元タレントの中居正広氏を巡る女性トラブルで、大きな批判を浴びることとなったフジテレビ。同局を含むフジ・メディア・ホールディングスは役員人事の刷新等で危機的状況を乗り切る構えですが、そもそもなぜ今回のような問題が発生してしまったのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、その原因を徹底追求。フジテレビに限らず昨今の日本企業で不正が相次ぐ要因を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:フジ・中居問題の核心 なぜ日本企業で不祥事が相次ぐのか コンプラ違反を招く労働文化の違い 薄い日本人の法意識 求められる法化
海外には通用しない日本独自の接待文化。フジ・中居問題の核心
フジテレビ中居問題の本質は、単なる個別の不祥事を超え、日本固有の組織文化と法意識の脆弱性に起因している。この問題が浮き彫りにしたのは、たとえば「接待文化」と「空気の支配」という日本社会に根付いた特有の文化的背景だ。
報道や第三者委員会の調査によれば、フジテレビのバラエティ制作現場では、女性社員やアナウンサーが取引先や出演タレントとの関係構築のために利用される「上納文化」が存在していたとされる(*1)。
この文化は、単なる飲食や歓談にとどまらず、女性社員が意に反して接待に参加させられるなど、性別や容姿を利用した関係構築が常態化していた点で問題視された。
一方、欧米諸国では、官民問わず不透明な接待が「腐敗の温床」とみなされ、法的規制が徹底されている。
今回のフジテレビの問題に限らず、近年の日本企業で不正が相次ぐ原因は、日本人の法意識の弱さと、「空気の支配」という独特の社会的メカニズムが深く関連している。企業文化における法的規制の不徹底と、組織内での非公式なルールや暗黙の了解が、倫理的に問題のある行動を助長し、最終的に不正やハラスメントの温床となっている。
■記事のポイント
- フジ・中居問題は、単なる不祥事にとどまらず、日本の「接待文化」や「空気の支配」などの組織文化や法意識の脆弱性にも起因している
- 日本企業では職務範囲の曖昧さがあり、上司からの非公式な依頼を断りにくい文化が、日本企業特有の不祥事を招いている
- 日本人特有の法意識の薄さも問題だ。今後、グローバル化の過程で、世界標準の「法化」が求められる。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
各自の職務範囲が曖昧な日本の企業社会
フジ・中居問題についての第三者委員会の報告書は「業務の延長線上における性暴力」と認定したように、日本のテレビ業界特有の権力構造は明らかに問題であるが、しかしそれはテレビ業界に限ったことではなない。
今回の問題のような女性アナウンサーや社員が本来の業務とは無関係な接待や会合に動員される慣行は、職務の境界が曖昧だからこそ起こりやすい。
日本の企業社会では、各自の職務範囲が曖昧であるため、上司から担当外の業務を頼まれても断りにくい雰囲気が根付いている。多くの場合、「それは自分の仕事ではありません」と明言することは協調性の欠如と受け取られる。
日本の職場ではジョブディスクリプション(職務記述書)が存在しないか、あっても曖昧なことが多く、社員は状況に応じてさまざまな業務を柔軟に引き受けることが期待されている(*2)。
一方、アメリカなどジョブ型雇用が一般的な国では、職務記述書によって個人の役割と責任範囲が明確に定められている。
上司であっても部下の職務範囲を超える業務を依頼することは原則としてできず、部下も「それは自分の担当外です」と明確に断ることができる。職務記述書に記載のない業務を行っても評価されるとは限らず、他人の業務範囲に踏み込むことも慎重になる。
過度な接待を厳格に規制し違反時には重い刑事罰が科される欧米
日本の接待文化についても触れなければならない。実際、接待はビジネスやメディア業界において、「関係構築」の名のもとに根強く存在してきた。
特に、フジテレビと中居正広氏をめぐる一連の問題では、女性アナウンサーや社員がタレントや取引先との会合に同席を求められ、時には「上納」や「接待」の一環として利用される構造が浮き彫りとなった。
このような慣行は、業務の延長線上での飲食や会合が「普通」とされる日本特有の文化的背景に支えられている。しかし、この背景が現代のビジネス慣行において問題視されることも多くなってきた。
他方、こうした文化は、欧米諸国の厳格な接待規制と対照的であり、不透明な接待が「腐敗の温床」とみなされる欧米の規制環境とは大きな差異がある。
欧米では、官民問わず不透明な接待が「腐敗の温床」とみなされ、法的規制が徹底されている。アメリカの「海外腐敗行為防止法(FCPA)」や、イギリスの「贈収賄防止法(Bribery Act 2010)」などの法律は、贈収賄や過度な接待を厳格に規制し、違反時には重い刑事罰が科される(*3)。
これらの法律は、公務員だけでなく、民間企業間の取引にも適用され、過度な接待や金品の授受が不正な利益供与とみなされるリスクが高い。
相次ぐセクハラ・パワハラ・ブラック企業問題の核心
ことほどさように、一連のフジ・中居正広問題、あるいは日本企業で相次ぐセクハラ・パワハラ・ブラック企業問題の核心は、日本人の薄い法意識にある。
日本社会における法意識の薄さは、明治期に欧米から急速に導入された近代法体系と、従来の日本固有の共同体規範との間に生じた大きなギャップから生まれた。
日本社会の「和」を重視する伝統的な紛争解決慣行は、個人の権利主張を抑制し、山本七平が「空気の支配」と表現したように、集団調和が論理的な法規範に優先される社会的風土を形成してきた。
フジ・中居問題は、テレビ局という一見すると近代社会の情報伝達ツールの場となるテレビ局の場に、「義理と人情」という前近代的な日本社会の産物が持ち込まれて発生したと言ってよい。
結論として、まず求められるのは「法化」だ。「法化」とは、社会のさまざまな問題や紛争に対して、従来は慣習や非公式なルール、当事者同士の話し合いなどで解決されていた領域に、法律(制定法)や司法の仕組みが積極的に介入し、法的な規範や手続きによって解決を図る傾向や過程を指す概念である。
法教育の再構築や市民参加型のガバナンス、内部通報者保護や第三者委員会の権限強化など、多層的な制度改革も求められる。
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■引用・参考文献
(*1)「上納文化『フジテレビにはあった』と第三者委員会は断じた 中居正広氏の性暴力は『業務の延長線上』だった」東京新聞 2025年3月31日
(*2)久米功一・中村天江「日・米・中の管理職の働き方――ジョブ型雇用を目指す日本企業への示唆」日本労働研究雑誌 No.725 2020年12月号
(*3) 広瀬元康「海外腐敗行為防止法とは?各国の法規制、処罰事例、典型例など」BUSINESS LAWYERS 2023年11月06日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年4月27日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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