢物語なのでしょうか。
「核兵器では絶対に命や財産を守ることができない」と田中さんは訴えます。
「防衛とは、領土を保つことではない。人々の命を大事にし豊かにすることだ」と。
本当にその通りだと思うのです。
これって会社を守るために人員削減したり、長時間労働させたりするのと同じです。「人間の業」の何が、こんな社会、こんな会社、こんな現実にしてしまったのでしょうか。
映画『オッペンハイマー』では、研究者たちの葛藤が描かれていましたが、研究者たちは、今、この世界をどう考えているのでしょうか。
かつてイギリスのマーガレット・サッチャー大統領は「核のない世界より、戦争のない世界がいい」として核保有を決断したとされていますが、核がないと戦争はなくならないのでしょうか。
「私」たち一人一人が、自分の頭で考える必要があると思うのです。昨夜のスピーチを聞き逃した方は、ぜひ、全文を聞いてみてください。
みなさんのご意見も、お聞かせください。
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