フジテレビ単独のCM差し替えという「前代未聞」
ACジャパンは、日本の公共広告の歴史において重要な役割を果たしてきた。
昭和天皇崩御時の1989年1月7日には、公共広告機構(現ACジャパン)のCMが多く放送された。崩御後、民放各局は特別報道体制に入り、CMの放送を自粛。その後、テレビ局やスポンサーの判断により、通常のCMがACジャパンの広告に差し替えられた。
また、東日本大震災時の2011年3月11日以降も、ACジャパンのCMは同様の役割を果たした。震災直後から3月19日までの間に放送されたACジャパンのCMは19,972本に上り、これはトヨタ自動車の年間CM放送本数(約2万本)に匹敵する規模だった。
一方、米国のアド・カウンシル(Ad Council)は1942年の設立以来、国家危機管理と密接に連携した広告戦略を展開してきた。
特に2001年の9.11同時多発テロ発生時には、発生から72時間以内に「I Am an American」という国民統合を促すメッセージ広告を制作し、全米で放送された。
しかし、日本では、災害時以外の緊急対応プロトコルがACジャパンと民放局の間で公式に確立されているとは言えない。東日本大震災時にACジャパンのCMが大量に放送されたのも、事前のプロトコルに基づいたものではなく、民放局の広告枠調整による対応だった。
そういう意味で、テレビ局の不祥事というフジテレビ単独のCM差し替えという点では、まさに前代未聞の出来事だった。
▽米アド・カウンシル(Ad Council)
- 1942年に設立された非営利組織で、公共サービス広告(PSA)の制作・配布・宣伝を行う
- 設立の背景には第二次世界大戦があり、当時の大統領フランクリン・ルーズベルトの要請で誕生
- 広告代理店と提携し、プロボノで社会問題に関する広告キャンペーンを制作している
- 33,000以上のメディア機関とネットワークを持ち、寄付された時間と場所で広告を配信している
- 年間約18億ドル相当の広告枠の寄付を受けており、米国最大級の広告主の一つに相当する
- 社会問題への一般市民の関心を高め、特定の問題に対する市民の態度を変えることを目的としている
- キャンペーン後には必ずROI(投資収益率)調査を行い、効果を測定している
- 「Smokey Bear」(森林火災防止)や「Friends Don’t Let Friends Drive Drunk」(飲酒運転防止)など、多くの有名キャンペーンを展開してきた
- 2020年にはCOVID-19パンデミックに関する啓発活動を行い、2021年にはワクチン教育イニシアチブを開始した
- 非宗派的、非党派的な問題で、全国的な関連性があり、コミュニケーションが測定可能な変化をもたらす問題に焦点を当てている
著名タレントを起用しないCMも多い欧米で広がる認識
今回の騒動を受け、中居が契約していたソフトバンクに加え、年明けには泥酔問題を起こした吉沢亮のCMも差し替えられた。
日本の広告業界では、タレントを前面に押し出したCMが主流だが、この手法には多くの課題がある。タレントの知名度や人気を活用することで短期的な効果は得られるものの、キャスティング費用が高額になりやすいというリスクがある。
また、タレントがスキャンダルや不祥事を起こせば、企業のブランドイメージにも深刻な影響を与えかねない。近年、ソーシャルメディアの発達により、タレントの言動や私生活が瞬時に拡散されるリスクも高まっている。
さらに、タレントのイメージに依存しすぎると、商品の特徴や価値が十分に消費者へ伝わらないことも多い。
一方、海外、特に欧米の広告業界では、日本とは異なるアプローチが取られている。欧米では、著名なタレントを起用しないCMも多く、商品やブランドメッセージ、キャラクターに焦点を当てた表現が主流である。
これは、ブランドの世界観や商品の特性を長期的かつ一貫して伝えることを重視しているためだ。また、欧米の消費者はメディアリテラシーが比較的高く、タレントの起用だけでは商品の魅力を十分に伝えられないという認識も広まっている。
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