世界中に驚きをもって伝えられた韓国ユン大統領「非常戒厳」宣布と「逮捕」のニュース。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、ユン大統領の「弾劾」について「北朝鮮からの指令があった」とするユン大統領側の弁護士が明らかにした「証拠」について言及しながら、同じく北側から「福島原発の処理水のと関連させて、韓国の反日世論を煽れ」との指示も出ていたことを紹介しています。
韓国の大統領「弾劾」は自由民主主義と法の支配を守るための戦いでもある
韓国の尹錫悦大統領が出した「非常戒厳」をめぐり、罷免の可否を判断する弾劾裁判の最終弁論が先月25日、憲法裁判所で行われた。審判は双方の主張が平行線のまま結審し、憲法裁の判断は3月中旬にも示されるとの見方が出ている。
野党議員らで構成する追訴団は尹大統領が憲法の定める要件に違反して非常戒厳を出したなどと指摘、「民主主義と法治主義の基本原則に対する破壊行為だ」「国民が命を懸けて守ってきた憲法秩序をふみにじった」と強調し、尹大統領の罷免を求めた。
これに対し尹大統領はこの日の意見陳述で「巨大野党の弾劾追訴の乱発などで国政がまひし、国の危機を放置できないとの切迫」から非常戒厳を出したと主張した。
私は韓国留学中に朴正熙大統領と全斗煥大統領の戒厳令宣布を体験しているが、二人の戒厳令に共通するのは「北朝鮮からの脅威」=「反共主義」にあった。
今回の尹大統領の場合はどうだったのか。
尹大統領は対国民特別談話で、
「これまで国会は、政府発足後22件の政府官僚弾劾追訴を発議し、現在まで約178回に及ぶ大統領退陣・弾劾集会が開かれた。
野党代表を裁判する判事を脅かし、多数の検事を弾劾するなど司法業務を麻痺させ、行政安全部長官の弾劾、放通委員長の弾劾、監査院長の弾劾、国防長官の弾劾などの試みなどで行政府まで麻痺させている。
今、韓国の国会は犯罪者集団の巣靴となり、立法独裁を通じて国家の司法行政システムを麻痺させ、自由民主義体制の転覆を図っている。
私は北朝鮮の共産勢力の脅威から自由大韓民国を守り、国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に排除しようと、やむを得ず非常戒厳を宣布する」
とした。
その後の尹大統領の訴追に至る経緯は異例であった。国会は2024年12月14日に弾劾訴追案を可決し、同氏の職務を停止させた。
その後、高位公職者犯罪捜査庁と検察が内乱容疑で捜査を進め、ソウル西部地方裁判所が逮捕令状を発行、25年1月15日に捜査当局が大統領公邸で尹大統領を拘束した。
この一連の手続きに関しては不法で違和感のある要素があまりにも多いとの指摘がされた。
尹大統領の弁護団は逮捕令状の発行や拘束執行が「違法かつ無効」であると主張し、検察や裁判所が政治的圧力に屈した可能性を指摘している。
そもそも公捜庁には捜査の権限がなかった。さらには異例の速さで拘束に踏み切ったことや裁判所が令状発行の根拠を明確にしなかったことなど問題は多かった。
私がソウル滞在中にホテルの眼前で繰り広げられている尹大統領の支持派の集会にこっそり入り込んで聞いたが、みな口々にこの弾劾裁判は「違法」だと語気露わに語っていた(当然のことと言われればそれまでだが)。
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さらに韓国から帰ってきた翌日の2月20日の尹大統領弾劾審判の弁論で公開した控訴状に「弾劾は北韓(北朝鮮)の指令によるもの」という証拠が付されていることは大きなインパクトを呼んだ。
尹大統領側の金柱里弁護士が明らかにした控訴状内容によると「尹錫悦と一族、側近たちの政治醜聞と不正腐敗行為に執拗に食い下がり、法的処罰を要求する圧迫攻勢を持続的に強化し、尹錫悦弾劾闘争の火種を作り、第二のロウソク抗争の時のような大衆的な抵抗の機運を醸成せよ」という指令を下したのだという。
さらに日本の福島原発処理水の放流と関連させながら(北朝鮮は処理水ではなく汚染水と言っている)、反日世論を煽るように指示した北朝鮮側は「日本との葛藤を、取り返しのつかない状況へ追い込むようにせよ」との指示も出したという。
金弁護士は「ここ数年間、韓国社会の葛藤がすべて民主労組スパイに通達された北朝鮮指令文に含まれていることが確認された」と明らかにしたが、今回の弾劾追訴裁判は尹大統領個人を超え、韓国の自由民主主義と法の支配を守るためのものでもある。
私は、尹大統領を支持する隊列の中にいた老人の「尹大統領が戒厳令を通じ国家の体制危機に直面していることを示したんだ」との話に頷いた。
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