2017年2月に発覚した森友学園事件を巡り、先日ようやく一部が新たに開示された関連文書。しかしそれは「肝心な部分」が欠落した、不十分と言わざるを得ないものでした。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、NHKによる注目すべき2つのスクープを紹介。その上で、この国の政治が今なお「安倍忖度症候群」に陥っているとして厳しく批判しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:森友学園事件から8年、ようやく扉が抉じ開けられた元首相夫妻の犯罪/それだけではない安倍の負の遺産の数々
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
森友学園事件など氷山の一角。安倍晋三という“不出来な首相”の負の遺産が阻む日本の成長
4月4日に極一部が開示された森友学園事件の財務省記録文書について、最も熱心に精査・分析・追跡しつつあるのはNHKで、22日の『クローズアップ現代』では「ウソにウソを……森友学園、新文書と新証言」と題して幾つかのスクープを繰り出した。特に注目すべきは次の2つ。
第1は、今回開示された2,255ページの文書の通しページ番号を調べると途中の75ページ分が欠如していて、その中でも特に数ページ分が続けて抜けている部分を事件年表と照らし合わせると、共通して、安倍晋三首相と昭恵夫人やその秘書、鳩山邦夫など有力政治家が直接関与している場面が含まれていると思われる期間であることが判明した。
第2に、国有地が当初査定額9億5,600万円から8億1,900万円プラスアルファを差し引いた1億3,400万円という破格の安値で森友学園に払い下げたことが事件の核心である。その理由とされたのは、敷地の3メートル以下の深いところに大量のゴミが埋まっていることが判明したため、その撤去費用を国が負担することにし、その分を差し引いて森友に払い下げることになったことにある。ところが驚いたことに、この「深いところからゴミが出てきた」というのは事実でないことを、当の工事を担当していた藤原工業の社長や社員が堂々とインタビューに応じて証言したのである。
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効果は抜群。昭恵夫人と籠池夫妻が1枚に収まった写真
22日の『クローズアップ現代』は「NHK+」でオンディマンド視聴できるので、見逃した方は観て頂きたいが、上述第1の「75ページ分の欠落」についてはNHK NEWS WEBの4月22日付の記事「森友学園開示文書 欠落部分は“政治と接点あった時期”」でも確かめることができる。
また、『週刊文春』5月1・8特大号の相澤冬樹「再び“改ざん”か? 森友開示文書に73個の欠落」も同じことを追及しているので、重ね合わせると一層謎が深まる。
(1)P.46~49の欠落
【NHK】前後関係から2014年4月18日~5月12日ごろと見られるが、これは、籠池が近畿財務局員に昭恵夫人と一緒に撮った写真を見せて、「夫人からは『いい土地ですから前に進めてください』とのお言葉を頂いた」と伝えた4月28日を含む時期である。
【相澤】14年4月、昭恵が森友学園の籠池夫妻との問題の国有地前でスリーショット写真を撮った。3日後、籠池が近畿財務局で写真を示すと、前西勇人=統括国有財産管理官(統括官)は「上司に見せる」と言ってコピーを取った。この後、財務省の対応は交渉打ち切りから継続へ急変した。
(2)P.168~171の欠落
【NHK】鳩山邦夫=元総務大臣の秘書が近畿財務局を訪れ、森友学園に示された国有地の貸付料について「できることがあれば検討してほしい」と相談した2015年2月17日ごろと重なっている。
【相澤】言及なし。
安保国会の山場に日帰りで大阪を訪問した安倍氏の不可解
(3)P.292~295、297~299の欠落
【NHK】2015年9月4日~10月20日頃に当たり、籠池側が北川イッセイ=国交副大臣に対し「国有地の整備のために国に代わって立て替えた費用を早く支払ってほしい」と申し出た時期である〔このNHK説明は9月4日前後の安倍夫妻の動向を見ておらず、ピンボケ。次の相澤が冴えている!〕。
【相澤】15年9月4日、近畿財務局で工事事業者や設計業者との打ち合わせが行われ、直前に土地改良工事で出てきたガラス片などのゴミの処理について相談。撤去には予定外の費用がかかるので、財務局側は「埋め戻し」を指示した。この前後には焦点となる出来事が目白押しだった。
- 9月3日、安倍が財務省の迫田英典=理財局長と面談。
- 9月4日、安保法制の国会審議が山場だったにもかかわらず安倍が日帰りで大阪訪問。公明党の故・冬柴鉄三=元国交相の次男と会食。その後、次男の勤め先だったりそな銀行が森友学園へ小学校の建設資金を融資している。
- 同日、昭恵が奈良学園大の梶田叡一学長と面会。梶田は森友学園小学校に条件付き認可を答申した大阪府私学審議会の会長。
- 9月5日、昭恵が森友学園で講演。その場で名誉校長に就任している。
(4)P.303~305の欠落
【NHK】2015年11月2~16日頃と見られ、昭恵付きの女性職員が、国有地の貸付料について「優遇を受けられないかと〔蓮池から?〕総理夫人に照会があり、当方からお問い合わせさせていただいた」などと財務省理財局に問い合わせた11月10日、財務省側が折り返しの連絡をした11月12日の前後を含んでいる……。
【相澤】言及なし。
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不正を疑わざるを得ない「8億円の値引き」
(5)P.419、413、307、292、174、204の欠落
【NHK】言及なし。
【相澤】元の公開文書のナンバーがなぜか飛び飛びなので分かりにくいのだが、これらのページが該当するのは順に、16年3月14日、同、3月31日、4月1日、14日、16日である。相澤の解説もまた行ったり来たりで分かりにくいので、私なりに整理すると……。
- 16年3月14日の時点では財務局は、「校舎建設に支障のない範囲のゴミ撤去費用まで国が支払うことは出来ない」と繰り返していて、籠池側はゴミを埋め戻せと指示したのは財務局だと追及した。
- 3月31日の池田靖=統括国有財産管理官と森友代理人との打ち合わせでは、
池田 「土壌改良に1億3,200万円を使っているので、それより安くは出来ない。それでも大丈夫か(買えるか)?」
森友 「ここまでという額がある」
池田 「いくらまでなら出せるのか」
森友 「1億6,000万円だ」
池田 「その範囲に収まるといいですね」
というやりとりが交わされている。開示文書にはこれにつながる直前までの会話は記録されているが、この会話そのものは記録されていない。ところが、このやりとりは森友側のメモに残されていて、検察もそれを入手している。つまり、ゴミの撤去費用を口実になんとかして森友側に払い下げてやろうという“国家意思”が働き始めたということである。 - 4月1日に池田が業者に送ったメールで、売却額が鑑定価格の約7分の1の1億3,400万円に収まったことについて、「瑞穂の國記念小学院開校に向けご協力いただきありがとうございます」と、まるで財務省が学校を創るみたいなことを言っている。
- 4月14日に国交省大阪航空局が池田に送ったメールでは、ゴミ処分費用は8億1,900万円と記している、ところが2日後の16日には校舎の設計を請け負っていた業者が財務局に対し、校舎建設に関連するゴミ処分費用は3億1,900万余だと言ってきた。それに対し航空局も財務局も、校舎部分だけでなく校庭なども含めた敷地全体のゴミ撤去には8億円余という主張を曲げず、その結果、売却額が1億3,400万円に落着したのである。
NHKが財務省から引き出した「弁明的」コメント
これらについてNHKは財務省に取材し、「検察に提出した資料から意図的に隠していることはない。国会では、廃棄をしたために欠落が生じている部分もあると考えられると答弁している。開示文書で欠落していると指摘を受けているものについては、現在、確認を行っているところで、引き続き真摯に対応していく」との弁解的コメントを引き出しているが、その後に情報公開制度の専門家である三木由希子=NPO「情報公開クリアリングハウス」理事長に次のように語らせている。
▼仮に番号が連続して欠落している文書が検察に任意提出したものの中に含まれていないということになると、政治との接点があった時期の財務省内の対応について、十分な検証に足りる資料を検察に提出していなかったのではないかという疑問が出てきます。財務省はなぜ欠落している部分があるのかをきちんと説明すべきです。
▼財務省はこの問題で学園側などとの交渉記録を廃棄していたことを認めています。2018年5月に交渉記録の一部を公表した際には、職員の手控えとして残していたものや、サーバー上に残されていたものを集めたという説明をしていて、全体像としてどのような記録を作成していたのかわからないという立場をとっています。結局、どの範囲まで交渉記録を集められたのか、集めたものをすべて明らかにしているのかを、まずは説明すべきです……。
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裏返せば検察を騙そうとしていたことになる財務省
以上から推測できることは、第1回開示の2,255ページというのは、どうも、事件当時に財務省が検察に提出した文書そのもので、その時点ですでに安倍夫妻はじめ政治家の圧力を示唆するような部分は切り取られていたのではないかということである。だから、NHKの取材に対して財務省は「検察に提出した資料から意図的に隠していることはない」という言い方で、検察に出したものと今回の公開資料とは同じものであってそこからさらに新たに削った部分はないかのように胸を張っている。
しかしそれは裏返せば、財務省は検察を騙そうとしていたということになるわけで、メディアも国会もそこを徹底的に究明して国民の眼に晒け出さなければならないだろう。
この関連文書は17万ページの紙及び電子データに上ると言われる。とすると今回はほんの序の口で、第2回は6月上旬で6,000ページと予定されているが、それを含めてもまだようやく閉ざされた扉の錠が開いたというところである。
日本を殺す安倍政治の負の遺産
森友学園事件の真相が解明されるのは結構なことではあるけれども、安倍晋三という不出来な首相がとっちらかした負の遺産は余りに沢山で、それが全体としてこの国が前に進むのを阻害しているという状況の、これは氷山の一角に過ぎない。
岸田文雄前首相がひたすら安倍に忠誠を誓って禅譲を期待するような軟弱な人物であったのは仕方がないとして、自民党内で一貫して反主流=反安倍派で反骨を通してきたと評価されてきたはずの石破もまた「安倍政治&アベノミクス」を綺麗さっぱり清算することに取り組めないでいるのは残念なことである。
森友学園事件は、安倍夫妻のお友達である籠池夫妻に首相権限を用いて恩恵を与えようとする「縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)」の醜い実例だが、同じことは、
- 彼の40年来の友達だった加計学園の加計孝太郎に獣医学部の新設を特別許可したこと、
- 同じくゴルフ仲間の日枝久=フジサンケイグループ元代表テレビと組んでお台場にカジノ・リゾートを誘致しようと企んだこと、
- 反共反中国思想の師である故・葛西敬之=JR東海元会長の言いなりに安倍が第1期トランプ政権に売り込んだ「テキサス新幹線」計画がこのほど完全破綻したこと、
など、安倍のお友達プロジェクトは死屍累々で、その後始末は国民に余計な負担としてのしかかってくるのだが、それを全部取り纏めて安倍の無駄に長いだけだった治世のツケと捉える認識は形成されていない。
国会は、旧安倍派を中心とする裏金体質の解明が進まないことが一因となって国会が無駄な時間を空費しているし、経済面でも「減税ポピュリズム」の競い合いのような瑣末に堕してポスト資本主義時代の大戦略など話題にも上らない。それもこれも安倍政治、アベノミクスの根本的な間違いを徹底総括することが出来ないが故に前に踏み出せない「安倍忖度症候群」という重病に陥っているがためである。
外交面はどうだろうか。安倍が馬鹿騒ぎを演じた挙句に北方領土交渉は対話の糸口もない断絶状態だし、北朝鮮との拉致問題も彼の「やっているフリ」で被害者・家族の方々を騙し続けるという卑劣の果てに出口を失ってしまったし、何よりも安倍の第1期トランプへのベッタリ癒着路線で一段と深まった対米従属路線が、ここへ来て第2期トランプ政権の狂乱状態に対する日本としての冷静な対応を難しくている。
何もかも「安倍が悪い」とするのは度が過ぎるとは思うけれども、今この国が陥っている障害物競走上の困難のほとんど全てに安倍の影がのしかかっているのは事実で、そこをよくよく見極めないと議論は進まない。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年4月28日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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