日本中に衝撃が走った中山美穂さんの突然死。その死因について所属事務所は「入浴中に起きた不慮の事故によるもの」と発表しましたが、ヒートショックの可能性も指摘されています。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、ヒートショックについて詳しく解説。効果的な予防法を紹介するとともに、その元凶についても考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「ヒートショック」注目 年間2万件 交通死亡事故数の約7倍 若者も要注意 日本の住宅の低い断熱性能も問題
中山美穂さんの死去で「ヒートショック」注目。年間2万件、交通死亡事故数の約7倍という現実
寒い季節に入り、入浴中の突然死リスクが高まっている。この現象は「ヒートショック」と呼ばれ、高齢者に多く見られる。中山美穂さんの不慮の事故も入浴中のものとされ、この問題の深刻さが再認識させられた。
ヒートショックは急激な温度変化が原因。寒い脱衣所で血管が収縮し血圧が上昇、熱い湯に浸かると血管が急拡張し血圧が低下する。この急激な血圧変動が心臓や脳に負担をかけ、深刻な健康被害を引き起こす。
日本では年間約1万9,000人が入浴中に亡くなっており、これは交通事故死の約7倍に相当。特に冬季に多く、65歳以上の高齢者が最もリスクが高い。
予防策としては以下が有効。
- 脱衣所や浴室を事前に暖める
- 湯温を38~41度に設定し、入浴時間を10分以内にする
- 入浴前にかけ湯をし、ゆっくり浴槽に入る
- 食後、飲酒後、薬服用後の入浴を避ける
- 入浴前に水分を摂取し、家族に一声かける
特に注意が必要なのは、高齢者や高血圧、糖尿病、動脈硬化、不整脈、肥満などの持病がある人。これらの対策を実践し、安心して入浴できる環境を整えよう。家族や周囲の人々も、高齢者の入浴時には声かけや見守りを心がけることが大切になってくる。
交通死亡事故数の約7倍という統計も
ヒートショックによる死亡事故は、交通事故を大きく上回る。
東京都健康長寿医療センター研究所の調査によれば、入浴中の急死者数は年間約1万7,000人と推計(*1)。これは2022年の交通事故死者数(2,610人)の約6.5倍にあたり、一部の推計では年間2万人以上、交通事故死の約7倍に達するとされている(*2)。
ヒートショックは急激な温度変化が原因で血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす危険な現象。特に冬季に多発し、12月から1月の寒い時期には8月の11倍もの発生率に達す(*3)。また、65歳以上の高齢者が最も影響を受けやすいことが分かっている。
この問題が見過ごされてきた背景には、ヒートショックへの認識不足があある。「自分には関係ない」と考える人が多い一方で、寒さを受け入れてしまう意識も調査で明らかとなっている(*4)。
さらに、ヒートショックのリスクや予防策についての情報が十分に共有されておらず、多くの人が適切な対策を知らない現状にある。
一方、ヒートショックは高齢者に多い問題として認識されているが、実際には年齢に関係なくリスクがある。この誤解により、若年層や中年層での予防意識が低い傾向が(*5)。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
日本気象協会と東京ガスによる「ヒートショック予報」も登場
ヒートショックは高齢者だけでなく、若者にも起こる可能性がある。特にスマートフォンを見ながらの長風呂や10度以上の急激な温度変化にさらされる場合、飲酒後の入浴や食事直後の入浴には注意が必要だ。
そのため、入浴時間は10分程度を目安にしたり(*6)、スマートフォンの使用を控え、長風呂を避けなどの対策が求められる。
そして湯温は41度以下に保つとともに入浴前後にコップ1杯の水を飲んだり、脱衣所や浴室を事前に暖めること、かけ湯をして体を徐々に温めるなどが必要となってくる(*7)。
日本気象協会と東京ガスが共同開発した「ヒートショック予報」というものがある。天気予報専門メディア「tenki.jp」で提供されている(*8)。10月1日から3月31日までの冬季期間に提供され、気象予測情報をもとに家の中で生じる温度差などから算出されたリスクの目安を提供。
このサービスを利用することで、天気予報を見る感覚で日々のヒートショックのリスクを簡単にチェックできる。ただし、個人の住環境や体調によって実際の影響は異なるため、リスクが低く表示されていても油断せず、適切な予防対策を心がけることが重要だ。
全国の市区町村別(約1,900地点)で7日先までの予報を確認でき、リスクの目安を「油断禁物」「注意」「警戒」の3段階で表示される。
あまりに低い住宅の断熱性能。ヒートショックの元凶
冬季に室温が十分に保たれない住宅では、循環器系疾患のリスクが高まることが指摘されている。世界保健機関(WHO)は、健康被害を防ぐために室温を18℃以上に保つことを推奨しているが、日本の住宅の多くはこの基準を満たしていない(*9)。
全国の冬の室温を調査したところ、18℃以上を維持している住宅は1割にも満たないという結果が出ている(*10)。
日本の住宅の断熱性能は、先進国の中でも最低レベルとされている。多くの家庭では、特定の部屋だけを暖める「間欠暖房」が主流であり、家全体を暖める「全室暖房」が一般的な欧米諸国とは対照的(*11)。
さらに、日本では暖房の設定温度が諸外国より高い傾向があり、これは断熱性能の低さを補うためと考えられる。
断熱性能が低い住宅では、部屋間や上下の温度差が大きくなる。この温度差は、快適性を損なうだけでなく、健康にも深刻な影響を及ぼす。例えば、窓や壁に結露が発生しやすくなり、それがカビやダニの繁殖を招く。
これにより、アレルギーや喘息、アトピーといった健康問題が引き起こされる可能性がある(*12)。
1997年のジャカルタ宣言で、WHOは健康を左右する要因として「平和」「住居」「教育」の3つを挙げている。しかし、日本では「住まい」と「健康」の関連性への理解が十分に進んでおらず、断熱性能の向上が遅れている。
真冬でもヒートショックの心配がなく、Tシャツ1枚で家中を歩き回ることができ、スッキリと布団から出られる家。このような住宅性能が日本でも求められる。
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■引用・参考文献
(*1)「浴槽での死亡件数「年間2万人以上」ヒートショックは“寒い脱衣所”だけでなく“熱い湯船”にも注意【ひるおび】」 TBS NEWS DIG 2024年12月9日
(*2)不破雷蔵「戦後の交通事故発生件数・負傷者・死者数をさぐる(2024年公開版)」Yahoo!ニュース 2024年1月5日
(*3)「ヒートショックの恐るべき実態」日本ガス石油機器工業会
(*4)未来をまちづくるPLT「冬本番、生活者に『室内温度と健康に関する意識調査』を実施 『ヒートショック対策をしている』人は3人に1人 但し、根本的対策がとれている人は1割以下」パナソニックホームズ 2024年1月24日
(*5)未来をまちづくるPLT
(*6)「ヒートショックに注意!寒さ本格化で対策は?スマホで長風呂もリスク」NHK首都圏ナビ 2024年11月7日
(*7)「『ヒートショック』に気をつけよう!!」西条市 2021年11月4日
(*8)「日本気象協会と東京ガスが共同開発した『ヒートショック予報』を天気予報専門メディア『tenki.jp』で提供開始」TOKYO GAS 2017年10月2日
(*9)「暖房の設定温度は何度?上げても寒いのには原因がある!」断熱リフォームの匠 2024年12月10日
(*10)「高断熱で暖かい家での暮らしによる医療費の低減と健康寿命の延伸効果を定量化」SCIENCE TOKYO 2024年10月31日
(*11)「日本の家は『採暖』、欧米の家は『暖房』」家づくりの教科書 2023年9月16日
(*12)「低気密・低断熱住宅では、アレルギーや喘息のリスクが高くなる」『高性能な』住まいの相談室 2021年2月20日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年12月15日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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