会社や組織においてしばしば問題となる世代間のギャップ。全体の成長を妨げかねないこの軋轢は、いかにして解消すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、自身も経験した「世代間ギャップ」を綴るとともに、その解決のため殊に年配世代が取り組むべき課題を提示しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:世代間ギャップについて
プロフィール:辻野晃一郎(つじの・こういちろう)
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。
世代間ギャップについて
今週は、「気になったニュースから」という本コラムの主旨からは少し外れますが、先日、「世代間ギャップの乗り越え方や、組織風土改革、組織の作り方などについて講演して欲しい」という依頼をいただき、大手企業の幹部社員や若手社員の方々にお話をする機会がありましたので、ここでも取り上げておきたいと思います。
ChatGPTからのシンプルで明快な回答
最近では、何をするにも生成AIとやり取りしながら考えたり行動したりするのが習慣になりましたが、本講演の準備をするにあたっても、まずGPT-4oと簡単なやり取りをしてみました。
<プロンプト>
組織作りにおいて、世代間ギャップが課題です。注意点と解決法について簡潔に教えて。
<回答>
■注意点
- 価値観の違い – 若手は柔軟性や働きがいを重視し、ベテランは経験や安定を重視する傾向がある。
- コミュニケーションのズレ – デジタルツールの活用度や報連相のスタイルが異なる。
- キャリア観の違い – 終身雇用を前提とするか、多様なキャリアを重視するかで意見が分かれる。
■解決法
- 相互理解を促す – 定期的な世代間の対話の場を設け、お互いの価値観を共有する。
- 柔軟な働き方の導入 – リモートワークやフレックスタイムを活用し、各世代の働きやすさを考慮する。
- ハイブリッドなコミュニケーション – 直接の対話とデジタルツールの活用を両立させ、情報共有の方法を最適化する。
- メンター制度の導入 – 若手とベテランがペアを組み、お互いの強みを活かせる環境をつくる。
これらを意識することで、世代間ギャップを乗り越え、より強い組織を作ることができます。
まさに、組織作りや組織風土改革において、世代間ギャップが課題である場合の注意点と解決法を端的に整理した回答だと感じます。
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
OK, Boomer!
世代間ギャップといえば、“OK, Boomer!”というセリフをご存じでしょうか?2019年に、ニュージーランドの議会で気候変動リスクに関してスピーチをしていた20代の若い女性議員が、ヤジを飛ばす年配議員を軽くいなしながら発したこの一言が世界中に拡散されて大流行語となりました。そのセリフを引用したTシャツなど、さまざまなグッズも出回りました。
【関連動画】“OK, boomer”: 25-year-old lawmaker shuts down heckler during climate speech (27秒あたり)
年配世代が若者に対して上から目線で見下した態度を取ったり、訳知り顔で批判したりするのは、特定の国に限った現象ではなく世界共通ということなのでしょう。“OK, Boomer!”とは、そのような態度にうんざりした若者たちが、上から目線の年配者に対して、「うざいなー、はいはい、わかったわかった、もういいよ、自分たちは気にせず前に進むから、ほっといてね」というような反撃の気持ちを込めて爽やかに相手を冷笑するセリフとして、若者に限らずそれこそ世代を超えて共感を呼び大受けしたのです。
すなわち、“OK, Boomer!”とは、気候変動リスクなど、未来の諸問題について根本的な対策を先送りにしながら上から目線の発言を続けるブーマー世代に対し、いわゆるミレニアル世代やZ世代の若者たちは、そうした無責任な世代が自分たちの未来を危うくしていると感じ、彼らが何を言おうが構わず行動を起こす、という宣言でもあります。
そこまで深刻ではなくても、スマートフォンやSNSにハマったライフスタイルや、服装、髪型、性別などに関するオジサンやオバサンの小言を“OK, Boomer!”の一言でスルーする動画が、TikTokなどに溢れました。
ちなみに、世論調査機関による2019年の調査によると、ブーマー世代は1946~64年生まれ、ミレニアル世代は1981~96年生まれ、Z世代は1997以降生まれの世代とされており、その間に1965~80年生まれのX世代もあります(図1参照)。
図1:PEW Research Centerによる各世代分類
ソニーやグーグルでの経験
私も、ソニーに勤めていた時には、年配社員の人たちへの対応にはいろいろと苦労した経験があります。前にも紹介したことがありますが、そんな時にいつも背中を押してくれた言葉に、創業者の一人、井深大さんの「上司に反対されたくらいで止めるのなら最初からやるな」という言葉がありました。
ソニーは、もともと「人がやらないことをやる」ということに対するこだわりが強い市場創造型の企業だったのですが、それでも新商品開発や新しいマーケティングチャレンジなどを進めようとすると、心無い言葉を浴びせてくる上司や先輩社員、役員などがたくさんいました。
当時は、“OK, Boomer!”のような気の利いた言葉はありませんでしたし、さまざま足を引っ張ってくる人たちを撃退するのは簡単ではありませんでしたが、私の場合は上記の井深さんの言葉にずいぶんと助けられた気がします。それ以来、何事につけ、自分がやろうとすることに対してネガティブな忠告をしてくる人たちは、自分の本気度を試してくれているありがたい人たちなのだ、という風に受け止めることにしています。
なお、今でも、自分よりも年配の人たちから、こちらの意見をあまり聞こうとはせずに自説を押し付けられるような話し方をされることがあります。そういう時には、顔ではニコニコしながら、心の中では“OK, Boomer!”と言っています(笑)。
これも以前に紹介したことがありますが、グーグルには、Googleyness(Googliness)という言葉がありました。グーグルの企業文化として、世代の違いを始め、価値観やスタイルなど、さまざまな違いを超えて、誰とでも率直かつフェアにコミュニケーションする能力が尊重されていました。「イノベーションは普段のコミュニケーションから生まれる」という信念で、ことさらにコミュニケーションの重要性が語られ、コミュニケーションを活性化するための施策や職場環境に腐心している会社でした。
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
ブーマーと言われたくなければ生涯学び続けよう
論語に、「学べば則ち固ならず」という教えがあります。つまるところ、世代を超えて大切なことは、「常に学ぶ」という姿勢なのだと思います。学び続けていればいつまでも頭を柔らかく保つことが出来、逆に学びを止めてしまうと頭が固くなる、ということです。
最後に、先の講演でそのことを説明するために作った資料を添付して終わりにします(図2)。幾つになっても、周囲からブーマーと思われるような存在にだけはならないようにしたいものです。
図2:「学べば即ち固ならず」
(本記事は『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2025年3月28日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください)
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
辻野晃一郎氏の新シリーズ「ドナルド・トランプ氏は何をしようとしているのか?」好評連載中
メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』で1月から、新シリーズ「ドナルド・トランプ氏は何をしようとしているのか?」がスタートしました。
日本のメディア報道はトランプ氏批判に極端に偏っており、その結果「予測不能で危ない男」「唐突に何をしでかすかわからない狂人」といったイメージが広まっているのが現状です。しかし、これはまったく誤った認識であると辻野氏は指摘します。
辻野氏自身、かつてはトランプ氏に嫌悪感を持っていましたが、いろいろと勉強し直した結果、今では考えをすっかり改めたと言います。イーロン・マスク氏と政府効率化省(DOGE)の狙いは何なのか?国際開発局(USAID)はどんな問題を抱えているのか?など、トランプ2.0革命の本質について毎号、信頼性の高い分析を配信中です。
頭の切り替えができない、残念なビジネスパーソンにならないために。あなたも「辻野晃一郎の情報リテラシー」を手に入れませんか?ぜひ一度ご自身の目で、メルマガ本文をお確かめください。
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com